幕間劇「前兆」

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魔の島の一室、そこにある水鏡が揺らぎだしました。
セージ「ん?誰だろ?」
???「貴様か。マスターはどうした?」
水面に映し出されたのは銀の仮面をつけた男でした。
セージ「あなたは・・・、すいませんマスターは今出られない状態なので僕が代わりに承りますよ。」
???「そうか。ならば用件を伝えよう。フロンティアにもリガウにもムーンストーンらしき物はなかった。
だが最後に来たワロンでそれに関係しているであろう建物を発見した」
セージ「おお!さすがです!」
???「見え透いた世辞などいらん。しかしこの建物に入る手段が見つからん。なんとかしろ」
セージ「ああ、そのことなら心配要りません。直接的な方法ではありませんが手は打ってます。
すみませんが、もう少し現地で待機していてもらえませんか?」
???「・・・いいだろう。だが俺の気が短いことを忘れるなよ」
セージ「ええ、それはもう!」
???「ふん」
水鏡は再び静謐な水面を取り戻しました。
セージ「はっ!力押ししか出来ない奴が偉そうに!それでなくても機嫌が悪いってのに!」
セージは眉間に手をやりました。
痛みはもうないはずですが、鈍い痛みが走ったような気がしました。
セージ「マックス!!しっかり呪えよ!!ただし殺さない程度に!!返されたら君が死ぬことになるからね!!」
マックス「御意。・・・・・・・・・・・」
セージ「もっとももう死んでるようなもんだけどね」
マックス「御意。・・・・・・・・・・・・・・・」
セージ「そろそろ表沙汰になる頃かな。誰でもいいからさっさとなんとかしてくれよ、僕のためにさあ?」
室内にセージの笑い声が響き渡りました。
マックス「御意。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



バファルは一年を通して気候が安定している。
何年に一度かは雪が降ることもあるが、基本的には冬も温暖だ。
今日も午後に入ってからは気温が上がり始め、暖かい日差しが大地に降り注いでいる。
こんな日は外に出て昼寝するに限る。
俺は猫だからな。

この前の騒乱以降も何度か旅に出たがここの所はそれもない。
最初は退屈だったが、それも悪くないと思っている自分に気付いた。我ながら怠惰になったものだ。
・・・・む?どうやら最初の客が来たようだ。
今俺がいる場所、ベイル高原は治安が良く、訪れる人間も多い。
ここのモンスターは物腰柔らかで、しっかりしたものが多いからだろう。
トップがあれではそうならざるをえないだろうがな。
この前もなにやらやらかしたと聞く。困ったものだ。
回想しているうちに訪問客は随分と近くまで来ていた。
帯剣している。
念のために距離をとろうと腰を浮かせかけて、やめた。
その訪問客があまりに珍奇な格好をしていたため、あっけにとられたのだ。
服装自体は貴族のそれなのだが、羽が生えている。
あの羽は何だろう?素早さ向上の効果のある魔法の防具か何かなのだろうか?
俺の視線にも気付かずその羽人間は剣を振り始めた。
その剣の動きはそれなりの形になってはいたが、まだまだ発展途上だった。
回避が得意な俺ならば一昼夜でもかわし続けられるだろう。
だが、羽人間の目はあくまで真剣そのものだ。そこからは決して折れない意思の力が感じられた。

