幕間劇「君主の贈り物」

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トマエ火山の奥深く、モンスター寮寮長室にて。
そこで4寮長の一人、フレイムタイラントくんがあるものを見ながら、微笑んでいました。
その手にあるのはマルディアス学園の学園新聞。その中身はというと・・・

『中間試験、成績上位者発表。』

とあります。
科目ごとに上位成績者が発表されているわけなのですが、その中の一つに、

法律学1位:デス

と、ありました。

タイラント「たいしたものだ。」
   火神「うへぇ、凄いですねぇ。法律学、満点ですって。」
   炎神「デスちゃんの得意科目は法学でしたっけね・・・ときにタイラントさま」
タイラント「なんだ?」
   炎神「何かお祝いでもしないんですか?デスちゃんと。」
タイラント「なっ!い、いや、その、お祝い品をあげるつもりではあるが・・・」
   炎神「お!早速贈り物を用意してるとは!さすがタイラントさま!!
      ・・・あとはそれを素直に渡せりゃ苦労はしないんでしょうけどね・・・」
   火神「あ、バカ!炎神ひとこと多いぞ!!!」
炎神のそのセリフを聞くやいなや、タイラントくんが、ゆらり、と立ち上がりました。
同時にどこからともなくトランペットのイントロが聞こえます。
   炎神「わーーーっ!!タイラントさま、すいませんすいません!!
      誰だ『神々への挑戦』をかけてるヤツはーーー!!!」
   火神「あーあ。口は災いの元なり、か・・・。」

タイラント「――――さて。では気を取り直して。一応祝い品として、このような物を用意した。」

そういうと、火神の前に2つの包みが置かれました。
遠くの方で炎神が、「富岳八景コワイ富岳八景コワイ」とうわごとのように言っていますが、まぁ放っておきましょう。
   火神「開けちゃってもいいんですか?」
タイラント「かまわんさ。後で包装はキチンとするつもりだったからな。」
   火神「(見た目によらず以外とマメなんだな・・・)よっ・・・と、重いですねー!何入ってるんだろう?」
まず一つ目の包みを、ばさっと外しました。

・・・そこには、やたらと分厚い本が一冊置いてありました。
本のくせに、どこから見てもほぼ立方体に見える厚さです。
   火神「タイラントさま・・・これ、FF3の学者の武器ですか?」
タイラント「メルビル六法新年度版!結構高かったのだぞこれは。」
   火神「せっかく試験の終わった相手にコレ渡すんですか?あんまりオススメできないような・・・」

タイラント「そういうものなのか?純粋に必要だろうと思ったんだが。な、ならば次だ!こちらこそ自信作だぞ!!」
火神がもう一つの包みをあけました。そこには、白く美しい、陶磁器のような壷がありました。
   火神「へぇー!綺麗っすねこれ。あれ、自信作、ということは・・・これタイラントさまが?」
タイラント「うむ。トマエ火山で取れた良質な鉱石を元に、1週間かけて作った入魂の作品だ。」
   火神「おおー!いいんじゃないですか?しかしこれ、何用のツボですか?紅茶入れにしては少し大きいような?」

タイラント「いや、骨壷だ。」
   火神「骨壷?」
タイラント「骨壷。」

・・・・・・

  火神「た、タイラントさまのアホーーー!!!!
      つーかタイラントさまはアホ?いやいやタイラントさまで、その上アホーーー!!!」
タイラント「ちょ、落ち着け火神!言うに事欠いてアホとはなんだアホとは。」
   火神「だって女性に贈るんですよ?それを骨壷て、何それ?それ何てコント?ですよ本当に!!
       もっと普通のものを贈ってくださいよ!!」
タイラント「ならば聞くがな火神よ。お前なら何を贈るんだ?」
   火神「そりゃー洋服とか、アクセサリーとか、女の子が喜びそうなものを・・・」

タイラント「――――ド金持ちのセレブ相手に、か?」

   火神「・・・あ。」
タイラント「そういうことだ。生半可な装飾品など、何にもならんだろう。
      ましてやデスちゃんは、過度な装飾を嫌うヒトだからな。」
   火神「でも、それにしたって骨壷はあり得ないですよ。」
タイラント「そうか?結構自信の一品だったんだがな・・・。」
   火神「そうだ。だったら、頼りになる方々にご相談されてはいかがですか?きっと良案がありますよ。」
タイラント「頼りになる方々って、ひょっとして他の寮長達か?」
   火神「そうですよ。アディリス様、タイニィフェザー様、水竜様です。」
タイラント「(・・・あいつらに相談するのか・・・大丈夫かなーー?)」



