幕間劇「好敵手」

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・・・覆い隠すように深い霧。侵入者を拒み裁く嵐。
曰く『悪魔の住む島』。曰く『神の住む島』。
・・・魔の島。

魔の島の一室。どこか生活感のあるその一室で、二匹のゴブリンがティーを飲みながら何か話しています。
???「いやあ、こうやってサシで飲むのも初めてだねえ、メイジャン。」
メイジャン「貴方様とこうして向かい合えるなんて、なんと恐れ多い。セージサマ。」
セージ「あっはっは、君はまったくオーバーだなあ。」
メイジャン「私は心から貴方様を尊敬し崇拝しておりマス。私にとっては貴方は神。
      死ねと言われれば死にますし、戦えといわれればたとえマスターにでも立ち向かいマス。」
セージ「・・・困ったなあ、まさかそこまで僕を慕ってくれているなんて・・・他のみんなとは大違いだね。」
メイジャン「ナイト、ソルジャー、ディガーはマスク島へ肉の壁を連れてビーチバレーに行きましタ。
      まったく、なんという職務怠慢ブリ!いつセージ様が指令を下されるかわからないノ二・・・」
セージ「そうそう、素直に僕に従ってくれるのは君だけだよ、メイジャン。
    ・・・あの三人はケツを蹴っとばさないと動こうとしないからねえ。
    ・・・まぁ、もうすぐ彼らも必要なくなるんだけど・・・うふふ。」
メイジャン「どういうことですカ?」
セージ「新しいオモチャが手に入ったのさ。・・・ふふ、一緒に見に行くかい?」

3分後。
その部屋には、何に使うのか分からぬような怪しげなものが散乱していました。
部屋の中にはベッドが2台あり、一台ずつに一人の男が乗っておりました。
片方は白いローブに身を包んだ痩せ型の男。男は奇怪な事に片方の腕がありませんでした。
もう片方の男は、白髪で筋肉質、ずんぐりとした体つきの男です。
その二人の男を、怪しげに笑いながら見つめる一匹のゴブリンと、同じく見つめるゴブリン、
計二匹のゴブリンががおりました。
メイジャン「・・・彼らは・・・一体?」
メイジャンは若干困惑したような調子で言いました。
セージ「腕の無いのはマックス。メルビルの騒乱で手に入れたのさ。
    もう片方は海賊ブッチャー。海底神殿で手に入れたものだ。
    二人にはいま洗脳を施している。今は眠っているが・・・起きた時は見物だよ。うふふ。」
メイジャン「洗脳・・・というト?」
セージ「『アニメート』を僕の杖で強くしたものさ。目覚めた瞬間から彼ら二人は僕の下僕となる。
     それこそ僕が死ねといえば死ぬし戦えと言えばマスターにも戦いを挑むようなね。・・・ふふふ、楽しみだ。」
メイジャン「・・・」
セージ「・・・ん!」
セージは、丁度目線の先の壁に掛けてある『鏡』の異変を感じ取りました。
鏡の中が、突然水が波打つようにうねり始めています。
セージ「・・・マスターの水鏡が・・・誰だ?」
『水鏡』へと駆け寄るセージ。
揺れる波紋は、一定しない形から徐々に何かの型を形作っていき、次第になにか顔のような形成していきます。
その顔を見たセージは、驚いたように言いました。
セージ「君は・・・いや、あなたは・・・リザードロード様!」

鏡の奥の顔は、紛れもなく6将魔の一人、リザードロードでした。
リザードロード『おまえは、えーと・・・ゴブリンセージ?
        なぜお前がマスターの水鏡を。マスターはどこへ?マスターを呼んでくれ。』
セージ「実はですね、マスターは外出中でして、あ、(あ、やべ。ま、いいや。)
    ・・・・・・代わりにこの僕が水鏡の管理を任されているのです。
    なんの報告ですか?よろしければ僕が承りますよ。」
リザードロード『お前が?・・・まぁ、いい。・・・デーモンコマンドを呼んでくれないか?』
セージ「デーモンコマンド様に用があるんですか?よければ僕が伝えておいてあげますよ。さぁ、なんなりと。」
リザード『いや、デーモンコマンドでなければ意味が無いのだ。デーモンコマンドを早く呼んでくれ。』
セージ「・・・デーモンコマンド様ですね?わかりました。ちょっと待ってください。」
セージはそう言うと、その場で目を瞑り俯きました。
メイジャン「セ、セージ様?」
眠っているかのように俯き目を瞑ったまま微動だにしないセージ。
1分ほど経った時、セージは目を覚ましたようにガバッと顔を上げました。
セージ「・・・いない?・・・デーモンコマンド様が、この島の中にいない!」
心なしか先程よりも動揺したような口調で、そう呟くセージ。
リザードロード『なんだって?』
セージ「治療終わって安静にしているはずなのに・・・
    それがなくとも彼はマスターからの指令なしには島を出ない人なのに・・・なぜ?」
リザードロード『そうか、デーモンコマンドは不在か。・・・すまんな。ではまた連絡する。』
リザードロードの顔が崩れ、うねり、水鏡は再び何の変哲も無い鏡に戻りました。
セージはそれを意に介していないかのように変わらず独り言を続けます。
セージ「・・・デーモンコマンドはどこへ・・・?まさかリザードロードと同じように・・・いや、まさか・・・」
メイジャン「ど、どうしたんですカ?セージ様?」
うわごとのように呟くセージに、メイジャンが駆け寄ります。
セージ「・・・ふっ、大丈夫だ。
    まさかあのデーモンコマンドに限って他の将魔のように単独行動を選ぶなんて事はありえない・・・!
    彼の穴を埋めるのはマックスやブッチャーには到底無理だ・・・
    だから・・・決して柵をまたぐような行為はするんじゃないぞ、デーモンコマンド・・・!」



