幕間劇「カマの祭り」

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トマエ火山の奥深く、冥部の部室は、セレブ3姉妹の集いの場の一つでもありました。
そんな中、セレブ3姉妹のうちの一人が、眉間にシワを寄せながら、学園新聞に見入っていました。
冥部の主であり、3姉妹の中でも、最も心配顔の似合うヒト。デスちゃんです。

デスちゃん「(これは・・・マズいな。なんとかせねば・・・)」
そしてデスちゃんは、部屋中に目を配ると、その場の全員に呼びかけました。
デスちゃん「おーい、皆の者注目!」
紅茶を飲んでいたシェラハちゃんがけだるそうに目を向け、
大貧民をやっていたストライフちゃん(15連勝中)とサルーインちゃん(白星ゼロ)が
めんどくさそうに振り向きます。
3人できゃっきゃきゃっきゃと話していた、ワイルちゃん&ヘイトちゃん&スペクターくんが、
珍しいこともあるもんだ、と顔を向けました。
デスちゃん「私はこれから用事があって、とある祭りに行くんだが、一緒に行かないか?」
サルーインちゃん「ほほう!祭りか!!アハアハアハハハ!いいな!行こう行こう!」
シェラハちゃん「お祭りか・・・新たな出会い、ドラマ・・・そして悲しみがありそうね。」
ストライフちゃん「あんたそればっかだな。で、どこです?タルミッタの水竜祭はまだのはずだが。」
ヘイトちゃん「きっと!!rルォ〜ザリアのオサレなフェスティボーよォォォ★〒♪闘魂祭!!」
ワイルちゃん「ひょっとして、メルビルの、歴史と情緒たっぷりのお祭りじゃないでしょうか?」
デスちゃん「いや。ウソだ。」
サルーインちゃん「はァ!??なに嘘とかいっちゃってんの?言ってから速攻で嘘だとか、意味わからんわ!!!」
デスちゃん「そうじゃない。ドライランド舎にある、ウソの村。そこのお祭りだ。」

・・・・・・

デスちゃんを除く全員が、程度の差こそあれ、「はーやってらんねー」といった感じで、
ぞろぞろと部屋を出て行こうとしました。
デスちゃん「・・・全員拒否、か・・・」
サルーインちゃん「あったりまえだろうが!んーなイナカ臭い祭り、面白くもなんともないわー!」
シェラハちゃん「悲しい話にまた一つ追加ね。好みが地味すぎて、妹にすら理解されない姉の話。」
ワイルちゃん「えぇと、私も遠慮しときます・・・他に用事もあるし。ごめんなさいっ」
ヘイトちゃん「そんな奇祭行きたくなぁぁぁぁい!!ヘイトちゃん祭りの方が楽しいわァアァァ★☆★」
ストライフちゃん「なんだよそれは。だが、私もまったく興味が無い。すまんなデスちゃん」

ぽつねん、と一人取り残されたデスちゃん。はぁ、と深いため息をついて、一言。
デスちゃん「はぁ、あいつらも結構冷たいよなぁ。ヤツと2人で、行ってくるか・・・」
そう言って、最後に部屋から出て行きました。
場に残された新聞には、こう載っていました。
「謎の奇病発生!?ウソの村近辺で、魂を無くしたかのような奇妙な病人が相次ぐ!」



