外伝「決して届かぬ炎の御許」

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【騎士団寮、フラーマの部屋】

フラーマは机に肘をつき、組み合わせた手に顎を乗せ思案に暮れていました。
その静かな室内にノックの音が響きました。
フラーマ「どうぞ」
ドアを押し開け入ってきたのは二十代中盤位の風貌の若い騎士でした。
ハインリヒ「何の用件かな?」
フラーマ「わざわざ呼び出してすまないわね。見て欲しいものがあるの」
椅子から立ち上がるとフラーマは一通の手紙をハインリヒに差し出しました。
ハインリヒは手紙の文面に視線を巡らせました。

『炎の魔術師 フラーマ殿

貴女はこの学園でも相当な力量を持つ術士だと聞き及んでいます。
その貴女の力を是非とも借していただきたいのです。
もし話を聞いていただけるのならばリガウにある我が研究所を訪ねていただきたい。
報酬は【火のルビー】
炎の術士なら名を聞いた事があるはずです。
貴女が訪れてくれることを心から願っております。

N.シュターゼン』

ハインリヒ「シュターゼンか・・・聞かん名だな。それに【火のルビー】、糸石か」
フラーマ「ええ、それと最近リガウで起きている魔術師失踪事件、知ってるかしら?」
ハインリヒ「!そうか!つまりこいつが!」
フラーマ「断定は出来ないけど・・・まず間違いなく関係はあるわね。
     限りなく黒に近いグレーってとこかしら?」
ハインリヒ「どうするつもりだ?」
フラーマ「もちろん行くわよ」
あっけらかんと答えました。
ハインリヒ「危険すぎる!」
フラーマ「前から糸石には興味があったのよ」
ハインリヒ「・・・止めても無駄か。最近リガウではモンスターの動きも活発だ。私も行こう」
長年パートナーとして冒険を繰り返してきた二人はお互いの性格を熟知していました。
フラーマ「頼りにしてるわ、ハインリヒ」



ヘイトちゃん「ありがとねええええええええええん@−^*+☆」
用件を聞き終えたヘイトちゃんは奇声を発しつつ、部屋を飛び出していきました。

タイラントくん「やれやれ、人の話は最後まで聞いていくのが礼儀だと思うがな」
嘆息しつつ、タイラントくんは呟きました。
デスちゃん「話を聞かせたがるのは年寄りの証だぞ」
背後からの声に多少驚きつつも落ち着いて返しました。
タイラントくん「こう見えてそれなりの年月は生きているからな。否定はせんよ。
        ・・・・いつからここに?」
デスちゃん「ついさっきだ。それにしても意外だ。ああいうのが好みか?」
タイラントくん「・・・冗談にしても笑えん」
渋面をつくるタイラントくん。
デスちゃん「ふふ、それはすまなかったな。ではお詫びとして語れなかった話の聞き手になろう」
タイラントくん「光栄だな。といってもこの話の主役は私ではないのだがな」

随分前の話だ・・・具体的にどのくらいかは・・・思い出せんな。
ちょうど私の炎帝と言う名が浸透し始めた頃の話だ。
その頃トマエ火山は今とは比べ物にならないほどの活力に満ち溢れていた。
理由は後で語るが・・・火の魔力が無尽蔵のように沸いていたのだ。
だがある時その魔力が飽和点に達した。溢れ出る力が行き場を無くしてしまったのだ。
そして常日頃から魔力を受けていたここの火山の住人達も、
溢れる力を抑えきれず破壊衝動に身を委ねていった。
私も例外ではなく、散発的に襲いかかる破壊衝動を押さえ込むのに苦労をしていたものだ。
火山自身も溜まりすぎたエネルギーを持て余していた。
あの時トマエ火山は破滅の道を歩んでいたのだ。
だが私は凶暴化した部下達を抑えるためにろくに行動が出来なかった。
原因がわからなかったのも理由の一つだが。