【バファル舎:メルビルにて】

アディリスちゃん「あ、いたいた!おーい、タイラント!!」
    タイラント「ようアディリス。済まないな、わざわざ呼び出したりして。」
アディリスちゃん「別にいいわよーう。ヒマだったしね。しっかし珍しいわねー!アンタが出張ってくるなんて。」
    タイラント「いや、一つ相談があってな。とある人に贈り物をしたいのだが、貴様の知恵を借りたい。」
アディリスちゃん「なによーう・・・あ、わかった。オンナでしょ!」
    タイラント「や、ち、違う!そういうんじゃなくてだな、えーと、普段世話になってる人に贈るのだ!
          ただな、高価な物ではなく、金額とは別な価値のある贈り物がしたいのだ。」
アディリスちゃん「ふーん。つまり、そう高価でもないけど、感謝されるような物がいいのね。オーケー。」

言うやいなやアディリスちゃんは、ずんずんと歩き始めました。
向かう先はメルビルの百貨店。その一角のガラスケースの前。

その中には、『1/6スケール アルカイザー&シュウザー』と書かれたフダと共に、
赤いマスクの変な人と、両手カギ爪の変な人が、取っ組み合いしているジオラマがありました。
アディリスちゃん「これなんかオススm」
    タイラント「 却 下 」
アディリスちゃん「じゃ、こっちは?今一番人気の、『メタルアルカイz』」
    タイラント「 大 却 下 」
アディリスちゃん「あーもうわかった!じゃあこれしかないわ!!今、女の子と大きなお友達に大人気!
          アセルスと白薔薇の、『2人はユリキュア』!」
    タイラント「っがーーーー!!!おもちゃなんぞダメだと言うとるだろーー!!!
          つか、渡す→断られる→これあっても邪魔だな→ならばアタシが、って連携狙いじゃなかろうな?」
アディリスちゃん「あ、はは〜〜いやそんなことは・・・」
    タイラント「どうした?目をそらすんじゃない。」
アディリスちゃん「あ、いや・・・えーと・・・あ!いいこと思いついた!」
言うやいなやアディリスちゃんは走り出しました。タイラントくんも早速後を追いました。

アディリスちゃん「高ければ良いってもんじゃないモノ、安くてもその人の好みかもしれないもの。つったらコレよ。」
    タイラント「酒、か・・・。」

2人が居るのは、パブの前です。
アディリスちゃん「んじゃ、早速きき酒をしてみるわよーーー!!」

そうして真昼間から、絶頂の大宴会がスタートしました。
「アバロン アバロン うるわしの〜♪」とか、「のぞまぬ ちぎりを かわすのですか〜♪」とか歌いながら
2人の酔っ払いが大はしゃぎです。真昼間からこの体たらく。傍から見るとダメな人にしか見えません。

そして

   タイラント「う?う〜〜む。飲みすぎたか。しかし相変わらず化物じみた酒豪だなあいつは。」
辺りを見回すと、既にアディリスちゃんの姿はありませんでした。
タイラントくんの手元に伝票が残っています。その裏にアディリスちゃんからの伝言が、口紅で書いてありました。

   「好みの味は見つかったかしら?今回の相談料は、ここの飲み代でいいわよ。んじゃ、ばっはは〜い♪」

   タイラント「・・・やられた。」
      店員「お客様、そろそろお会計の方を・・・」
タイラントくんは、伝票をじっくりと見て、そして溜息を一つついて、言いました。

   タイラント「分割払い、できますか?」



【ローザリア舎:クリスタルシティにて】

 タイニィ「お、いたいた。よう、タイラント!」
タイラント「ようタイニィ。済まない、わざわざ出てきてもらってな。」
 タイニィ「はは、まぁ気にするな。空を滑空すればすぐだからな・・・って酒臭!昼から飲むなよ!!」
タイラント「あ、いや、そうだな・・・昼から飲むものでは無いよな・・・」
タイラントくんは遠い目をしながら、「そもそも高校生に酒を送るなんて(略」などとブツブツ言っています。