さて、同じくトマエ火山の奥深く。
トマエ火山内モンスター寮の寮長室の前は、今日も依頼、申請、相談その他をするべく、
大量のモンスター生徒が列をなしておりました。

4寮長が一人、フレイムタイラントくんは、今日もその案件を一つずつこなすべく、
しっかりと仕事をこなしております。

   火神「タイラント様、今月の月次決算が出ました」
タイラント「備品類の消耗が激しいな。備品の予算枠を少し増やすか。」
   炎神「タイラント様、寮の補修についての申請がきております。」
タイラント「3Fに確保してある、黒鋼の使用を許可する。
      間違っても廃石は使うなよ。安全性を無視してコストを削るのは愚の骨頂だ。」
   火神「タイラント様、草原の恐竜達が、卵が狙われて困っている、助けてほしいと・・・」
タイラント「この配置図に従って見張り役の恐竜を立てろ。
      これならばステルスLv3までの相手なら、死角なく監視できるはずだ」
   炎神「タイラント様、この前のモンスター同士の争いの裁定をお願いします。」
タイラント「アクアサーペント側の証言には、根拠も裏付けも見られない。マムティ側の主張を通せ。
      サーペントには、『文句があるなら反証を出せ。それが筋だ。』そう伝えろ」
   火神「タイラント様、恐竜草が、『リガウ寮は俺のものだ!タイラント勝負しろ!』と喚いてます。」
タイラント「放っておけ。時間のムダだ。」
   炎神「出てこなければ、人間の旅行者を襲うぞ!と言ってますが。」
タイラント「やれやれ、狂草め。仕様が無い。ちょっと行って焼きを入れてくる。」
と、タイラントがトマエ火山を出て行ってすぐ後に、冥部へと続く扉が開きました。
中から一人で出てきたデスちゃんは、タイラントのお付きのモンスターに声をかけました。
   火神「これはこれはデスちゃん。珍しいですね。」
デスちゃん「まぁ少し用でな。タイラントは?」
   炎神「たった今、所用で出て行かれた所です。」
デスちゃん「そうか・・・全くタイミングが合わないな・・・。」
そしてデスちゃんは、はぁ、と一つため息をついて。
デスちゃん「仕方が無い。一人ででも行ってやるさ!私がやらねばならぬのだ!!
       ・・・タイラントが帰ってきたら、今日はウソに行くから留守にする、そう伝えておいてくれ。」
   火神「・・・タイラント様を呼びに行きましょうか?」
デスちゃん「なーに、それには及ばんさ。それに、一刻も早く行かねばならないからな。」
そう言って、デスちゃんは一人とぼとぼと火山を出て行きました。



タイラント「戻ったぞ。奴ももう、二度とバカなことはしないだろう。」
   火神「おかえりなさいませ。タイラント様、デスちゃんから伝言を承っております。」
タイラント「ほう、何と?」
   炎神「『用があるのでウソに行くから、今日は留守にする』と。」
タイラント「ウソというと、ドライランド舎か。
       また珍しい所に行くな、あの姉妹は。セレブというのも物好きなものだ。」
   火神「いえ、それがですね。行ったのはデスちゃん一人だけでして・・・」
タイラント「・・・なんだと?ミニオンも付いていないのか?完全に一人で行ったのか!?」
   炎神「え、ええ。それで、タイラント様をお呼びしようかと思ったのですが、
       デスちゃんが、一刻も早く行かねばならないから、と・・・」
タイラント「それで一人で行かせた、か。あの妹どもめ・・・なんて思慮が足りない奴らだ!」
   火神「タイラント様、それは一体・・・デスちゃん一人で行動するのが何かあるのですか?」
タイラント「お前達、デスちゃんが何故日頃ひっそりと過ごしていると思う?

