第2話「ワイルちゃんと」

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ミルザくん「と、いうわけでぇ・・・早速赤い糸石を探すとしますか!」
就寝時間より1時間後。既にほとんどの寮生が寝静まったその時、ミルザくんは動き出しました。
この学園のどこかに隠されているという10種類の『赤い糸石』を探し出すために。

赤い糸石を探し当てれば、今までの貧乏生活からもおさらば。
それに愛しのサルーインちゃんもゲットできるのです。
もしかしたら他の誰かも狙ってるかもしれません。
寝る間を惜しんでるわけにはいきません。絶対に糸石を手に入れる!

ミルザ君「・・・って言ってもなあ。マルディアス学園は広いからなぁ・・・」

そうです。マルディアス学園はゆうに市一個丸ごと入りそうな程の超巨大学園なのです。
この学園で2年間暮らしているミルザくんも、おそらく半分は立ち入った事もないのでしょう。
しばらくミルザくんは考えた後に、結論を出しました。
ミルザ君「くよくよ考えても仕方ないや。とりあえず慣れ親しんでいるところ・・・騎士団寮や
      クジャラート舎からぼちぼち探していくとするか!」
ミルザくんは貧乏ですが、前向きで無鉄砲、真性のM、という素晴らしい取りえを持っています。
くじけずに、頑張れ!ミルザくん!
ミルザくんは、騎士団寮の廊下を歩いていました。
他の寮生や、ハインリヒ寮長を起こしてしまわないように、
なるべく足音を立てないように、ゆっくりと。
歩きながら、ミルザくんはつぶやきました。
ミルザくん「ほんとに赤い糸石なんてあるのかなぁ・・・そもそもこの寮にはあるとは思えないけど・・・」
騎士団寮は、マルディアス学園の中でもかなり小さい区域に当たります。
それに、騎士団寮は普段からずっと使っていますし、内部構造もほぼ把握しています。
おそらく、この騎士団寮には糸石なんて無いでしょう。
ミルザ「騎士団寮には無さそうだし、クジャラート舎に行くかぁ。」



マルディアス学園の警備は比較的薄いです。
開いてる窓からクジャラート舎に忍び込みます。
暗い廊下には、人の気配はありません。
つまりは、ミルザくんの独壇場。自由に何の心配も無く探してオーケー。まさにフリーシナリオ。
ミルザくん「なーんか、ワクワクしてきたぞぉ!」
ミルザくんは声を大にしてそう言いました。
そんなミルザくんの声は、おそらく自分以外の人間の耳には入ってないことでしょう。わぁお。
ミルザくんは、足取り軽くクジャラート舎の廊下を歩き始めました。
クジャラート舎は結構広く、ミルザくんにもあまり内部構造ははっきりと把握できていません。
冒険のしがいがあります。

足取り軽く、鼻歌を歌いながら、頭の中にサルーインちゃんとの幸せな(SM)恋人生活を描きながら。
ミルザくんは歩きます。
目の前に、二手の分かれ道が現れました。
よし、どっちに行ってやろうか。左。左だ!
分かれ道を左に曲がろうとした瞬間でした。

