幕間劇「策士の事情」

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――アディリスちゃんの私室

アディリスちゃん「あはは、散らかってるけど、どうぞ〜」
招かれた先にあるのは言葉の通りゴミの山でした。
エロールちゃん「普通は謙遜として使う言葉だと思うのですが?」
アディリスちゃん「私は自分を偽らない人なの。
         それに散らかっているように見えてどこに何があるかはしっかり把握できてるし。
胸を張って自分の駄目っぷりを正当化します。
エロールちゃん「ではこの間貸した魔力の本はどこにあるのですか?」
アディリスちゃん「あの辺」
左のゴミの山を指差しました。
エロールちゃん「・・・マジカルシェルターは?」
アディリスちゃん「多分そこ」
手前のゴミの山を指差しました。
エロールちゃん「・・・・・・高い指輪は?」
アディリスちゃん「・・・ええと・・ひょっとするとあの中かな・・10%くらいの確率で」
指差した先にはうずたかく積まれたゴミにより奇妙なオブジェが形成されていました。
エロールちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・・」
エロールちゃんのクリティカルが唸ります。
アディリスちゃん「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛な、なんかいいかも・・・」
エロールちゃん「借りたものはきちんと管理なさい。このドM」
アディリスちゃん「いや、私はどっちでもいけr」
エロールちゃん「聞いていません!それで今日はどのような用件で呼んだのですか?」

アディリスちゃん「いや〜ちょっと聞いてみたい事があってさ。サルーインちゃんのことなんだけど。
         聞くところによると色々画策してるらしいけど、
         どうしてそこまで目の敵にするのかな〜って
         あ、コーヒーどうぞ」
エロールちゃん「あ、すみません・・・弾劾するつもりですか?」
アディリスちゃん「うんにゃ。単純に好奇心」
エロールちゃんは少し考えてから切り出しました。
エロールちゃん「・・・最初に行っておきますが私はサルーインちゃん個人を嫌っているわけではありません。
        私はこの学園に生きる全てのものを愛していますから」
アディリスちゃん「本音で語ろうぜブラザー」
エロールちゃん「いえ、本音です。」
アディリスちゃん「じゃあなんであんなことやこんなことやってんの?」
エロールちゃん「私がこの学園の生徒会長を務めている期間、
        至らぬ事もありましたがこの学園は平和であったという自負もあります」
アディリスちゃん「んん〜まぁ小競り合いはあったけど深刻な被害はないね。でもそれって運の問題のような・・?」
エロールちゃん「事態が起きた際に私が迅速に対処しているからです!まぁ地味な仕事ではありますが・・・」
アディリスちゃん「わかったわかった。その努力は認めるとして、でも特に学園が発展してもいないんじゃない?」
エロールちゃん「古代栄えた大国が滅んだ理由の代表的な例に『内部の腐敗』というものがあります。
        腐敗は平和な世であるほど起きやすいものです。統治者は腐敗を防ぎ、
        文字通り平和を維持する事が仕事だと私は考えています。
        平和であれば生徒達が自主的に行動を始めます、それが学園の発展につながります。
        古代の政治学者の言葉にもあります。『夢も理想も後回し。まずは現状維持だ!』と」
アディリスちゃん「言葉の勢いのわりにえらく後ろ向きだねぇ〜。ま、エロールちゃんの政治理念は分かった。
         で、サルーインちゃんを妨害する意図は?」

エロールちゃん「民にとってもっとも害を成す王とはどのような人物だと思いますか?」
アディリスちゃん「(さっきからまともに質問に答えてないなぁ)圧政を敷く暴君かな?」
エロールちゃん「違います。何もしない王です。
        王が何もしなければその臣下は好き放題に国を動かすでしょう。
        それは民にとっては暴君が何人もいる事に等しいと思いませんか?」
アディリスちゃん「あ、なるほど。サルーインちゃんがそうだと?」
エロールちゃん「先にも行った通り、生徒会長の仕事は煩雑で地味で日の当たらない仕事がほとんどです。
        彼女がそれに従事する姿が想像できますか?」
アディリスちゃん「確かにできないねぇ〜。でも彼女の部下達は有能らしいよ〜?」
エロールちゃん「ならその部下が立候補すればいいでしょう。
        無能な王は存在自体が罪です。
        それに彼女は正直すぎるきらいがあります。
        人を利用する狡猾さや、特に非情さが決定的に足りません。
        政治を執る者としては致命的です。
        彼女が生徒会長になれば生徒達を不幸にする可能性があります。
        それは防がなければなりません。
        そして彼女には私には無いカリスマ性があります。
        それに惑わされて生徒達が彼女に票を入れないよう手を打っているというわけです。
        歴史を紐解けば民衆自ら選んだ国家元首により苦しめられた例は幾つもありますから」

長い台詞を一息で言い終えたエロールちゃんは大きく息をつきました。

エロールちゃん「これがサルーインちゃんを妨害する理由です。
        ですから生徒としての彼女を嫌っているわけではありません。
        彼女の生き方を眩しく感じる事も多々ありますよ?」
アディリスちゃん「へぇ〜〜。自分より目立つからとか、美人だからとかじゃないんだ?」
エロールちゃん「当然です」
エロールちゃんは、勧められたコーヒーを静かに口に運びます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばし静寂の時が室内に流れました。
アディリスちゃん「・・・・・・・・・・・・・・で。オチはまだ?」

     一     撃     必     殺  

エロールちゃんの羅刹掌が唸ります。
エロールちゃん「怒りますよ」
アディリスちゃん「も、もう怒ってるじゃぁぁぁん。下手したら死ぬって」
エロールちゃん「軽口が叩けるのなら大丈夫です。聞きたい事が終わったのなら今日のところはお暇します」
アディリスちゃん「おつかれさ〜ん。帰りは裏の近道使っていいよ」
エロールちゃん「行きも使えるようにして欲しいんですが」
アディリスちゃん「仕様です」
エロールちゃん「・・・はぁ。次に来る時までに少しは部屋をきれいにしておいてくださいね」
アディリスちゃん「OKOK。今あるゴミは片しとくって」
つまりこれから増えるゴミは対処しないのですか、とエロールちゃんは突っ込もうかと思いましたがやめました。
生徒会長は忙しいからです。
アディリスちゃん「せっかくの休みに呼びつけちゃってごめんねぇ〜。私が行ければいいんだけど。
         また今度ご飯でもおごるから」
エロールちゃん「気にしないでください。あなたと過ごす時間はそれなりに有意義です。
        食事は・・・期待しないで待つことにします。では」
エロールちゃんは普段見せることのない自然な笑顔で別れを告げ、アディリスちゃんの私室を後にしました。

アディリスちゃん「学園の平和のためには手段を選ばず、か。
         正しいのか正しくないのか。難しいねぇ」

アディリスちゃんはかぶりを振り、頭を切り替えました
――とりあえず高い指輪だけでも発掘しときますか。

漫画読んでから。

グレートピットが茜色に染まる頃になってもアディリスちゃんの私室から聞こえてくるのはのんきな笑い声だけでした。


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