       ――デスちゃんはな、光に弱いのだ。

       もっとも、普通に過ごすぶんには支障は無いが、しかし・・・」
   炎神「ド、ドライランド舎は、ただでさえ熱波の地域!しかもウソは、
       ガレサステップとカクラム砂漠の間の、メチャメチャ暑い地域では・・・
タイラント「たしか今年も、熱中症で何人もやられているはずだ。
       しかもガレサステップの辺りには、最近ガラの悪い奴らが出没するらしい。」
   火神「タイラント様!!今日の仕事は我々でなんとかします!!急ぎ、ウソに向かってください!」
   炎神「大丈夫ですよ。寮長室前に並んでいる生徒達には、急に体調を崩された、とでも伝えておきます。」
タイラント「お前達・・・。済まないな。我は良い部下を持ったものだ。
       しかし問題は、寮長室前の生徒達の目を、どうかいくぐって火山を出るか、だな。」
   火神「確かに・・・そのまま出て行ったらバレバレですよねぇ。」
ヘイトちゃん「そぉぉぉんなアァァナァァタァァのためにいいいい
        ぃぃぃ役にたぁぁぁつかドゥゥゥかはぁぁぁぁわからぬぁぁぁいけどぉぉぉぉ
        こぉぉぉんぬぅわぁぁぁぁはぅぅぅぬぁしがぁぁぁあぁぁりま"ぁぁぁぁすぅぅ!!!」
タイラント「黙れ公共の敵」
タイラントくんが、そこらへんの石をスカーンとヘイトちゃんに当てました。
ヘイトちゃん「痛いわねええええん何すんのようぅぅぅぅ●●★☆上」
タイラント「突如現れてキーの高い奇声を発するのに比べればマシだ。
       それよりも貴様、なぜデスちゃんを一人で行かせた!?」
ヘイトちゃん「だぁぁぁぁってぇ私たちはぁぁぁあサルーインちゃんのミニオンですものおおおお(゚∀゚ )」
タイラント「わかったわかった。全くどいつもこいつも・・・して、役に立つかもしれぬ話とは?」
ヘイトちゃん「しっかり話を聞こうとするあたり、スットライフちゅわんとは違うわねぇぇぇやっぱりぃぃぃぃ
        あたしの特☆技は、へ・ん・そ・う ヨォおぉぉぉぉ」
タイラント「なるほど!確かにそれは使える!先程は悪かったな。で、変装用具を貸してくれるのか?」
ヘイトちゃん「サイズの関係上、ほとぉぉんどムリだったのぉぉ。これ着なさぁぁい!!( ´,_ゝ`)」
火神&炎神「きっ、貴様!!これは!!」「てめえーー!!タイラント様を舐めてるだろう!!」
タイラント「・・・他に手は無し。止むを得ん。しかし・・・これ着ろってか・・・」



さて、リガウ島から出ている、メルビルへの連絡船。そろそろ出発の時刻です。
船係員「それでは乗客の皆様の確認をおこないますー。●●様〜。××様〜。えぇと・・・
     ・・ブレイズスレイブ様ー。」
タイラント「うむ。乗船している。」
念のため偽名を使って乗り込んだタイラントくんは、他の乗客達の好奇の視線にさらされていました。
中学生以上の人達は、「何アレー」「怪しい〜」「カワイィ〜♪」と好き勝手な反応をしています。
対し、いわゆる子供の世代は、目をきらきら輝かせて、タイラントくんにまとわりついていました。

そこには、大勢の人の中、頭一つ飛びぬけて背の高い・・・
・・・かわいいライオンさんの着ぐるみがありました・・・
もちろん中の人は、誇り高き4寮長が一人、炎の帝王フレイムタイラントくんです。

確かにこの変装は、正体を隠すという意味では成功していましたが・・・
タイラント「(潮風が、目に染みる・・・しくしく・・・)」
それと引き換えに、かけがえの無い何かを失いそうでした。これが等価交換の原則です。
ちなみに余談ですが、船に乗るまでの間、少なくとも3回は、
モンスター「あれ?タイラント様?」
タイラント「に、にゃーん」
モンスター「なんだ猫か」
のやりとりを繰り返してきたことを付け加えておきましょう。

そして船は緩やかに、メルビルへ向けて航海していきます。
しかしタイラントは、いつまでたっても子供達から開放されませんでした。
タイラント「(リガウを離れたら、速攻で脱いでやろうと思っていたが、
       ・・・できん。こんな純粋な子供達の前で、中の人を披露することはできん・・・)」
男の子「ねーライオンさん、抱っこしてよー」
女の子「ねーねーあたしもー」
スペクター「ねーねーぼくもー」
タイラント「待てぃ」
タイラントくんが、スペクターくんを片手で握り潰しました。
ファンシーなライオンさんの笑顔で握り潰しているので、アンバランスな怖さがあります。
スペクター「ぐ、ぐるじぃ・・・」
タイラント「何しに来たんだ貴様。」
スペクター「ヘイトちゃんに話を聞いて・・・実はおいらもデスちゃんが気になってたから、こっそりと・・・」
タイラント「そうか。いきなり潰して悪かった。一緒に行こう。デスちゃんを共に心配してくれるならば、大歓迎だ。」
そして、船はメルビルに着こうとしていました。