【どこかの密林】
鬱葱と生い茂った木々の間に、二人の男女がいました。
いや、『匹』と言ったほうが正しいでしょうか。なぜなら彼らは魔族なのですから。
6将魔が一員、デーモンコマンド。そして彼に従えるラミアちゃんです。
デーモンコマンド「さぁ、始めるぞ。」
デーモンコマンドはそう言うと、術の構えをとりました。
ラミア「・・・っていうか。んな事ホントーにできるんですかぁー?」
たまらずラミアちゃんは疑問を口にします。
ラミアちゃんは、今からデーモンコマンドがやる事の成功を疑っていました。
デーモンコマンド「高等な魔族ともなれば実現させるのは容易い事だ。
         とは言ってもこんな芸当が出来るのはそういないがな。
         デーモンコマンドは他にも何百といるが、
         この術ができる”デーモンコマンド”は、マスターに育てられた私くらいのものだろう。
         そもそもできぬ事は私はやらん。黙って見ていろ。さぁ、始めるぞ。」
ラミア「同じセリフ二回続けて言っちゃいましたね。」
デーモンコマンド「はぁっ!」
一声上げたと思うと、突如デーモンコマンドを金色の光が覆い隠すように包み込んでしまいました。
ラミア「きゃっ!」
あまりのまぶしさに、ラミアちゃんも目を手で覆います。
そのまま・・・何秒経ったでしょうか。
デーモンコマンド「人化完了だ。」
不意にデーモンコマンドの声が、風の音と葉擦れの音、虫の声と共にラミアちゃんの耳に割り込んできました。
ラミア「・・・?」
そろ〜っと手を離すラミアちゃん。
その目が前方のデーモンコマンドを捉えたとき、ラミアちゃんは驚きよりも先に困惑の感情をとりました。
なぜならそこにいたデーモンコマンドは・・・
ラミアちゃんが目を覆う前までそこにいた魔物、デーモンコマンドではなく・・・
紛れもなく”人間の姿になっているのですから”。
ほけっと見ていたラミアちゃんが、頭の中で今起こった事を整理し、理解し、そして驚きの絶叫を上げるのはすぐでした。