そんな時火山のふもとに魔導師が住み着いた。
その魔導師は別の人間を引き連れて火山に入り、そして一人で出てくるという行動を繰り返していた。



【トマエ火山麓、研究所】

その建物は石造りで簡素ながらも、どこか威厳を漂わせる造りでした。
フラーマは頑丈そうな木製扉を叩きました。
軋みつつ扉が開きました。
その先には奇妙な仮面をつけた魔導士が佇んでいました。
シュターゼン「我が研究所にようこそ。私の名はシュターゼン。
       この度は私の招待に応じていただき、感謝の極みです。フラーマ殿
       それとも『真紅の魔術師』とお呼びしたほうが良いですかな?」
フラーマ「フラーマでいいわ。『殿』もいらない」
ハインリヒ「挨拶をするときは仮面をとるべきではないのか?」
シュターゼン「おや?こちらの方は?」
フラーマ「私の相棒よ」
ハインリヒ「ハインリヒだ」
シュターゼン「おお、これは失礼。しかしこれは取りたくても取れないのです。平にご容赦を」
ハインリヒ「・・・・・・」
シュターゼン「では中にお入りください。立ち話には少し長いお話ですので」
魔導師は二人を研究所に招きました。



【研究所内部】

フラーマ「では話を聞かせてもらおうかしら。失踪事件も含めてね」
いきなり本題に触れましたが魔導士は毛ほども動揺しませんでした。
シュターゼン「やはりご存知でしたか。人の口に戸は立てられませんからな。
       それを話すには、まずあなたをここにお招きした理由を話さねばなりません。
       このところのトマエ火山の状況をご存知ですか?」
ハインリヒ「モンスターが凶暴化していると聞き及んでいる」
シュターゼン「ええ。妙だと思いませんか?」
ハインリヒ「妙?モンスターが凶暴化するのはそう珍しい事でもないが?」
フラーマ「・・・『炎帝』がいる」
シュターゼン「その通り。絶対的な力でトマエ火山を治めている彼がいるにもかかわらず
この騒動。私は疑問を持ち調査を進めました」
ハインリヒ「まさか・・・『炎帝』がよからぬ企みをしているのか?」
椅子が倒れるほどの勢いでハインリヒは立ち上がりました。
シュターゼン「落ち着いてください。彼の性格を聞く限りその可能性は無いでしょう。
       私が調べたところ、この騒動の原因は【火のルビー】である事が判明しました」

フラーマ「!どういうことかしら?」
魔導師はゆっくりと頷くと説明を始めました。
シュターゼン「ここトマエ火山には【火のルビー】が存在しています。
       いつから存在していたのか、それはわかりかねますがここ数年ということは無いでしょう。
       トマエ火山奥深くに設置された【火のルビー】は徐々にこの地の地脈から力を得ていたようです。
       ここ四半世紀ほどトマエ火山が落ち着いていた事もこの事と無関係ではないでしょう。
       しかし【火のルビー】といえど限界はあった。
       ここ最近の騒動は【火のルビー】から漏れ出た魔力によるものです。
       今はまだ漏れ出ているだけですが本当の限界を迎えれば・・・・」
ハインリヒ「大噴火・・・か。被害は相当なものになるだろうな」
シュターゼン「あるいはリガウ島が消し飛ぶかもしれません。
       糸石の本当の力は私にもわかりませんからな」
フラーマ「それで私を呼んだ理由は?」
シュターゼン「【火のルビー】に溜まった力を全て消費しトマエ火山から持ち出していただきたい。
       今の【火のルビー】はいつ爆発するかわからない爆弾のような物。
       それを暴発させずに扱うには火術に長けた者でなければ危険だという判断故です」
フラーマ「なるほど・・・ね」
ハインリヒ「術士の失踪は?」
シュターゼン「今トマエ火山は凶暴化したモンスターで溢れています。
       その力は【火のルビー】に近いものほど強力です。つまりはそういうことです」
ハインリヒ「貴殿はよく無事だったな」
シュターゼン「逃げ足にはそれなりに自信が有りましてな」
ハインリヒ「・・・・・」
ハインリヒは懐疑的な視線を魔導師に向けつつ隣に座るフラーマに尋ねました。
ハインリヒ(どう思う?)
フラーマ(完全に信用は出来ないわね。でも事実なら見過ごせないわ)