ドライランド、ウソの村から程近い草原地帯、ガレサステップ。
そこを、一頭の馬に乗った淑女が疾走しています。
骨格美人のデスちゃんです。
デスちゃん「やはり、草原地帯の中心部から、波動を感じる。アレが復活する前に封じねば!」
しかし、そこは砂漠にも程近い熱波の地域。デスちゃんの頭上からは、容赦無く太陽の熱線が降り注ぎます。
デスちゃん「(あ・・・暑い・・・なんかクラクラしてきた・・・)」
デスちゃんの視界が、1,2度歪みました。そして目の前が全て、蜃気楼のようにボンヤリと見え始め・・・
・・・デスちゃんは、そのまま気を失い、馬の首に倒れかかってしまいました。
馬が何ごとか、とその足を止めます。

そこに、何者かが数名、忍び寄っていたのでした。



タイラント「結局、脱ぐタイミングを逸したまま、ここまで来てしまった。」
スペクター「で、この村でも脱げそうにないねー」
ウソの村についた2人。ここでもやっぱり、着ぐるみタイラントくんは、子供達のアイドルです。
適当に子供達をあやしながらも、タイラントくんは村の奇妙な空気に気づいていました。
タイラント「奇妙だ。この沈んだ空気、祭りのそれとは程遠いぞ。」
タイラントくんは、オアシスの側にたたずむ男に事情を尋ねることにしました。
男「今年の祭りは中止さ・・・おかしな病気が流行りだしやがった。まるで魂が抜かれたように・・・
  俺のダチもそれにかかっちまった。もはや祭りどころじゃないのさ。伝統ある祭りなのにな・・・」
タイラント「(魂?デスちゃんに関係が?)そうか、それは気の毒な・・・
       ところで御仁、この写真の女性を見なかったか?」
男「あぁ、この物凄ぇ骨格美人だな。・・・あんた知り合いかい?なら急いで探しに行ったほうがいいぜ。
  この女性に馬を貸したんだがな・・・さっき、馬だけ戻ってきたんだ。」
タイラント「――――なんだと?」
男「最近ガレサステップの辺りには、『人さらい同好会』なんてとんでもねぇ連中が出没して、問題になってるんだ」
タイラント「人攫いだと!?女性をかどわかして、は、はれんちな事をするというのか!許せん!!!」
男「いや、奴らはモテない連中の集まりらしくてなぁ。さらっても、いざ女性をどうこうする根性は無いらしくてな。
  結局、金品と交換という形で開放するらしいが、連れられた奴らにとっては、別の意味でキツいらしいぞ。
  手出しをする根性は無いが、基本的に変態らしくてな。持ち物・・・
  それも靴下とか口紅とか、アレなものも持っていくそうだ。
  会話の内容も凄まじくキモいらしくてな。後々精神的なダメージを残すんだそうな。」
タイラントくんは、盛大にすっころびました。
タイラント「き、狂人どもめ・・・しかし、ある意味タチが悪すぎる連中だな。情報、感謝する。行くぞ!」
そう言ってタイラントくんは、ガレサステップに向かって走り出しました。
スペクター「タイラントくん、それ脱がないの?」
タイラント「そんな暇は無い。このまま探し出す!」
スペクター「(なんだかんだいって、その恰好気に入ってるんじゃないのかな・・・)」



人さらいボス「ふえっふえっふえっ、こんな骨格美人が手に入るなんて、オ、オデ、しあわせもんだぁ」
もう太陽がだいぶ西に傾いて、夕暮れ近いガレサステップ。その中央部。
古代の祭壇が今なお形を残し、円形に柱が列をなす、そんな場所。
大勢の、ガラと頭の悪そうな連中がたむろする、その中心に、一つの檻があります。
その中に座って、貧血気味の青い顔をしながらも、憮然とした表情をした美女がおりました。
デスちゃん「く、くそ・・・こんなどうしようもない連中に捕まるとは、我ながら情けない・・・」
人さらいボス「おまえさん、お、お金持ちっぽいんだな。うれしいんだな。
         あっ!オ、オデに流し目を使ってもダメなんだな。オデにホれるのはわかr」
デスちゃん「誰が貴様なんぞに流し目をするかー!!出せ!出さぬか馬鹿者!!」
人さらいボス「オデは優しいんだな。だから出してやってもいいが、じ、条件があるんだな。
         ・・・その、か、からだに巻いてる包帯を、よこすんだな。ハァハァ」
デスちゃん「〜〜〜っ!」デスちゃんが、反射的に胸をかばいます。
人さらいボス「お、おまえさんのはいてる、靴でもいいんだな。いい匂いがしそうなんだな・・・
         ・・・ところでおまえさん、み、水が飲みたいんじゃないのかな?」
デスちゃんが、言葉に詰まりました。確かにノドはカラカラで、頭もクラクラします。
デスちゃん「・・・ふん。水くらいで、服をよこせとかは言わぬだろうな?」
と、人さらいボスが、水筒を取り出して・・・