ラミア「う、うぎゃーーーー!!マジで人間になっちゃったよーーーー!!」
悲鳴にも似た絶叫を上げるラミアちゃん。人と化したデーモンコマンドはうざったそうに言いました。
デーモンコマンド「何をそんなに驚いているんだ。ビックリマン世代か?」
ラミア「だって、その・・・その・・・」
デーモンコマンド「だって出来るって言ったじゃん。出来るって言ったんだから出来るに決まってんじゃん。」
ラミア「確かにそーですけど・・・」
ラミアちゃんの目が、デーモンコマンドの顔、そして目を捉えます。
丸くパッチリと開いており、それは魔物だった時のデーモンコマンドの不気味な目を連想させる事はありません。
ラミア「目、大きいですね。女の子みたい。」
デーモンコマンド「私は凝視使いだからな。それに人に成る前も十分大きかっただろう?目。」
ラミア「確かにそーですけど・・・」
次にラミアちゃんはデーモンコマンドの頭上に目を走らせました。
黒髪が包む頭の両側から、魔物の時にもあった角が変わらず覗いています。
ラミア「角、おもいっきり出ちゃってますけど大丈夫なんですか?」
デーモンコマンド「角くらいどーってことなくね?お前も角あるけど誤魔化せてただろ?」
ラミア「確かにそーですけど・・・(っつかキャラ変わってないか?デモコマ様)」
ラミアちゃんの目がそのままデーモンコマンドの顔、髪形を捉えました。
ラミア「・・・髪黒いですね。しかも眉毛の所まで垂れてますよ。おぼっちゃんみたい。」
デーモンコマンド「これはこれで意味があるんだ。そら・・・」
ラミア「!!」
デーモンコマンドは自ら髪を掻きあげました。
ちょうど額の中心に、なんともう一つ目があるのです!
ラミアちゃんは驚きと共に、変わる前も目が三つあった事を思い出し一人納得しました。
デーモンコマンド「さすがに目が三つあるのがバレるのはまずいだろう?」
ラミア「確かにそれもそーですね・・・でもなぁ」
不満そうに言いながらデーモンコマンドに近づくラミアちゃん。
ラミアちゃんはデーモンコマンドの完全に分け目がなく垂れている髪を、
うまく額の目が見えず眉毛だけが見えるように掻き分けました。
ラミア「せめて・・・こう、少しでも分けないとカッコ悪いですよ。」
デーモンコマンド「カッコ悪いとか関係あるのか?」
ラミア「おもっくそ関係ありますよ。」
ラミア(しかし・・・大分イメージ変わったなあ。まぁ、怪物から人間だしな・・・当たり前か。
    面影あるのなんて角とムスッとした感じの口くらいだ。)
デーモンコマンド「さぁ、準備も整ったし、早速人間達の元へと繰り出すとするか!ふふ、少し楽しみになってきたぞ。」
ラミア「ちょ、まって!せめて学生服くらい着ましょうよ!」



クジャラート舎、南エスタミル寮の入り口。
学生服を着た角二人、デーモンコマンドとラミアちゃんが、立っていました。
デーモンコマンド「さて、私達がここへ来た理由、目的を復習しておくぞ、ラミア!」
ラミア(っつーかやたらノリノリだな、おい・・・)
デーモンコマンド「あの海底神殿の件の後、この私は少しばかり人間達の暮らしに興味を持った。
         人間達の暮らしを垣間見る事、そしてメルビル寮だかにあるとかいう図書館にて糸石の情報を集める事。
         大きく分けて私達の目的は二つだ!
         ラミア。お前は人間達の事にくわしいから連れてきてやったんだからな。案内は頼むぞ。」
ラミア「・・・はーい。(っつーかデモコマ様、人変わってねえか?なに?これが噂のこっくりさんってヤツですか?)」
デーモンコマンド「あと・・・私の事は、そうだな。『デモンド』とでも呼んでくれ。
         本名で呼ばれると・・・ちょっと困るかもしれないからな。」
ラミア「はーい、デモンドさま。
   (取ってつけたような不自然な名前だなあ。センスまで退化しちまってるよデモコマ様ったら。)」
デーモンコマンド「あー、様づけもしなくていいぞ。さん、でいいよ、さん、で。
         様づけはちょっと怪しまれるかもしれないからな。」
ラミア「わかりました、デモンドさん。今後ともよろしく。
   (なんか人になったら突然威厳消えうせたなあ。かもしれないってなんだよ。かもしれないって。)」