フラーマ「いいわ、この話、うける」
シュターゼン「それは重畳。時間はあまりありません。トマエ火山に行きましょう」



【トマエ火山1階】

火山内部は空気が焼けるほどの熱気を放っていました。
熱に弱い生き物なら呼吸をするだけで肺が焼けそうな温度です。
ハインリヒ「たまらんな」
フラーマ「ええ、でも確かにこの温度は異常だわ」
滴り落ちる汗を拭いつつ三人は深部へと進んでいきました。



【トマエ火山地下二階】

広い空洞には正気を失ったモンスターが暴れていました。
同種族にさえ躊躇い無く牙を突き立てています。
シュターゼン「このような状況です。『炎帝』もまともに動けないでしょう」
ハインリヒ「それはともかく・・・どうするのだ?このままでは先に進めん」
フラーマ「強行突破・・・しかないでしょう?」
言うが早いかフラーマはモンスターの群れに火の鳥を叩き込みました。
ハインリヒ「仕方あるまい!貴殿は下がっておれ!」
愛用のハルバートを構え突撃しました。

シュターゼン「・・・・実に美しい炎だ」
誰にも聞こえないほどの声で魔導師は小さく呟きました。

【火のルビー】の魔力を過剰に受け闘争心の塊となったモンスターは想像以上に手ごわいものでした。
恐怖心や痛みを感じないため文字通り死ぬまで喰らいさがるためです。
ハインリヒ「奴の、言う事も、あながち、間違いではないのかも知れんな!」
戦獣を打ち払いつつ声を張り上げました。
フラーマ「少し時間を稼げる?もう一発火の鳥で・・・」
シュターゼン(以前より格段に手ごわい。思った以上に進行しているな。手を貸すべきか?)

???「何をしている!!!」

広間に怒号が響き渡りました。
トマエ火山の主、フレイムタイラントくんです。
タイラント「私闘は硬く禁じたはずだ!!今すぐ戦いを止めろ!!」
その気迫は正気を失っていたモンスターでさえ圧倒するものでした。
タイラント「失せろ!!」
広間にいたモンスターは蜘蛛の子を散らすように逃げていきました。

ハインリヒ「この気迫・・・『炎帝』の名にふさわしいな」
フラーマ「ひとまず助かった・・・のかしら?」

シュターゼン(僥倖だな。まさかこのタイミングで来るとは)

タイラントくんは燃え盛る頭蓋骨を魔導士に向けました。
タイラント「貴様・・・このところ我が領域で行動しているようだな。
      何を企んでいる!返答次第ではただでは済まさん!!」
シュターゼン「・・・それは誤解です。実は―――」

タイラント「バカな・・【火のルビー】が我が領域に・・だと?」
シュターゼン「気付かずとも無理はありません。変化というものは外から見てこそ気付くもの。
       その物に近しいものであればあるほど、またその変化が小さいものであればあればあるほど、
       見えにくくなるものです。あるいはあなたが生まれる前から存在していた可能性もあります」
タイラント「・・・ック・・・!!」
牙が砕けんばかりに歯を食いしばりタイラントくんは俯きました。
シュターゼン「時間がありません。道中の護衛をお願いできませんか?
       私達はあなたの部下達と無駄な争いはしたくありません」
タイラント「貴様の言う事が事実なら・・確かに時間が無い。同行しよう」
フラーマ「心強いわ。私はフラーマ。よろしくね、『炎帝』さん」
ハインリヒ「ハインリヒだ。よろしく頼む」
タイラント「ああ」
シュターゼン「では先を急ぎましょう」



【トマエ火山地下四階】

溶岩に囲まれた床を越えた先の行き止まりに一向はたどり着きました。
ハインリヒ「ここか?行き止まりのようだが」
シュターゼン「カムフラージュですよ」
魔導師が手をかざすとただの岩肌が激しく燃え盛る炎の壁に変わりました。
更に手をかざし炎を消し止めました。その先には大きな穴が口を開けていました。
フラーマ「これはあなたが?」
シュターゼン「モンスターに入り込まれると厄介ですからね」
フラーマ(ファイアウォール・・・。やっぱり只者じゃない)