 タイニィ「大丈夫か?買い物に付き合えというから来たんだが、用が無いならさっさと帰るぞ。」
タイラント「いや、すまん。確かに買い物が目的なのだが、それについて相談をしたくてな。」
 タイニィ「君主の大斧に飽きたのか。ハルバードでも買ってみるか?」
タイラント「いや、そういう事ではなくてだな。」
 タイニィ「なんだ、両手斧自体に飽きたのか。ならレイピアとかどうだ?お前が持つと笑え・・・むしろ新鮮かもな。」
タイラント「人 の 話 を 聞 け 。」
 タイニィ「はっはっは。怒るな怒るな。ていうか、何が欲しいんだよ?」

そして、タイラントくんは少しの間逡巡したのち、一気にまくしたてました。
タイラント「普段とても世話になってる人に贈り物をしたいのだが、いや別に本当に他意は無くただの感謝の気持ちなんだが
      その人には高価なものは効果が無いというか、あぁうるさいシャレじゃないシャレじゃないって言ってるだろ
      なにはともあれ金額とかじゃ計れない、心が暖かくなるようなものが欲しいんだが分かるか?」

タイニィくんは一気にまくしたてられたせいか、しばらくポカン、としていましたが、
やがて手をポン、と叩いて言いました。
 タイニィ「なるほど。お前が何が欲しいかわかったぞ。なーんだ、そんなことか。お前も以外と小心者だな。
      いいだろう。他ならぬお前さんのためだ。私が買ってきてあげよう。ほれ、財布貸せ。」
言うやいなや、タイニィくんはタイラントくんの財布を奪い、雑貨屋の方に走っていきました。

〜〜5分後〜〜

タイニィくんが、ホクホクした顔で帰ってきました。

 タイニィ「ほれ、これが欲しかったんだろ?別に買うのは恥ずかしくないのにな。
       はい、キットンソックス。」

・・・・・・
タイラント「はっはっは。世話になっている人にキットンソックスを贈るか。
       ははははは。全くユニークだな貴様は。ならばソックスのユーモア溢れる使い方も試してみるか?」

タイラントくんがキットンソックスでタイニィくんの首をギリギリ絞めています。
 タイニィ「ギッ、ギブギブッ!!!」

タイラント「というかだな、あの説明でなぜコレを買ってくるんだ貴様は。」
 タイニィ「はぁはぁ。なら言わせて貰うが、誰に贈るかハッキリ言えよ。そうでもなきゃ対策たてられんだろ?」
タイラント「う・・・ま、まぁその通りではあるのだが・・・」
 タイニィ「だろ?さぁ言え。ほれ言え。誰に贈るんだ?」
タイラント「う、あ、き、急用を思い出した!さらばだタイニィ!!」
そう言ってタイラントくんは走っていきました。
タイラント「(タイニィはトボケてるくせに、妙なところで核心を突くんだよな・・・。)」
 タイニィ「なんだアイツ。つーか、このソックスどうすんだよオイ。」



【クジャラート舎:水竜の神殿にて】

タイラント「(正直、ココにだけは来たくはなかった。ココにだけは・・・)」
   水竜「やぁタイラント、久しぶり。しかし珍しいね〜〜キミがここに来るなんて、サ。」
水竜の間にてタイラントくんが、しかめっ面で座っています。
それと対峙するように、水竜くん(人間Ver.)が、豪華なソファに、半分寝るような形でだらしなく座っていました。
・・・両隣に女の子をはべらせて。
   水竜「しかしキミが来るとさぁ、ここの気温が上がっちゃう気がするよ。
       どうだい、ハニー達は暑くないかな?暑かったら脱いじゃってもいいんだよ〜。」
女の子達「やだぁ、水竜さまったら♪」
タイラント「(・・・何だかなぁ。)」
   水竜「で、世話になった人への贈り物、かぁ。クジャラートは交易盛んだからね。
       ボクにもあては幾つかあるよ。で、その相手なんだけど・・・オンナのコじゃない?」
タイラント「世話になっている。それだけだ。」
ぷい、とそっぽを向いてしまったタイラントくんを見て、水竜くんはニヤリと笑い、隣の女の子の背中に手を沿わせました。