【クジャラート舎:南エスタミル寮】

南エスタミル寮は、マルディアス学園一治安が悪い寮です。
この寮では校則など無いに等しく、毎日のように窃盗や傷害などの物騒な出来事が起きています。
デモンド「ふむふむ、騒がしい街だな。でも・・・なんか、こう、落ち着くっていうか・・・ほのぼのする。」
ラミア「ここは南エスタミル寮。学園一治安が悪く、
    ほのぼのなんか絶対出来ないような悪意渦巻くデンジャラスタウンです。」
デモンド「ミルザの言う通りだった・・・やはり私は今まで偏見と妄執に駆られて生きていたんだなあ」
ラミア「ここの学生に少しでも触れてみてください。今にその考えぶち飛びますよ」
たわいもない事をうだうだ話しながら南エスタミル寮を回る二人。そして・・・
ドン!
ごろつき「おいコラ、どこに目ェつけて歩いてんだ角男。」
ラミア(触れちゃったーーー!!)
デモンド「あ、ごめんなさい。」
ラミア(謝っちゃったーーー!!)
ごろつき「ケッ、素直にあやまってんじゃねぇーぞ!今度ぶつかったらぶっ殺すからな」
ごろつきは、特に二人に何をするわけでもなく去っていきました。
ごろつきの後姿が人波で見えなくなると同時に、デーモンコマンドが言いました。
デモンド「ふむ・・・これが人との触れ合いというヤツか・・・悪くないな触れ合いってヤツも。」
ラミア「いや、待て待てェ!!悪くない触れ合いっつーより悪いヤツに因縁つけられただけでしょォォー!!」
子供「腹減ってんだ、腹が。」
デモンド「ん?」
デモンドが視線を足下に移します。丁度足の辺りに、小汚い学生服を着た男の子がいました。
学生ズボンをぐいぐいと引っ張りながら何か喋っています。
ラミア(来たよ・・・南エスタミル寮名物、『物乞い』)
子供「何も食べてねぇんだ、何も」
デーモンコマンドは膝をつき男の子と同じ目線に立ち、言います。
デモンド「腹が減ってるのか?」
子供「腹減ってんだ、腹が。」
デモンド「何も食べてないのか?」
子供「何も食べてねぇんだ、何も」
ラミア「ちょっ、デモンドさぁん。ここは逃げましょうよ・・・こんなガキ、かまってるだけムダですよ。
    将魔ともあろうお方が・・・」
デモンド「わかったわかった。これをお金にして、好きなもの買いな。」
ラミアちゃんの言ってる事を無視し、デーモンコマンドはなにか黒く輝く宝石を子供に渡していました。
それを見たラミアちゃん。デーモンコマンドが渡しているものが何なのかを認識し・・・
ラミア「えーーーーー!?」
デモンド「の、のわっ、なんだいきなり!大声上げて!」
ラミア「ちょ、おま、それダーククリスタルじゃないっすか!!超レアアイテムのダーククリスタルじゃないっすか!!
    んなのこんな子供に上げちゃってどーすんっすか!!!」
デモンド「うるさいなぁ。どーせ私には必要ないものなんだ。上げたっていいだろ?っつーかなんでお前がんな怒るわけ?」
ラミア「そりゃっその・・・全国の青の剣ハンターの代弁を・・・」
子供「ありがとうおにいちゃん。地下に盗賊ギルドのアジトが・・・」
ラミア「うるっせえええ!!!散々既出な事嬉しそうに語ってんじゃねえよクソガキいいい!!!!!」
子供「醜い声出してんじゃねーよ黙れブス失せろカス」
ラミア「・・・・・・はい。」

デモンド「いやあ、しかし何かいい事をした気分だなー!たまにはこういうのもいいものだ!」
ラミア「そうですね・・・
   (っつーかデモコマ様ったら単なるお人よしになっちゃったよ・・・
    人化すると性格までへタレちゃうのね・・・はぁ、ブルーになっちゃうわ〜)」



【ローザリア舎:ヨービル寮】

南エスタミルから船を経由し北エスタミルへ。そこから更に船を経由し、二人は港寮、ヨービルにつきました。
デモンド「うむ、空と海に囲まれたいい寮だな。魔の島では感じられぬ、この開放感・・・」
ラミア「ここはヨービル寮。
    何がなんだかよく分からないけどとりあえず”目が回る”と専らの評判で人気0&めちゃくちゃ影の薄い寮です。」
デモンド「しかし、さきほどの寮と比べると随分と小奇麗な寮だな。」
ラミア「ローザリア舎のモットーは『とりあえず見た目白けりゃ中身が黒くてもべつにオッケーじゃね』ですから。」
デモンド「ふーん・・・うっ、なんか早くも目が回ってきた。次いこ、次。」
ラミア「何もしてないのにもう目ェ回っちゃんたんスか!!
    ・・・・っつか、確かに・・・あたしも目回ってきた・・・なんの禁呪法ですかコレ」

「おっ、デーモンコマンドじゃないか!!」

デモンド・ラミア「!!?」
二人の背筋が凍ります。人化し変装してるにもかかわらず、その名が二人の間に響き渡りました。
声は背後から。二人はバッと声のした方向を振り向きました。
デモンド「お前は――」
ラミア「あなたは――」
デーモンコマンドとラミアちゃんの表情が、その顔を確認するなり瞬時にやわらぎました。
その人物は、二人がよく知っていてなおかつ仲のいい人物なのですから。
いや・・・人物、というのは適切な表現ではないでしょう。”魔物”、が最も適切な表現でしょう。