【トマエ火山、ルビーの間】

大穴の先には50m四方ほどの空洞になっていました。
その空洞の中心部、燃え盛るマグマの海に浮かぶ小島の岩の上にルビーは安置されていました。
ハインリヒ「あれか・・・、ジャンプで届く距離ではないな」
シュターゼン「心配は無用です」
魔導師は懐から奇妙な種を取り出すとマグマの海に放り込みました。
すると見る間にマグマの色が黒ずんでいき硬化しました。
シュターゼン「ではフラーマ、よろしくお願いします」
フラーマ「・・・ええ」
冷え固まったマグマの上を歩き、ルビーのもとへ向かいました。

彼女がマグマを渡る姿を三人はじっと見守っていました。
シュターゼン「ああ、タイラントさん。あなたはここから先に進まないほうがいい。
       ルビーの魔力で暴走してしまう可能性があります」
タイラント「わかっている」
ハインリヒ「・・・結局ここにたどり着いた術士はフラーマだけか」
シュターゼン「いえ、彼女で六人目です」
ハインリヒ「どういうことだ?他の術士はモンスターにやられたのではないのか!」
タイラント「待て。正気を失った部下がいるとはいえ、ここは我が領域。人死になど出しておらんぞ」
シュターゼン「ああ、それはですね・・・・」
タイラント・ハインリヒ「!!!!」
突如強烈な光が生まれました。
ルビーを手に取ったフラーマが白い火柱に包まれたためです。
シュターゼン「話した事全てが事実ではなかっただけです」
魔導師は仮面の奥でくぐもった笑い声を上げました。



ハインリヒ「フラーマ!!今行くぞ!」
シュターゼン「邪魔をしないで下さい。今彼女はルビーの力と戦っているのです。
       もっともそれに屈すれば消し炭も残りませんが」
ハインリヒ「どけ!!邪魔立てするなら容赦はせんぞ!」
シュターゼン「どうぞ。行けるものなら」
ハインリヒ「!」
いつのまにか彼の足は炎の鞭、フレイムウィップにより拘束されていました。
シュターゼン「そこでゆっくり鑑賞していてください」
ハインリヒ「貴様・・・・!」
しかし次の瞬間には炎の戒めは雲散霧消しました。
シュターゼン「・・・無茶をしますね。下手に力を行使すると暴走することになりますよ?」
タイラント「貴様の・・狙いは・・・知らん・・だが・・・・
      我が・・領域で・・勝手な真似は・・・させん!」
ハインリヒ「恩にきる」
裂帛の気合と共にハルバートを打ち下ろしました。
しかし魔導師は瞬時に後方に飛びのき、凶撃をかわしました。
シュターゼン「あくまで邪魔をしますか・・・仕方ありませんね」
魔導師は静かに仮面を外しました。
すると魔導衣の内部から炎が噴出し全身を包みました。
ハインリヒ「シュターゼン・・貴様一体!?」
イフリート「シュターゼン・・それは仮の名に過ぎん・・・我が名はイフリート!」
タイラント「イフリート・・だと?だが・・その姿は・・・」
炎に包まれたその姿はまさしく炎の魔人と呼ぶにふさわしい姿でした。
しかしイフリートの特徴ともいえる筋骨隆々の体躯は持ち合わせていませんでした。

イフリート「私は炎の化身・・ただひたすらに炎を求めた末に行き着いたのがこの体だ」

ハインリヒ「魔物ならば容赦はせん!」
ハルバートを構え、人体の急所の一つである水月を突く大技『ウォータームーン』を繰り出しました。
イフリート「君は炎を貫き倒す事が出来ると考えているのか?私は・・・無理だと思うが」
ハインリヒ「!」
確かにイフリートを貫いたはずの矛先は高温により溶解していました。
イフリート「鉄や鋼は炎には干渉できん。君は私と戦う術を持ち合わせていない。黙って見ているんだな」
ハインリヒ「おのれ・・・!」
タイラント「ハインリヒ!・・これを使え!」
言葉と共に投げつけられたのは炎を束ねた細剣、炎のロッドでした。
タイラント「本当なら・・大剣の一つも・・寄越してやりたいが・・
今の私の・・集中力ではそれの精製が・・限界だ・・・これ以上・は・無理だ。
後は頼む・・・」
その言葉を残しタイラントくんはルビーの間から離脱しました。
ハインリヒ「心得た!」