一瞬の早業でした。

女の子「きゃっ?」

片側の女の子が胸を抑えるのと同時に、水竜くんの手にはその子のブラジャーがありました。

タイラント「き、貴様なにを!?」
   水竜「一番のオススメを直接見せてあげようと思ってさ。どうだいこのブラ。綺麗な刺繍だろ?
       こないだハニー達に贈ってあげたのさ。付け心地と、外し心地が良いって評判さ。これなんてどう?」
タイラント「貴様、ナメるのも大概にしろよ。」
タイラントくんが、席をおもむろに立ち上がりました。瞬間、部屋の気温が上昇しはじめています。

   水竜「ふーん、やっぱりね。今のキミの反応を見てわかった。・・・プレゼントだね。オンナのコへの、さ。」

タイラント「・・・どういうことだ?」

水竜くんの言葉の直後、部屋の気温上昇が収まりました。
   水竜「ブラを見せられて、ムキになって怒ったのが何よりの証拠ってことさ。
       相手が男とか老年の方とかなら、こんな提案は鼻で笑ってあしらうハズだろ?」
タイラント「・・・くっ!」
タイラントくんが水竜くんを睨みながら、どっかと腰を下ろしました。

タイラント「で、仮に。いいか、仮にだぞ?相手が女性だとしたら・・・何を贈れば良い?
       無論、下着以外でだ。」
   水竜「そんなの決まってるじゃん。一つしかありえないよ。・・・ボクにそのコを紹介してよ、タイラント。」
タイラント「は?」

そのタイラントくんの反応を無視するかのように、
おもむろに水竜くんは立ち上がり、その長い髪をバサッと掻き上げました。
   水竜「オンナのコにとっての、最高の贈り物。それは!!このボクの愛さ!!!
       さぁ!今すぐに連れておいでよ!身も!心も!!ボクの愛で包んであげるよ!!!」

高笑いしながら水竜くんがにじり寄ってきます。
タイラントくんは、ハァ、と一息ため息をつき・・・

スライディング → スープレックス → バベルクランブル → ジャイアントスイング で、
水竜くんを滝の中に捨てました。

タイラント「邪魔したな。さらばだ。」
タイラントくんは踵を返し、水竜の間から出て行っていきました。

   水竜「いてて・・・まったく。素直じゃない友人を持つと、苦労するねェ・・・」
女の子達「いや〜〜ん、水竜さま、大丈夫〜〜?」
   水竜「う〜〜ん、ダメだぁ。力が出ないよハニー。だから、癒してくれないかなぁ♪」
女の子達「あはっ♪もう水竜さまったら、甘えんぼさん♪」

――――この後の水竜くんと女の子達の痴態については、ご想像にお任せします。



【騎士団寮:ミルザブールにて】

タイラント「水竜のヤツの所に行ったのは時間のムダだったな。しかしアイツも爛れた生活しているなぁ。
       ――――さて。あと残っている大手の寮はここだけだが・・・おや、あいつは。」

向こうから鼻歌混じりのミルザくんと、その親友オイゲンくんが歩いてきます。

タイラント「久しぶりだな、ミルザよ。」
  ミルザ「あ、タイラントくん!久しぶりだね!元気だった?」
 オイゲン「おー珍しいな、アンタがこんなとこに居るなんて。なんかあったのかい?」
タイラント「いや、まあ色々とあってな。ちょっと世話になった人に贈るモノを探しているんだが・・・」
  ミルザ「うーん?突然言われてもわからないや。海苔とか季節の果物とか?」
タイラント「それではお歳暮だ。例えばだな・・・お前はサルーインちゃんにどんなモノを贈る?」
 オイゲン「タイラントくんよ、なんでそこでサルーインちゃんが出てくるんだ?」
タイラント「まぁ他意は無い。
      ・・・しかし、なぁオイゲンよ。我は今の会話で、何かヤバイことでも発したか?」

そう言ってタイラントくんは、視線を下に向けました。
そこには、サルーインちゃんとのSでMな妄想に浸ったミルザくんが、地面を転がりながらハァハァしていました。

 オイゲン「あー。サルーインちゃん、ってのがコイツの起動言語なんだ。まぁ騎士団寮の風物詩とでも思ってくれ。」

タイラントくんは思いました。
ミルザはこんなにもサルーインちゃんが好きなのか、と。
我とある意味似た境遇なのかもしれないな、と。
そう思うと、なんとなくミルザくんへの共感が生まれ・・・