「ここで何やってるんですかー?」

ミルザくん「うぎゃああっ!!だ、誰だ!?」
ミルザくんは慌てて後ろを振り返りました。
女?・・・小柄です。・・・可愛いらしい顔立ち・・・眼鏡をかけています。
・・・年下?
オーバードライブしかけている心臓を落ち着かせながら、ミルザくんは冷静に話しかけました。
ミルザくん「えーーと・・君は誰だい?僕はミルザ。」
女の人は上目遣いにこちらを見ながら言います。
ワイルちゃん「私、ワイルと言います。実は忘れ物しちゃって・・・今、帰る途中なんですけど、
ミルザさんはここで何してるんですか?」
ミルザくん「エッ?え、えと・・・その・・・」
ミルザくんは躊躇いました。
しかし、少し考えた後思いました。
赤い糸石の事を彼女に話した所で、別段どうってことはないだろう。
ミルザくん「実はね、『赤い糸石』って知ってるかい?この学園に隠されてるらしいんだけどさあ。
どうも、それを手に入れると、お金持ちになれるは、好きな人とは結ばれるはでうっはうはらしいんだ。
だから、それを探しにきてるの。」
ワイルちゃん「へ〜え・・・夢のある話ですねー。」
うっとりとするワイルちゃん。
ワイルちゃん「そうだ、ミルザさん!私も一緒に探させてください!」
ワイルちゃんが、唐突に言い出しました。
ミルザくん「は、はえっ?な・・・何で?」
ワイルちゃん「そりゃーもー、『お金持ちになれるっ!』『好きな人と一緒になれるっ!』そんな宝石なんて、
女の子の夢じゃないですかぁー。
あ、いやっ、奪い取ろうなんて考えてませんよ!ちょっと私もこの目で見てみたいんですよ。その糸石とやらを!」
ミルザ君に必死にそう訴えるワイルちゃん。
ミルザくんは、少し考えた後言いました。
ミルザくん「いいよ。ついてきな!連れは多いほうが心強いし、えと、そのー、金庫番やらなんやらいるらしいし、
こっちとしては喜んで!同行願います!あれ?」
ワイル「ありがとうございますーミルザさん!私、ちょいと風術には自信ありますし、力になれると思いますよ。
さぁ、いきましょう!」
ワイルちゃんはそう言うと、にっと微笑みました。
ミルザくんも微笑みました。
力強い仲間が出来ました。さぁ、ワイルちゃんを連れて、再び赤い糸石探索の始まりだー!



”あたし今から明日の朝までダーリンとデートだからさぁぁぁ〜悪いけど頼むよワイルちゃぁぁ〜〜ん★○♪鰤□!!”
”私も集会があるからさ・・・明日フリーなのはあんただけなのよね、ワイル。頼んだわよ。”
”えええ〜〜!?トライングルフォーメーションで行くんじゃないんですかぁぁー!?”
”まぁ、事情が事情だし・・・ねぇ?”
”ねぇぇぇ〜〜〜〜○▼×CH2帖∀!!”
”くそっ、尾行はヘイトちゃんが本職でしょうが・・・ま、まぁ、これもサルーインちゃんのため、私のため。
サルーインちゃん一の僕として、ワイル、頑張らせていただきます!”
”おお〜〜〜!!いいどいいどぉぉ〜〜∇δ∵氏掾♪!!”
”よくいったワイル!流石『一の僕』だ!わはははは!!”

眠い・・・

睡魔が容赦なく私の瞼を閉めにかかってきている。
普通ならば心地よく受け入れるはずだが、今日はそんなわけにもいかない。
なぜなら、私はサルーインちゃん一の僕!
サルーインちゃんを喜ばせるためだったら、何だってやってやる。
そうだ。今、睡魔なんかに負けるわけにはいかないのです!

ミルザさんは、相変わらずうきうきわくわく、鼻歌を歌いながら歩いている。
よくも眠くならないものだ。そこまでサルーインちゃんの事を好きなんですね。うふ、可愛い。
・・・可愛いのは大いにいい事です。でも、早く糸石を見つけちゃってください。



ミルザくん「ねぇ、ワイルちゃんってさ。」
突然思考の外から声が割り込んでくる。
ワイルちゃん「あ、は、はい!な、なんですか?」
ミルザくん「ワイルちゃんって、何年?」
ワイルちゃん「へ、なんでそんな事聞くんですか?」
ミルザくん「いや、敬語が気になってさ。」
ワイルちゃん「敬語は私の口癖です。あんま気にしないでいいですよ。」
ミルザくん「そ、そっか・・・」
話が途切れる。

そうです。無駄話はいりませんよ、ミルザさん。
あなたは糸石を捜しにひたすら歩いていればいいのです。
ミルザくん「ん・・・?何か声が聞こえない?ワイルちゃん。」
また話しかけてきた!
ワイルちゃん「あーもー、何ですかっ!?何も聞こえませんよぉー!」
ミルザくん「いやっ、よーく耳を澄ましてみなよ。何か声が・・・」
私は、仕方なく息を殺し、耳を澄ましました。
あれ?確かに・・・何か聞こえる・・・


『うはうはうはんじ・・・うはうはうはんじ・・・』


歌?悪趣味な歌、これは、なんだぁーーー!?
ミルザくん「ウハンジって確かクジャラート舎のリー・・・こんな時間になんなんだろう・・・?
あっちから聞こえるよ。行ってみよう!」
ワイルちゃん「は、はい!」
あーん。糸石以外のことには興味ないのに。
まぁ、今は成すがままにされるしかないか・・・