イフリート「『炎帝』・・今という状況でなければその力を行使できたろうに・・・。
      ・・・ともかく君は力を手に入れたようだ。相手になろう」
ハインリヒ「いつまでも人を格下扱いしていると痛い目を見るぞ」
居合の如く剣を振るい衝撃波を放ちました。
イフリート「遅いな」
剣閃が届く前にイフリートは身をかわしました。
イフリート「何!」
そのかわした先にハインリヒは肩口から衝突し斬りつけ、
高速の六段突きを繰り出し、最後に抉るような回転を加えた突きを放ちました。
イフリートは地に膝をつきました。
ハインリヒ「油断すればそうなる」
イフリート「まさか体当たりをするとはな。セルフバーニングか」
ハインリヒ「術も使えずして騎士は名乗れんよ」
しかし、炎の障壁を持ってしてもイフリートの熱は防ぎきれませんでした。
ハインリヒもまた膝を折りました。
体表の水分の奪われ、白煙の如く水蒸気を発しつつも彼は前に進もうとしました。
イフリート「・・・何故そこまで必死になる?君が彼女のところに行ってどうなるとも思えんが」
ハインリヒ「真の騎士はどのような状況でも諦めたりはしない」
真直ぐな返答にイフリートは口の端を上げました。
イフリート「だがもう時間だ。・・・安心したまえ。彼女は無事だ。
      私は最後の最後で賭けに勝てたようだ」
ハインリヒ「!フラーマ!」
【火のルビー】を手にし、白炎を身に纏ったフラーマが立っていました。
フラーマ「大丈夫よ、ハインリヒ」



【トマエ火山、中心部】

タイラント「魔力の流入が止まった?
      あの人間達がやったのか・・・よし、すぐに・・・」
その時、二匹の溶岩の塊が転がるように部屋に飛び込んできました。
炎神「タイラント様!」
タイラント「おお!おまえ達も動けるようになったか!」
火神「はい!先程・・ではなくて!はぐれのモンスターたちがジェルトン寮で略奪を行っています」
タイラント「くっ!我が力が及ばぬ今を好機とみたか!
      行くぞ!我らが力を侮らせるわけにはいかん!」
炎神・火神「はいっ」
タイラント(おまえ達が勇者ならば切り抜けられるはずだ、頼んだぞ)



フラーマ「・・・何処までが真実なの?賭けって何の事?あなたの狙いは何?」
イフリート「トマエ火山が噴火の危機にあるのは事実だよ。私の嘘は火術士たちの死因だけだ。
この火山やその周囲の生物達の異常は君たちも肌で感じただろう?」
フラーマ「確かにね」

イフリート「賭けについてだが・・・
      私が【火のルビー】を発見した時は既にかなりの力が蓄えられていた。
      もっとも、だからこそ見つけられたのだがね。当初はその美しき炎を我が手にしようと考えた。
      しかし・・・無理だった。私とルビーの炎はあまりにも違いすぎた。
      ルビーの炎は私という存在を受け入れなかった。触れる事すら出来なかったのだ」
イフリート「狂おしかった。誰よりも炎を愛する私が出会った最も美しい炎は
      私とは相容れない存在だった。私は考えた。ならばこの炎を打ち破りたいと、この炎と戦いたいと」
ハインリヒ「それでルビー操れる資質を持っていそうな火術士を集めたのか」
イフリート「時間が無かった。このままでは大噴火という形で魔力が流れ出てしまうところだった。
      だが最後の機会に現れた君が見事その役を果たしてくれた」
ハインリヒ「そのために何人の火術士が犠牲になったと思っている!」
イフリート「五人だ。サルゴン、ルビィ、エレノア、ローラ、ボルカノ・・
      彼らもまた美しき炎の使い手だった。だがルビーには認められなかったようだ」
ハインリヒ「騙まし討ちのような手口を使っておいてよく言う!」
イフリート「それは違う。私は彼らには説明した。どのような危険があるかわからない、とな。
      だが彼らは一人として退くことなくルビーを手にした。
      使命感から強大な力に危険を顧みず挑み、倒れた彼らを君は『哀れな犠牲者』と呼ぶのか?
      それは彼らに対する侮辱ではないのか?」
ハインリヒ「・・・・・」
イフリート「最も今回は時間的に最後の機会だった。このような手段を使った事は謝罪する。
      私も後がなかったからな。手段を選ぶ余裕は無かった」