デモンド「リザードロード!」
ラミア「リザードロード様!!」

そこにいたのは、デーモンコマンドと同じ六将魔が一人、リザードロードでした。
学生服を着込んではいますが、顔はいつものトカゲのままです。

ラミア「っつーかリザード様、そのトカゲ面でよく人間寮を歩けますね」
リザードロード「大丈夫さ。みな何かの仮装の類としてみてくれてるから。気にする事は無い」
デモンド「あの、ちょっと視線がかなり気になるんだけど。視線が。」
あたりの学生達はみなリザードロードをじろじろ見ながら通過しています。
リザード「まぁ、とにかくまさかこんなに早く会えるとは思わなかったぞデーモンコマンド。」
デモンド「ちょっと待てリザード・・・私の事は『デモンド』と呼んでくれないか?本名そのままで呼ばれると・・・
     ほら、なんか、問題発生しそうじゃん。」
リザード「はぁ?なんでそんな取ってつけたような不自然な名前で呼ばなきゃいけないんだよ?」
デモンド「今のお前のナリほど不自然なものはないがな」
リザード「はいはい、わかったわかった。ディ・モールトだっけ?」
デモンド「デモンドな。・・・そもそも、リザードよ。
     お前は何故こんな人間寮なんかにいるんだ?そんな妙な格好してまで・・・」
リザード「まぁ、色々あるんだ。それはそうと、さっきバルハラント寮のスケート場行ってきたぞ。
     初心者のみっともない滑り方と必死な顔がマジ爆笑もんだった。」
デモンド「んな事は聞いてねぇ!誰がいつアイススケートのサディスティックな遊び方が聞きたいと言ったよ!」
リザード「10年前くらいかな。」
デモンド「取ってつけたような言いワケかますな!貴様は人を小ばかにして得意げな小学生か!」
リザード「ともかく、お前に頼みたい事があったんだ。こんな所で会えて、丁度よかったよ。」
デモンド「頼みたい事?・・・そういえば、お前あのクリスタルレイクの事件の時から魔の島を離れていたな。
     ・・・あの件で何かあったのか?」
デーモンコマンドの顔つきが神妙になります。
リザード「・・・いや、その件とは何の関係も無いんだが、実は、その、ジュエル貸してもらいたくて・・・」
デモンド「金かぁぁ!!単なる金目当てかああ!!!」
リザード「お恥ずかしながら・・・そうなんでちゅう。」
デモンド「可愛さで誤魔化そうとも無理があるわ、そのトカゲ面じゃ!」
ラミア「っていうかそもそもデモコマ様がジュエル持ってるわけ無いでしょうが。同じ魔物ですよ?」
リザード「あっ、そっか。」
デモンド「早く気づけやこの爬虫類」

リザード「チッ・・・ジュエル借りて、
     そのまま何ヶ月も返さず殺るか殺られるかのデッドオアアライブを楽しもうとしてたのに・・・台無しだぜ。」
デモンド「まぁ、今までの貴様の発言は無かった事にしてやるよ。よかったな、リザード。」
ラミア「一件落着ですねー。デモンドさぁん。」
リザード「わーい」
デモンド「さっ、バファル寮へ行くぞ、ラミア・・・」
リザード「あっ、ちょまっ、待て!待ってってば!まだ話しあるんだから!」
デモンド「あーん?」
そそくさと帰ろうとしていた二人。誰の目にも明らかに不満そうな顔でリザードロードの方へ向き直りました。
リザード「その・・・なんてゆうか・・・そのォ・・・モジモジ」
デモンド「おまえ、『とりあえず』感覚で呼び止めたな?そうだな?」
リザード「ご、ごめんなちゃあい♪」 デモンド「だから可愛くないって!!違和感があるだけだぞ」
デモンド「まったく、ふぅ・・・」
会話が止まり、三人の間に沈黙が響き渡ります。
数十秒たち、デーモンコマンドとラミアがあきれ果て帰ろうとした時、
リザードロードが何かを思い出したように言いました。
リザード「そうそう、デ・・・モンドよ。お前こそ何故この人間寮にいるのだ?」
デモンド「ん?私か?」
リザード「そう。私。」
デモンド「ふっ・・・私もお前がいぬ間に色々あってな、
     もう少し人間という物を知ってみたいという気分になったのだ・・・」
リザード「へぇー、そう。しかし珍しいなァ、お前がマスターの元を離れるなんて・・・あ、違うか。
     マスターがいないからこそこうして人間寮に出てきたのか!」
デモンド「? どういうことだ?」
リザード「ああ、実はこないだ金の件でお前を呼びに魔の島の水鏡に連絡したんだ。」
デモンド「金のためだけにわざわざそこまでしたのかキサマ」
リザード「そしたら、マスターではなくなぜかゴブリンセージが出てなぁ。
     あいつ曰くマスターは不在らしいんだ。マスターが不在だなんて全く珍しい・・・」
デモンド「マスターが、不在!?ゴブリンセージはそう言っていたのか!?」
リザード「あ、ああ。な、なんなんだそんな物凄い剣幕で。泣く子も黙るぞ。
     カリスマ保育士として全国的に有名になるぞ。世界中の幼稚園から引っ張りだこになるぞ。」
適当に茶化そうとするリザードロードを尻目に、デーモンコマンドは真剣な顔つきのまま呟き始めました。