羽人間の体から蒸気が立ち上り始めた頃、新たなる訪問客が現れた。
でかい。
今まで体格のいい人間は数多く見てきたがその中でも三指に入る。
その体から発せられる闘気には上位の魔族でさえ怯む事だろう。
シフ「アル!!精が出るねぇ!!お弁当持って来たよ!!」
一瞬俺のことかと思い、全身の毛が逆立ったが、それは羽人間に向けられたものらしい。
アルベルト「シフさん・・・ありがとうございます」
どうやら同じ名前のようだ。奇遇な事だ。
シフ「いいんだよ!!男の子は沢山食べないとねぇ!!」
ツノ人間はバスケット・・・と呼ぶにはあまりに巨大な籠から、これまた巨大な弁当箱を取り出した。
中身は巨大な米の塊や焼いた魚、焼いた肉など豪快なものばかりだ。
シフ「そろそろ教えてくれないかい!?どうして急に剣の訓練を始めようと思ったんだい!?」
ツノ人間は焼いた肉を細く千切り俺のほうに投げてよこした。
施しなら受けんが、おすそ分けなら食べてやらん事もない。
・・・うまい。案外良い奴かもしれん。
アルベルト「・・・・どうしても倒したい人がいるんです」
シフ「なんならアタシが倒してやるよ!!?」
アルベルト「それは無・・それでは意味がないんです。自分で倒さないと意味がないんです!」
シフ「そうかい!!やっぱりアルも男の子だねぇ!!そいつと戦うときはアタシにも立ち合わせておくれよ!?」
アルベルト「ええ・・必ず」
シフ「じゃあ御飯食べたらアタシが稽古をつけてやるよ!!」
アルベルト「お願いします!!」
飯を食い終わると、羽人間とツノ人間は立ち去っていった。場所を変えるようだ。
俺と同じ名を持つ羽人間・・・お前は強くなる。狩る者の目を持っているからな。
だがな・・・

あいつはやめとけ。



続いて現れた訪問者は長い黒髪の人間だ。
何処かで会ったような気がするが思い出せない。
俺の視線に気付いたのか長髪人間は近づいてきた。
そして3mほどの間を開けて座り込んだ。
ストライフちゃん「ちーっちっちっちっち、ほーらおいでー」
だが俺は動かない。俺の毛並みに触れたければ自分から近づく事だ。
動かない俺に対して、黒髪人間は新たな策を用いた。

ふりふり

ネコじゃらしか。
全く、そんなものが俺に通用すると思ってるのか。

ふりふり

効かんというに。

ふりふり

ええい、目障りな!この!鬱陶しい!ふりふりふりふりと!どうだ!草の分際で!
二度とふれぬようにしてやる!ふぅ、すっきりした・・・・むぅ。
おい人間、そんな微笑ましい目で俺を見るな。
別に喜んでたわけじゃないぞ、目障りだから片付けただけだからな。
ストライフちゃん「かわいいなぁ、もう!!」
黒髪人間は俺を膝に抱き上げると撫で始めた。
ストライフちゃん「変わった格好だけどかわいいなぁ」
撫でるのは構わんが、もう少しゆっくり優しくしてくれ。摩擦熱で熱い。
ストライフちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・」
なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで
アル「やめんか!!熱いだろうが!!」
ストライフちゃん「うわ!?しゃべった!」

ストライフちゃん「へぇ、アルムアムトっていうのか」
アル「アルで構わんぞ。ところでストライフ。お前ワイルとかいう人間の仲間か?」
ストライフちゃん「ワイルを知ってるのか?」
やはりな。既視感があったのはそのせいか。
アル「この前のメルビル騒乱の時にな。・・・毛を解くな」
ストライフちゃん「ライオンみたいでかわいいぞ?」
そういう問題ではない。
アル「かわいい物好きか。見かけによらんな」
ストライフちゃん「そうなんだ。硬派なキャラで通してるから、人目を忍んで楽しんでいる」
何故そんな事を気にするのか俺には理解できん。

ストライフちゃん「そういえばお前は喋れるな・・・」
?なにをいまさら。
ストライフちゃん「いいか?私がかわいい物好きである事は誰にも話すな。
特に私と似た格好をしているが、決して同じ生物ではありえない上、
脳が膿んでるんじゃないかと思うような言語を操る人非人には絶対に喋るな」
どんな奴だ。
アル「すまんが良くわからん。猫語で頼む」
ストライフちゃん「え?え、えーっと・・・・・・
いいかにゃ?私がかわいい物好きである事は誰にも話すにゃ。
特に私と似た格好をしているけど、決して同じ生物ではありえにゃい上、
脳が膿んでるんじゃにゃいかと思うようにゃ言語を操る人非人には絶対に喋るにゃ・・・でいいかにゃ?」
アル「・・・・すまん。俺が悪かった」
ストライフちゃん「だ、騙したな!?しかも言わせといてドン引きだと!?
罰として顎の下をさわさわしてやる!」
アル「それは罰なのか?」
ストライフちゃん「ならば偶然持っていたブラシでツヤツヤになるまでブラッシングしてやる!」
アル「だから罰なのか?それは」
ストライフちゃん「くうっ!それなら私が飽きるまで肉球をプニプニし倒してやる!!」
アル「それは・・・ちょっと嫌だな」
ストライフちゃん「ふっ!私の勝ちだな」
胸を張るような事じゃないだろう。