フラーマ「随分とおしゃべりね」
イフリート「自分の夢が叶うのだ。多少饒舌にもなるさ」
フラーマ「そう。でもおあいにく様。火山の噴火も防げたし、ルビーも手に入れた。
     こちらには満身創痍のあなたと戦う理由が無いわ」
イフリート「なに、心配には及ばんよ」
突如イフリートは咆哮し、炎を吹き上げました。
その炎はイフリートの体を包み込み、傷を癒していきました。
ハインリヒ「なんだと!」
フラーマ「『魂の歌』・・・」
イフリート「騎士ハインリヒ、落胆する事は無い。
      この術はある程度時間がかかる。君はその隙を与えないだけの技量を持っているよ。
      さて・・・これでやる気になってくれたかな?」
フラーマ「気が進まないわ。正直あなたの事は嫌いじゃないの。
     炎に対する価値観には共感できるところもあるしね。」
イフリート「光栄だが・・・君が拒むのなら騎士ハインリヒを人質に取らせてもらおう。
      傷ついた彼には私の炎をかわす術は無い」
炎を纏った掌をハインリヒに向けました。
ハインリヒ「ふざけるな!私がおめおめと人質などに・・くっ!」
剣を手に立ち上がろうとしたハインリヒは、力尽き再び膝をつきました。
フラーマ「・・・無駄よ。私はこの距離からでも彼を完璧に守る事ができる。
     今の【火のルビー】にはその力がある!」
イフリート「ふむ。では諦めよう。君たちはルビーの力を消費させ、帰るといい。
      然る後、私はジェルトン寮を壊滅させよう。腹いせとしてね」
ハインリヒ「貴様!」
フラーマ「ブラフね。あなたはそんな事はしないし、できないわ」
イフリート「さてそれはどうかな。私が考え方を変えるかもしれない。
      私という存在を消さねばそれが起こる可能性は決して消えることは無い」
フラーマは悲しげな視線をイフリートに向け、喉から声を絞り出しました。

フラーマ「・・どうしても戦わなければならないの?」
イフリート「それが運命というものだ」

イフリートは掌から数条の熱線を撃ち出しました。
しかし、同じく掌を突き出し炎の盾を形成したフラーマに全て弾かれてしまいました。
イフリート「成る程、正面からは無理か。ならばこんな手はどうかな?」
燃え盛る両腕を振るい小型のエレメンタル、『ファンダム』を生み出しました。
イフリート「全方位からならどうだ!」
無数の『ファンダム』を従え、あらゆる角度から砲撃を始めました。
フラーマ「無駄よ」
巨大な炎の壁で身を包み降りそそぐ炎を全て吸収しました。
フラーマ「落として」
炎の壁は意思を持ったように眼前の敵に迫ります。
壁に押しつぶされ『ファンダム』は全て地に沈みました。
イフリート「素晴らしい・・・素晴らしいぞ!」
炎の魔人の咆哮が如き歓声が響きました。



【ジェルトン寮】

生徒1「くそっ!なんだってこんな事に!」
押し寄せるモンスターを刀で押さえつけながら怒鳴りました。
生徒2「『炎帝』は・・タイラント寮長はなにやってんだ!」
女生徒「知らないわよ!喋る前に手を動かす!しっかり私を守ってよね!」
生徒2「術士はいいよなぁ・・・後方で」
生徒1「気を抜くな!非戦闘員の脱出の手はずはまだ整っていない!ここを抜かせるわけには」
その時、別の生徒が駆け寄ってきました。
生徒3「大変だ!船着場に鳥型モンスターが!」
生徒1・生徒2・女生徒「なんだってーーーーー!!」
モーロック「逃がさねえよ。お宝や喰い物は全部頂く。男は奴隷。女は・・・ひひひ」
女生徒「誰があんた達なんかに!」
火幻術を放ちましたがかわされました。
モーロック「おっと。抵抗するだけ無駄だ。俺たちは『炎帝』の部下だぞ。」
生徒3「そんな・・・」