デモンド「待てよ・・・私が海底神殿へ言ったあの日・・・
     数日前まではセージ曰く『マスターは今研究で忙しい』はずだったのに・・・
     マスターが自ら島を出る事なんてありえん。セージのやつ・・・嘘をついたのか?
     いや、咄嗟に外出と言ってしまったのか・・・どちらにせよおかしいな。
     そもそもなぜ下っ端である奴がマスターの指令を伝える伝言板であり、水鏡を管理してもいるんだ?
     奴は一体・・・」
リザード「ほっとケーキ、ほっとケーキ。詮索しても意味無いって。
     どうせたわいもねー答えが待ってるだけだって。ほっとおしるこ。」
デモンド「やかましいわ!・・・ふん、だが確かに今ここであれこれ考える必要は無いな。
     マスターの研究が終わり次第直々に問い詰めてみるとするか。」
リザード「うん。それがいい、それがいい。だが、それがいい。」
ラミア「アンタ、さりげなくボケるの大好きですね。」
リザード「俺は貴族だからな。まぁ、あれだよ。貴族は、パンが食えないような貧民を見たらこう言うだろ?
    『パンが食えないならケーキ食えばええやん』
     つまりそういう事なんや。貴族っちゅーのは知らず知らずに人を苦しめたり笑かしたりするような人種なんやて。
     それを分からんと生涯苦労するはかためんたい。」
ラミア「アンタあきらかに狙ってんだろ。」
デモンド「・・・さて、リザードよ。私達はそろそろ別の場所に行くぞ。これから一人で何すんのか分からんが頑張れよ。」
リザード「えぇ〜、せっかく久しぶりに再開したんだしもうちょっと話そうよォ。
     俺と仲いい奴なんて君くらいだからさぁ。切なさ乱れ打ちで泣いちゃいそぉだよォ」
デモンド「すまんが、私は視線が気になる性質でね・・・」
ラミア「あたしも。かなりハズいんですけど。」
あたりの学生達はみなリザードロードをじろじろ見ながら通過していきます。
リザード「んなら仕方ないな・・・まっ、俺がいなくても頑張れよ。
     俺だって影でマスターのために頑張ってるんだからな。」
デモンド「ああ。そちらこそ、ヘマして野垂れ死ぬんじゃないぞ。」
ラミア「さよならー」
リザード「さらばだー」
二人は、港の方へ向かって早足気味に去っていきました。
リザードロードの姿が確認しきれなくなるほど遠ざかったとき、デーモンコマンドはボソリと言いました。

デモンド「・・・とんでもない足止め食っちゃったな。」ラミア「ですね。」



【バファル舎:メルビル寮図書館】

続いてデーモンコマンドとラミアちゃんが向かった場所は、メルビル寮図書館でした。
メルビル寮の図書館は、マルディアス学園唯一の図書館であり、
学園内の全ての情報が詰め込まれていると言われる資料の宝庫なのです。
情報を求め情報に飢える生徒達は、みなこの図書館にかよっていました。
デモンド「しかし・・・これだけ本があると何から手をつけていいか分からぬな。」
糸石コーナー。膨大な本の壁に圧倒され、デーモンコマンドはたまらず唸りました。
デモンド「こんなに分厚い本が眼前一面ズラリ・・・人間はすごいな。こんなに大量の本を・・・」
ラミア「まぁ、同じ本が幾つもあったりして実際の所は見た目の4分の一以下くらいしか本の種類は無いんですけどね。」
デモンド「これら全ての本を読み終えたその時、私はどれだけの情報を手の内にしているだろうか・・・
     この本の量からして、とんでもない事になりそうだな。」
ラミア「被ってる情報しか載ってない本や、明らかに必要ないことしか書かれてない本ばかりあって、
    実際ほとんどは燃やしても大丈夫と専らの噂です。」
デモンド「・・・たとえばこれとかか?」
デーモンコマンドは本棚から
『糸石の匂いはフローラル風味・・・とかだったらいいな』という本を取り出し指差しながら言いました。
ラミア「・・・・・・まぁ、ネタとしては結構いけるんじゃないですか?」
デーモンコマンドはその本をパラパラと読み、一度眉をしかめると、すぐさま元の場所に戻してしまいました。
ラミア「本のタイトルは、その本に記述されている事全てを指し示していますからね。
    片っ端から読んでいっては日が暮れてしまいます。
    役立つ情報がありそうなタイトルの本だけを読んでいきましょう。」
デモンド「わかった。」
本の壁を一通り見回します。何十秒か経った後、デーモンコマンドは『運命の赤い糸石』という本を手に取りました。
ラミア「ありゃ、なんか随分とストレートな題名の本ですねー。シンプル・イズ・ザ・ベストってやつですか?」
デモンド「そう。そのシングル・ウィズ・ザ・ゲストって奴だな。」
意味もよく分からないままにそう言った後、ゆっくりと本を開き、読み始めました。