ウハンジ「うはうはうはんじ・・・うっは、お嬢さん、ええケツしとるの〜!」
アルドラ「止めろこの糞オヤジ!こんな所に俺たち生徒を連れてきてただで済むと思ってるのか!」
ファラ「そーよそーよ!」
アイシャ「あたしタラール族のアイシャ!アイシャ!」
ウハンジ「ん〜?聞こえないねぇ。それが目上の者に物をいう態度かなぁ〜?うっはははうはんじ!」
アルドラ「くそっ、醜い奴め!」
ファラ「最悪最悪!お前なんか今にジャミルにやられちゃうんだから!」
アイシャ「あたしタラール族のアイシャ!あたしタラール族のアイシャ!アイシャ!アイシャシャ!」



ミルザくん「ここだ!生物室っ!」
きき〜〜っとミルザくんは生物室の前で止まり、ドアに耳を当てました。
中から話し声が聞こえます。
ワイルちゃん「ミルザさ〜ん・・糸石は〜・・?」
ミルザくん「しっ!」

『うはうはうはんじ!さぁ、抵抗は止めなさい!パパがやさしくしてあげるよ〜』
『触るな外道!』
『そーよそーよ!助けてジャミル〜』
『あたしタラール族のアイシャ!アイシャ!アイシャ!アイシャ!アイアイタラール族!』

ミルザくん(ウハンジさんの声に・・・女の子たちの声・・・?聞いたことある声があるなあ。)

『ばか〜!ばかオヤジ〜!』
『止めて・・・助けて・・・触るな・・・』
『夜明けが近いんだ。大人しくしなよファラちゃ〜ん。アルドラちゃ〜ん。』
『あたしタラール族!アイシャ!アイシャ!アイシャ!』

ミルザくん「アルドラ!?」
ミルザくんは声を上げました。
ミルザくんは、そのまま躊躇わずに生物室のドアを勢いよく開けました。
ドガァァァンと、ドアの音が静かな校舎に響き渡ります。
ワイルちゃん「ちょ、ちょっ・・・ミルザさん何して・・・」
ワイルちゃんはそこまで言いかけると、生物室の中の状況を見て口が開かなくなりました。
はだかの男が一人。裸エプロンの女の人、いたって普通の女の人、変な女の人。
アルドラ「ミ、ミルザ・・・」
みんな口をあんぐりあけてこちらを見ています。
ワイルちゃん「えと、あはは・・・そ、その・・・」
ミルザくんと生物室の中の人達を交互に見回すワイルちゃん。
ウハンジ「貴様、何者だ!」

上半身素っ裸で叫ぶウハンジ。
ミルザくんは即座に返しました。
ミルザくん「何をしているんだお前!悪いけど、女の子達を離してもらうぞ!」
ミルザくんは叫びました。
ミルザくんの正義感は、人一倍あるのです。
ウハンジは、テーブルの脇においてある剣を取ると、ミルザくんに向かって駆け寄りました。
ウハンジ「邪魔をしおって!悪いが黙ってもらうぞ!」
ウハンジが大きく剣を振りかぶります。
アルドラ「危ない、ミルザ!」
ファラ「きゃぁぁぁーーーーーー!!」
ワイルちゃん「ミ、ミルザさん!」
アイシャ「あたしタラール族のアイシャ!あたしタラール族のアイシャ!」

バシュッ

しかし、次の瞬間地に倒れていたのはウハンジでした。
ミルザくんの左手に、銀色の綺麗な剣が輝いています。
ミルザくん「一応これでも僕、全学園男子生徒のチャンピオン、ですから。」
ミルザくんは、銀色の剣、レフトハンドソードを静かに鞘に収めました。
アルドラ「すごいよミルザ!」
ファラ「うわ〜〜!!ジャミルよりカッコいい〜〜〜!!」
アイシャ「あたしタラール族のアイシャ!」
叫ぶ女の子達を尻目に、ミルザくんは立ち上がろうとするウハンジをにらみつけました。
ウハンジ「う、うい、待て。この事を校長に伝えるのだけは止めてくれ!
何が欲しいんだ、金か?」
後ずさりながら言うウハンジ。
ミルザくん「一つ。この女の子達を開放する事。
二つ。もう女の子達を攫っていかない事。
了解できないなら、今ココで(黙って親指を下に向けながら)こうですよ?」
一層ウハンジの顔に恐怖の色が差し込んでいきます。
ウハンジは、しばらく考えた後、ゆっくりと首を縦に振りました。
ミルザくん「分かったなら、今すぐ出て行け!」
ウハンジ「は、はいぃ!」