???「どういうことだ?」
いつのまにか寮内に大男が立っていました。
モーロック「何だー、貴様は? 俺は『炎帝』様からこの隊を預っているのだ。
      俺に挑戦するのは『炎帝』様に刃向かうことだ。わかってるのかー」
???「それがどうした」
モーロック「えっ、それがどうしただって。『炎帝』様だぞ。
      四寮長実力一と言われる『炎帝』様だぞ。こ、怖くないのか?」
???「それは事実だな。
    だが、貴様は『炎帝』でも何でもない。ただのザコモンスターだろうが!
    覚悟しろ!」
モーロック「待て! ちょっと待て。そういきり立つなよ。
      『炎帝』様はすごいぞ。従っていれば、常にでかい顔ができる。
      それで一生威張りつづけることができるのだ。
      な、いいだろう。お前も『炎帝』様の部下になれ」
???「やれやれ。・・・・・・貴様は『炎帝』に会ったことはあるか?」
モーロック「いや。実はまだ会ったことはないんだ。
      機会があれば一度会ってみたいんだがなー」

モーロック「・・・・・・まさか、え ん て い?」
タイラント「貴様の望みがかなったな」



イフリート「本当に素晴らしい・・・。私の持つ全ての術を持ってしても破れんとはな」
百を越える術の直撃を受けて尚、フラーマの炎の壁は揺らぎませんでした。

イフリート「ならば我が生命をもって立ち向かおう」
フラーマ「止めても・・・無駄なんでしょうね」
イフリート「その通り。騎士ハインリヒ、君にもわかるだろう?」
ハインリヒ「貴様の考えは理解できん。だが・・・騎士道にも退いてはならんときはある」
イフリート「十分だ。さあ・・・我が生命よ。燃え上がり炎となれ!」
どこまでも赤い、真紅の炎を吹き上げ、炎の魔人は双眸を滾らせました。

イフリート「これが私の生命の色か。初めて見たが・・・美しい」
陶然としながらも、炎を凝縮させていきます。
フラーマ「それがあなたの覚悟なら、私も全力で迎え撃つわ」
同じく白色の炎を凝縮させ、密度を高めてゆきます。
イフリート「さあ、ゆけ!我が炎の猛禽達よ!」
紅い炎が破裂し、数え切れないほどの無数の紅い鳥がフラーマに襲い掛かりました。
フラーマ「出て」
白炎がまばゆい光を放ち、巨大な鳥の姿へと変わりました。
フラーマ「撃って」
白い怪鳥は巨大な翼を振るい、炎を巻き起こしました。
しかしその炎は数羽の火の鳥を撃ち落すにとどまりました。
イフリート「その程度では我が命は尽きん!」

フラーマ「・・・行って」
巨大な翼を羽ばたかせ、怪鳥自身が突撃しました。
迫り来る火の鳥の激突に怯むことなく突き進みました。炎の魔神に向かって。
イフリート「そうだ。それでいい。これで私は・・・・!」
トマエ火山に激震が走りました。

白い炎にその身を焼かれながらも炎の魔人は生きていました。

フラーマ「あなた・・・最初から死ぬ気だったんでしょう?
     限界まで高められた糸石の力は自然災害のそれだわ。勝てない事をあなたが悟れないわけがない」
イフリート「そのとおりだ。君たちには礼を言わねばならんな。
      我が生命の燃え尽きる際を見届けてくれた騎士 ハインリヒ。
      至高の炎でもって私を打ち倒した魔術師 フラーマ」
フラーマ「まじめに答えて。それがわかってどうして!?」
イフリート「わからないか?今私は至高の炎とともにある」
フラーマ「・・!」
ハインリヒ「死して望みを叶えてどうなる。理解できん・・・」
イフリート「ふふ、価値観はそれぞれだ」
炎の魔人は本当に、嬉しそうに笑いました。

イフリート「ここはもう崩れる。早く脱出することだ」
激戦の傷を受けた空洞は破滅の音を立て振動していました。
ハインリヒ「ああ、さらばだ」
フラーマ「最後に一つだけ聞かせて。あなたは本当に満足しているの?
     別の生き方があったとは考えなかったの?」
イフリート「満足だよ。炎に依らぬ生き方など私には出来ない・・・」
フラーマ「本当に・・・そうかしら?」