『運命の赤い糸石はとても希少価値が高い宝石であり、
何者をも惹き付ける輝きと何者をも唸らせる魔力を秘めているという。
10種類ある事が噂されているが、その噂の発信源も、その噂が真実か否かも定かではない。
(判明、あるいは噂されている格石の名前と在り処は下述とする)
幻のアメジスト:ローザリア舎、イスマス寮の宝として保管されている。
水のアクアマリン:ローザリア舎、クリスタルレイクのどこか
気のムーンストーン:どっかの密林
火のルビー;場所不明
他全部不明』

デモンド「・・・随分適当だな。というか下に行くにつれ適当になってきてるような・・・使えん資料だな。」
ラミア「どうやら外れみたいですね。じゃ、次いきましょ。」
デーモンコマンドは『運命の赤い糸石』を元の場所に戻すと、次は『気のムーンストーン』という本を手に取りました。
デモンド「おお、バッチリ名指しだな。
     気のムーンストーンは確かミルザの手にも我々の手にも無いはず・・・ふふ、楽しみだ。」

『気のムーンストーンは、邪気を退け病を払う効能があると言われている  おわり』

デモンド「・・・こ、これだけか?後のページ全部白紙じゃないか!
     というか、在り処もわからんはずなのになぜ効能だけはバッチリ解明されてるのだ。
     これ全部想像だろ。想像上の産物だろオイ。」
ラミア「・・・大外れみたいですね。じゃあ次行きましょ。」
デーモンコマンドは『気のムーンストーン』を適当な場所に乱暴に挟むと、再びタイトルの羅列を目で追い始めました。
・・・その時です。
おもむろにデーモンコマンドらがいる糸石コーナーに、楽しそうに話す二人組が立ち入ってきました。
デーモンコマンドとラミアちゃんにとってはとても因縁深い二人組が。
デモンド・ラミア「・・・・・・!!」
その二人組を確認したとき、デーモンコマンドとラミアちゃんは瞬時に凍りつきました。

デモンド・ラミア(なぜここにあいつらが・・・・・・!!)
二人の思考が一致した瞬間です。

ラミアちゃん(あいつらが来る可能性も無い事は無いという事は分かっていたけど・・・
       変装してるとはいえ不安だな〜 ウワ〜ッ 来るな〜)
デモンド(ぬぅ・・・なぜ奴らがここに・・・まさか私の気配を感じ取って・・・
     いや、ありえない筈だ、そんな事・・・ まさかこんなに早く再会してしまうとは・・・)
ラミアちゃんは恐怖を含んだ不安を、デーモンコマンドは気まずさを含んだ不安をそれぞれ感じていました。
デモンド(うう・・・話しかけられたらどういう風な調子で話せばいいんだろう・・・
     いや、変装しているし、話しかけられるわけが無いか・・・はは)
デーモンコマンドの不安は直後に現実になりました。

「お、珍しいな俺たち以外に糸石コーナーの本を読んでる奴がいるなんて。」
「うん。糸石の事なんざ試験にも出ないしいつもは人0なんだけどね・・・
 ・・・お〜い、そこのおふたりさ〜ん!!」

デモンド・ラミア(!!!!)

「ばっ・・・!おまえ、何呼びかけてん・・・!・・・・・まぁ、いいか。」

デモンド「・・・は、はい・・・・・・」
デーモンコマンドは、
『自分は変装している、今ここに存在しあの二人に呼ばれたのはデーモンコマンドではない、デモンドだ。』
と自らに言い聞かせながら、恐る恐るその二人組の方を振り向きました。
ラミアちゃんも続いて振り向きます。
二人組は、別段顔色を変えずに続いて話しかけてきました。

ミルザ「やぁ、こんにちは。君達も糸石に興味あるの?僕はミルザ!で、こいつはオイゲン!」
オイゲン「いやぁ、ごめんなさいね。こいつったらやたら馴れ馴れしい奴で・・・はは、よろしく。」