ストライフちゃん「また来ても良いか?」
アル「来るのは構わんが、いるかどうかはわからんぞ?」
ストライフちゃん「それでいい。また来る。絶対だ」
長髪人間、もといストライフは何度も振り返りながら帰っていった。
変わった人間だが、お陰で毛並が艶やかになった。いいことだ。



もうじき日が暮れる時間だ。
風も冷気を多分に含んできた。そろそろ帰るか。
俺は起き上がると大きく欠伸をした。
今日も面白い人間達に会えたな。
踵を返そうとした俺に影がかかった。
振り向くと、白髪の女が俺の方を見ている。
???「あなた随分と綺麗な毛色をしてるわね。ちょっと抱かせてもらっても良いかしら?」
いつもなら無視して帰るところだが、この人間はなかなか見所がある。
特別に抱かれてやるとしよう。
俺は差し出された腕に飛び乗った。
バーバラ「ありがとう、猫さん。あたしはバーバラ。この学園中を渡り歩いてる非常勤の養護教諭よ。
それとは別に踊りもやってるんだけど、どう?あなた中々ステージ映えする格好だし一緒にやらない?」
悪いが見世物になる気は毛頭ない。
顔を背け、拒否の意を示す。
バーバラ「賢いコね。でも残念だわ。あなたならきっと――」
???「姐さ〜〜〜〜〜ん!!」
バーバラ「ごめんね、相棒が呼んでるからもう行かなきゃ。それじゃね!」
その人間は俺をそっと地面に降ろすと走り去っていった。
忙しい奴だな。
吹きぬけた風に俺は思わず身震いした。
もうすっかり日は暮れ代わりに二つの月が夜空に浮かんでいた。
さて、帰るとしよう。



バーバラ「どういうことなのエルマン?次はローザリアじゃなかったの?」
エルマン「それが急遽メルビルに来て欲しいって人事部の人が」
バーバラ「だから聞いてるのはその理由よ」
ナタリー「何でもお偉いさんが原因不明の病に罹ったらしいよ」
バーバラ「そんなの一介の校医であるあたしにどうにか出来るとは思えないけど?」
エルマン「藁にもすがるってやつじゃないですか?」
バーバラ「随分ね・・・。まぁフロンティアでも未知の病気には何度か出会ったけどね」
ナタリー「とりあえず交通費+報酬もくれるらしいからいってみようよ!」
バーバラ「何も出来ずにお金を貰うのは主義に反するんだけどねぇ」
三人もその場から立ち去りました。
そして夜空には赤と銀の月が地上を見下ろしていました。



アル「帰ったぞ。聞いてくれ、今日も――どうした?」
室内には旅装束を身に纏ったエリスちゃんがいました。
エリスちゃん「シリル、行って来るから」
シリルくん「気をつけて」
アル「旅に出るのか?なら俺も」
エリスちゃん「お帰り、アル。ごめんね。あなたは連れて行けないの」
そう告げるとエリスちゃんは小屋から飛び出していきました。
アル「おい待て!」
走り出そうとした足をシリルくんに絡め取られました。
アル「邪魔するな!お前の本体で爪を研ぐぞ!」
シリルくん「それは困るな。ともかく彼女を行かせてあげてよ。これはエリスちゃんとアムトちゃんの使命なんだ」
アル「主人も?」
シリルくん「そして君には君の使命がある。アムトちゃんの神殿に戻ってシンボルを求める人達を待っていて欲しいんだ。
      その人達が無事シンボルを手に入れられたなら今度は僕の所へ連れてきて欲しい」
アル「・・・あいつだけならともかく主人が絡んでいるのならば仕方あるまい。
   ただ、どういうことなのかは説明してくれ」
シリルくん「月が満ちようとしているんだ。だから彼女達は石を求める人達を試さなきゃいけないんだよ」
アル「・・・・・・・・・・・・・・さっぱりわからん」


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