ミルザ「あぁ・・・サルーインちゃんの足・・・ヒールの角・・・バナナの皮・・・」

・・・ませんでした。さすがに。あっちの世界は、行った人でなければ判らないものなのです。

タイラント「で、コレはいつ回復するんだ?」
 オイゲン「さぁーねぇ。」



〜〜小一時間後〜〜

  ミルザ「はぁはぁ、サルーインちゃん・・・あ、あれ?僕は今まで何を?」
 オイゲン「やっと戻ってきたか。」
  ミルザ「あ、またやっちゃった僕?アハハハハ・・・タイラントくんは帰っちゃったのかな?」
タイラント「まだいるぞ。ここに。」
転げまわっていたミルザくんの側で、オイゲンくんもタイラントくんも寝っころがっていました。
タイラント「貴様があっちの方向に行っている間に、オイゲンと2人で色々見たが、見つからなかった。」
 オイゲン「んでタイラントくんが、帰る前にもう一度ミルザに質問したいって。だから不貞寝しながら待ってたんだ。」
タイラントくんは、空を見上げたまま、ミルザくんにたずねました。
タイラント「ミルザよ、貴様の最近の活躍は聞いている。糸石のこともな。
      そして、それがサルーインのためだということも耳にした。
      ・・・そこで問いたい。糸石を、サルーインが喜んで受け入れるという確証はあったのか?
      相手は凄まじいセレブだ。糸石など、さして必要としないかもしれんと思うぞ?」

それを受けて、ミルザくんはしばらく考え込んだあと、他の2人と同様に空を見上げて答えました。
  ミルザ「確かに、この思いを遂げるために人と違うことをしなきゃ、って思ったのが始まりさ。
      サルーインちゃんに頼まれたわけじゃない。僕が自主的にはじめたことさ。
      だから、糸石を集めたところでサルーインちゃんは喜ばないかもしれない。それはわかってるんだ。
      でも、それでも!その行動を選択した自分を、信じて突き進むしかないと思うんだ。
      確かに、僕もサルーインちゃんに拒絶されるんじゃないかと怖くなるときはあるよ。
      あ、でもそれはそれで・・・
      っとと。でもさぁ。結局、僕はサルーインちゃんじゃないから。
      喜ぶかどうか、決めるのはサルーインちゃんだ。
      こっちにできるのは、真心を贈るだけ。
      それがどういう結果になるかは、その時になってみないと判らないよ。」

タイラント「こちらの真心を贈る、ただそれだけ、か・・・。
      だな。そうだよな。結局我は我、相手は相手だからな。相手の反応を、予測しきれるはずもない。
      ならば、自分の考えを、判断を、思いを信じる。それしか無いし、それをするべきなのだろうな。
      ・・・有難う、ミルザよ。最高のアドバイスだったぞ。」
  ミルザ「そう言ってくれると嬉しいな。でも・・・なんでそんなことを聞いたの?
      ま、まさかタイラントくんもサルーインちゃんを」
タイラント「はっはっは、それは無い。まぁ何だ。我も貴様も花を愛でる。
      しかし、貴様は薔薇を愛し、我は月見草を好んだ。ま、そういう事だ。」
煙に巻かれたようなミルザくんとオイゲンくんを置いて、タイラントくんは立ち上がりました。
タイラント「では我はそろそろ行くぞ。さらばだ。」
タイラントくんはそう言って歩き出しました。そして一旦止まり、ミルザくんに向かって一言、

タイラント「ミルザよ、頑張れよ。我は貴様を応援するぞ。」

そう言葉をかけて、立ち去っていきました。



そして日が沈んだころに、タイラントくんはリガウ寮に戻ってきました。
タイラント「(結局何も買わずじまいだが・・・初志貫徹して、あの2品を贈れば良いのだ。)」
と、寮長室に通じる専用通路の途中でピタッと止まり、突如頭を抱えだしました
タイラント「(でもやっぱり部下の言う通り、デスちゃんに拒絶されるかもしれんな・・・
       何か保険で買っとけばよかったかなー?)」
・・・どうやら完全にふんぎりが付いたわけでもないようです。

タイラントくんは、そのまま何度か立ち上がり、頭を抱えて座り込み、を繰り返したのち、
ついに意を決して寮長室に向かいました。

ゆっくりと寮長室のドアを開けたタイラントくんの目に飛び込んできたのは、
部屋の一角を所在なさげに見つめる2人の部下。
その視線を辿っていくと・・・

・・・デスちゃんが、先ほどの骨壷を手に取り、食い入るように見ていました。
表の焼き具合をじっと見たり、裏返して底をチェックしたり、一心不乱に壷に見入っています。
タイラントくんが、予想外の出来事に目を丸くしていると、デスちゃんがタイラントくんに気付きました。
デスちゃん「あ、タイラント。どこに行ってたんだ?探してたんだぞ。」
タイラント「う、うむ。まぁ少しヤボ用でな。」