デモンド「あ、はい・・・よろ、しくです。」
普段の威厳を微塵も感じさせない声で、か細く呟くようにデーモンコマンドは言いました。
ミルザとオイゲン。海底神殿でデーモンコマンド達と激戦を繰り広げた、あの二人組です。
互いの二人組は戦場のみでの関係。無論敵同士以外の何物でもありません。
そんな互いの二人組にとって、ここが戦場でない事と、
片一方の組がもう片一方の正体に気づいていない事は問題でないようでかなりの大問題でした。
ミルザ「きみ、名前は?」
デモンド「あ、はい。デ、デモンド、です。」
デーモンコマンドは早口気味に言いました。
ミルザ「じゃあそっちの女の人は?」
ラミア「・・・えと、その・・・ラ、ラミ、ラミコ、です。」
ラミアちゃんは極力顔を見せないようにと俯きながら、これまた呟くように言いました。
ミルザ「デモンドくんとラミアちゃんか!へぇー。」
別段怪しむような素振りを見せないまま、ミルザくんは言いました。
横で呆れたような顔をしながら見ているオイゲンも、さして怪しんでいるような様子はありません。
デーモンコマンドとラミアちゃんは心の中でホッと胸をなでおろしました。
しかしその安堵もつかの間、ミルザくんの話は続きます。
ミルザ「君達も運命の赤い糸石、探してるの?」
デモンド「は、はい。」

ミルザ「へぇー、そうなんだ!実は僕達も糸石を捜してるんだ。
    ・・・君達も糸石を捜している。・・・僕達、ライバルだね。」

デモンド「・・・ライバル。」
・・・ライバル。
ミルザの言っている事がよく頭に入ってこない中、その言葉だけがデーモンコマンドに引っかかります。

――まだ、やるかい?――
――その必要はない・・・。お前の、勝ち、だ・・・――

あの時の記憶が、一瞬デーモンコマンドの頭を駆け巡ります。

ミルザ「糸石を追う限り・・・これからも僕達また会うかもね。・・・デモンドくん、握手、いいかい?」
その無垢な手をデーモンコマンドに向かい差し出すミルザくん。
ミルザの手が・・・
差し出してる本人は気づいてなくとも、間違いなくかつて戦ったあのデーモンコマンドに向かって差し出されています。
デモンド「・・・あ、ああ。」
おずおずと近寄るデーモンコマンド。
静かに、ゆっくりと、デーモンコマンドもその手を差し出しました。
ラミア(デモコマ様――)

デーモンコマンドとミルザの手が、硬く握り交わされました。

デモンド(・・・・・・これは――)
ミルザの手の平から、彼の体温がデーモンコマンドに通じ渡ります。
しかし、デーモンコマンドにとってはそれ以上に熱い何かが――

気がつけば握手はミルザくんから組み外されていました。
そしてデーモンコマンドは、確かに何か熱いものが胸に湧き上がっているのを感じていました。

オイゲン「まったく、ミルザ、お前なぁ〜。初対面の人間をいきなりライバル視して握手とかちょい有り得ないぞ?」
ミルザ「握手は大事だよ!僕はスポーツマンシップに乗っ取っただけさ・・・」
オイゲン「そういう意味じゃなくて!・・・あー、デモンドさん、だったか?
     迷惑だったならスマンね。今あった事は忘れてくれ・・・」
デモンド「いや――忘れない。」
オイゲン「?」

デモンド「またどこかで会おう。我が・・・好敵手よ。」

オイゲン「え」
ラミア「え」
デーモンコマンドのその一言に、意表をつかれたのか固まるオイゲンとラミアちゃん。
デモンドの目がミルザくんをまっすぐに捕らえます。ミルザくんもまっすぐにデモンドを見据え・・・静かに頷きました。



【魔の島】

ラミア「デモコマ様ぁ。ミルザになに随分な事言っちゃってるんですかぁ。違和感バリバリでしたよぉ?」
二人は再び魔の島へ帰ってきていました。
デーモンコマンドは無論人化を解き、元の魔物の姿に戻っていました。
デーモンコマンド「ふふふ・・・ライバル。好敵手、か。悪くないな・・・そういうものも。
         今まで全てはマスターの為だったが・・・ククク。面白い。」
ラミア「あ、あのー、無視しないで下さいよ、何をブツブツ独り言・・・」
デーモンコマンド「やかましいわラミア!!・・・この世の何者にも無視されるようにしてやるぞ?」
ラミア「す、すいませんですデモコマさまあたしが全部悪かったですごめんなさい
   (・・・うふふ、やっぱりデモコマ様はこんぐらい怖くてデンジャラスじゃないとね・・・♪
    なんにせよ、ちょっと満足気なあたしでした。はい、おしまい。)」


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