二人が駆けていく音を聞きながら、炎の魔人は視界が狭くなるのを自覚しました。

我ながら不器用な生き方だったと思う。

だが・・・満足だ。

ああ・・私はようやく辿り着いたのだな。

――決して届かぬ炎の御許へ・・・・。



ハインリヒ「急げ!出口が埋まる!」
フラーマ「・・・ええ!」
しかし、奇妙な種で固めていたマグマが限界を迎え、砕けました。
二人の脱出路をマグマの河が寸断しました。
ハインリヒ「こうなれば君だけでも向こう岸に送る!少々手荒だが許せ!」
フラーマ「冗談じゃないわ。ルビーの力を使えば・・・」
震える手でルビーの力を引き出そうとしましたが、疲労のため立ちくらみを起こしました。
ハインリヒ「無理だ!あれだけ大きな力を使った後だぞ!」
フラーマ「大丈夫。今度こそ」
その二人の頭上に大きな影が差しました。

タイラント「待たせたな」



タイラントくん「というわけで間一髪間に合った」
デスちゃん「それで?」
タイラントくん「後は危機を救った二人に礼としてルビーを渡した。それで終わりだ」
デスちゃん「ふーむ、ジェルトン襲撃はなかなか聞きごたえがあったが・・・
      結局ルビーの件にはほとんど関わってないんだな」
タイラントくん「しかたあるまい。いろいろあったのだ」
デスちゃん「まぁ、結構楽しめた。喉が乾かないか?お茶をいれようと思うのだが・・・」
タイラントくん「いただこう」
二人は連れ立って三途の川へ向かいました。



【草原】

ハインリヒ「ひとつ教えて欲しい」
フラーマ「なにかしら?」
ハインリヒ「奴がジェルトン寮を襲うと言った時に何故嘘だと断言できた?」
フラーマ「彼がエゴイストだからよ。とびっきりの、ね。
     彼は自分の計画にとって邪魔者でしかないあなたを殺そうとしなかった。
     『炎帝』はあの通りだったし、やろうと思えばいつでも出来たのに。
     多分、生命を無駄に奪うことは彼の美学に反する事だったんじゃないかしら。
     だからカマを掛けてみたのよ。結局確信が持てなくて戦う事になったけど。
     彼は『生命』を『炎』と表現したわ。あながち間違いじゃないと思う。憶測の域を出ないけど」
ハインリヒ「なるほど・・・それにしても驚いた。君が糸石に認められる程の術士だったとはな」
しかし彼女は肩をすくめて、
フラーマ「違うわ。私は糸石に体を貸しただけ。
     魔力を溜め込んだ糸石はとても人には使いこなせる物じゃなかった。私は身を任せたのよ」
ハインリヒ「では他の火術士たちは・・・」
フラーマ「制御しようとしたんでしょうね。使命感か己の力への自信か。これも憶測だけどね」

草原に乾いた風が吹き抜けました。

ハインリヒ「さて・・・帰るか」
フラーマ「待って」
ルビーを取り出し、高く掲げました。
白い羽が舞い散り人型の何かが形成され始めました。
フラーマ「これで本当に最後。もう蓄えられた魔力は空だわ」
ハインリヒ「これは・・・?」
フラーマ「彼の可能性の一つ、彼の別の生き方を見てみたくなったのよ」
ハインリヒ「それを望んだのか?あいつが?」
フラーマ「さあ?どうでもいいわ。私もエゴイストだし」
ハインリヒ「危険ではないのか?本来イフリートは凶悪なモンスターだ」
彼女はクスリと笑って答えました。

フラーマ「大丈夫よ。その時は私か、他の誰かが彼を倒す事になるわ。
     彼に言わせれば、

――「それが運命というものだ」



時は巡り騎士団寮

イフリート先生「フラーマ先生!見てくださいよ!この美しい筋肉!
        この素晴らしいカット!クラクラするでしょう!」
フラーマ先生「・・・・・・・・・・・・・・本当にクラクラするわ」


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