ファラ「ありがと〜!あなた見ない顔ね〜!!でもありがと〜!」
ミルザくん「はは、どういたしまして。」
ファラ「あたし南エスタミル寮にいつもいるから。会いたくなったらいつでも来てねん♪」
ミルザくん「はは、喜んで。」
ファラは、そう言うと嬉々とした足取りで出て行きました。
ミルザは、ゆっくりとアルドラの方へと歩いていきました。
ミルザくん「大丈夫かいアルドラ?」
アルドラ「だ、大丈夫だ。心配なんかされないでも、大丈夫。じゃあな。」
アルドラはぷいとそっぽ向くと、すぐに出て行ってしまいました。
ミルザくん「はぁ、もう。素直じゃないんだから。」
アイシャ「あたしタラール族のアイシャ!」
ミルザくん「はえ?」
隅っこの方にも、もう一人どこかの民族?のような女の子がいました。
ミルザくん「やぁ、大丈夫かい?」
アイシャ「あたしタラール族のアイシャ!あたしタラール族のアイシャ!」
ミルザくん「は、はい?」
アイシャ「あたしタラール族のアイシャ!あたしタラール族のアイシャ!シャシャシャタラールアイシャ!族!」
ミルザくん「・・・・・・・・・???????」

ワイル(あ〜あ、夜が明けちゃったよ・・・)



ワイルちゃん「夜、明けちゃいましたね。糸石探しはまた今度ですね。」
ミルザくん「そうだね。ま、でも女の子達を助けられたしよしとするか。」
ミルザくんとワイルちゃんは、朝焼けでまぶしいクジャラート舎の校庭を歩いていました。
ミルザくん「じゃ、僕は騎士団寮に帰るけど、ワイルちゃんはどこの寮出身なの?」
ワイルちゃん「ああ、バファル舎のメルビル寮です。」
ミルザくん「えぇぇぇ!?そんな遠く!?」
ワイルちゃんは、小さく「やべっ」と言い、口を手で覆いました。
・・・気まずい空気が流れます。
ミルザくん「ま、まぁ、特に深追いはしないよ。なんか事情があってここに来たんだよね。うん。」
ワイルちゃん「は、はい。そうですそうです。あははは・・・」
ワイルちゃんは尋常ではない冷や汗を流しながら、胸をなでおろしました。
その瞬間です。

「あっ、ワイル!」

突然声が聞こえました。
ミルザくんは、驚き、その声の主に釘付けになりました。
ワイルちゃん「あ、あっ!サルーインちゃん!おはようございます!起きるの、早いですね・・・」
サルーイン「そう?いつも通りだけど。セレブの朝は早いのよ。」
サルーインちゃんは、そこまで言うと見るザくんをちらっと見ました。
ミルザくんの心臓が、まるでグランドスラムでもしたかのように跳ね上がりました。
サルーインちゃんはすぐに視線をワイルちゃんに移し戻し、話を続けました。
サルーインちゃん「後で朝食食べにいきましょ。ストライフとヘイトも呼んでおいてね。」
ワイルちゃん「は、はい。分かりました・・・」
サルーインちゃんは、踵を返すとモデル歩きでどこかに行ってしまいました。
ミルザくんは、しばらくその姿を追った後、ワイルちゃんをじぃっと見つめました。
ワイルちゃん「な、なんですか?」
ミルザくん「キミ・・・サルーインちゃんの友達だったんだ・・・」
ワイルちゃん「は、はい。そうです・・・えへ、えへへへ・・・」
ミルザくんは、まるで珍しいものでも見るかのような目で、ワイルちゃんを見続けます。

・・・・・・・

ワイルちゃん「その、今日は楽しかったです、ミルザさん!またね!」
しばらく経った後、ワイルちゃんは耐え切れなくなり、そう言ってそそくさとその場を立ち去りました。
ミルザくんは、そのワイルちゃんの後姿を、見えなくなるまで追っていました。



ワイルちゃん(ふう。もしかして友達視されちゃったかな・・・迷惑迷惑。
       まぁ、いいや。また会いましょうね、ミルザさん♪)


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