デスちゃん「そうか。いや、この骨壷は焼き加減といい形といい、すごく良いな!と思って。
      私もコレ欲しい。どうしたんだコレ?」

タイラント「・・・・・・・!!
      あ、いや、えーとだな。それは残念ながら売り物じゃないんだ。我が作った。」
デスちゃん「そうなのか・・・」
タイラント「やる。」
デスちゃん「えっ?」
そして、タイラントくんは視線をそらし気味に、頭を掻きながら照れくさそうに言いました。
タイラント「それはもともとデスちゃんにあげるために作ったものだからな。
      試験結果を学園新聞で読んだ。素晴らしいじゃないか。
      ・・・よく頑張ったな。だから、そのお祝いとして・・・」
セリフの最後の方が、ごにょごにょと小声になってしまいましたが、大まかな主旨はわかったのでしょうか、
デスちゃんは骨壷をぎゅっ、と抱きしめて言いました。
デスちゃん「ありがとう・・・嬉しい。」
タイラント「そうか、お前が喜んでくれるなら、我も作った甲斐があったというものだ。」
タイラントくんの顔が、ますます赤くなっていきました。

デスちゃん「ところでタイラント、今日はもう何も予定はないのか?」
タイラントくんが頷きました。するとデスちゃんがずいずいと近寄ってきて、
タイラントくんの腕をとり、引きずりだしました。
デスちゃん「そうか。ならば今から食事に行くぞ。」
タイラント「えっ?」
デスちゃん「おぬしからのお祝いは貰った。だけどまだ私自身が、自分にごほうびをあげていなくてな。
      パーッと美味しいモノでも食べたいが、一人だと味気ないじゃないか。」
デスちゃんは、そのまま片手に骨壷を持ち、もう片手でタイラントくんをひきずりながら、寮長室から出て行きました。

   炎神「女の子への贈り物で、迷わず骨壷を作ったタイラント様と」
   火神「その骨壷をいたく喜んだデスちゃん、か。」
   炎神「なんというか、よくわからないなぁ、あの2人は。」
   火神「ま、楽しそうだし、それならそれでいいんじゃないか?」



タイラントくんとデスちゃんが、リガウの夜の草原を歩いています。
夜道は暗く危ないから、というもっともらしい理由をつけて、二人はまだ腕を組んだままでおりました。
タイラント「今気付いたが。デスちゃん、壷まで持ってきちゃったのか。」
デスちゃん「あ、まぁ勢いで出てきてしまったから、つい、な。」
タイラント「重いだろう。持ってやろう。」
デスちゃん「そうか。だがタイラントよ、絶対!落とすなよ!」
タイラント「わ、わかった。でもまぁ、もし割ってしまっても、また作るさ。」
デスちゃん「いやだ。」
タイラント「え?」
デスちゃん「私は、『それ』が欲しいんだ。お前がお祝いに作ってくれた、それがな。」
タイラント「わかったよ。絶対に落としたり、離したりしないさ。」

それを聞いて、デスちゃんが、組んだ手に軽く力をこめました。

デスちゃん「・・・絶対に、離すなよ。絶対にだぞ、タイラント。」
タイラント「・・・あぁ。わかってるさデスちゃん。離さない。絶対に離すものか。」

今のセリフのやりとりをしたあと、2人の目が合いました。
そして一瞬の微妙な沈黙の後、2人同時に頬を染め、2人同時に顔をそらしました。

デスちゃん「えーと、は、離すなよってのは、ツボのことだぞ!わかってるな!」
タイラント「わ、わかっている。絶対に離さないさ、ツボをな。」
デスちゃん「そ、そう。ツボの話だ、ツボの」
タイラント「う、うむ。ツボだツボ。」

そのまま2人はツボだツボだと言いながら歩いていきました。
会話の内容は、どことなくぎこちなくなってしまいましたが、2人の腕は固く組まれたままでした。

そんな2人の頭上には、炎のように赤くて鎌のように鋭い三日月が、こうこうと輝いていました、とさ。


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