べろべろべろべろ

人さらいボス「か、間接チッスなんだな。」
デスちゃん「死ね!!!」
デスちゃんが水筒を地面にたたきつけました。本当なら術の一つもぶち当ててやりたい所ですが、
太陽の光にさらされて、とても気力が起きません。
人さらいボス「み、水がほしくなったら、また呼ぶんだ、な。
         さぁおまいら!!今日は上玉が盗れたんだな!また収穫のおどりをするんだな!」
そして人さらいたちは、祭壇の周りをぐるぐるぐるぐる回り始めたのです。
デスちゃん「お前らかーーーー!!!!止めろ!今すぐ止めろ!!せっかく封じた奴が、復活してしまう!」
人さらいボス「ならばその包帯」
デスちゃん「くたばれ!!!」

そしてデスちゃんは、ぽつん、と檻の中に一人取り残されてしまいました。
デスちゃん「・・・はぁ・・・厄日だな今日は・・・シェラハの奴なら、不幸話リストに即追加するだろうな。
        サルーインめ、あやつでも心配してくれるだろうか。
        ・・・・・・・タイラント・・・・・・」



時同じくして。ウソの村からガレサステップに入り、しばらく進んだ辺り。
三日月刀を携えた人攫いが2人、水を飲みながら休憩してました。
人さらいA「しっかし、こう暑くちゃ、誰も通らないんだな。」
人さらいB「まったくだな。もう帰りたいんだな。みんなもう踊りはじめてると思うんだな。」
人さらいA「んじゃ帰るか?今日はもんの凄ぇ、こ、骨格美人が手に入ったんだな。」
人さらいB「んだんだ!どこの誰だかまだわからないけど、相当お金持ちっぽいんだな!」

「ほう。その話を詳しく聞かせて貰おうか。」

と、気配も無くライオン(の着ぐるみ)が、人攫いの背後に現れました。
人攫いはライオンの方に振り返り、キョトン、と着ぐるみ姿を見ています。

タイラント「貴様らか、下衆な人攫いは。骨格美人を連れて行ったろう。どこへやった?」

人攫い「・・・!し、知らないんだな・・あやしいやつ!お前は死ぬんだな!!」
その手に持った三日月刀で、タイラントくんに斬りかかりました。

タイラント「貴様は何か勘違いをしているようだ。」

しかしタイラントくんは、その刃を指2本で、あっさり受け止めました。

タイラント「これは、『教えてください』という哀願でも
            『知りませんか?』という質問でもない。」

ぱきん。指をひねるだけで、刃が簡単にへし折られます。

タイラント「――――『吐け』という命令だ。」



太陽が半分ほど沈み、赤く染まった空の下。大勢の人攫いが酒を飲んで踊り狂っています。
そこから少し離れたあたりに、デスちゃんの入れられた檻がありました。
その集団より距離を置いた場所にある岩の影に、タイラントくんは辿り着いておりました。
スペクター「あ、いた!デスちゃんいたよ!!」
タイラント「うむ。あとは助けるのみ。場が荒れるから、しばし隠れていろ。」
そう言って、タイラントくんは空に手をかざしました。
すると、何も無い場所から炎が巻き起こり、手の中に集まっていきます。
やがて炎は、一本の巨大な両手斧、「君主の大斧」に姿を変えました。

人攫いボス「あっはっは!踊れ踊れ!なんだな!おや、あれはなんだな?」
空中から回転する何かが、その場に向かっております。
人攫い「隕石?」「UFO?」「いんや、ありゃ・・・片手斧だ。」
人攫いボス「フ、フライバイなんだな!つまり敵襲なんだな!!!」
即座に身構える人攫い達。しかし彼らは、2つ勘違いをしておりました。
1つは、それはフライバイではなく加撃のスカイドライブだったこと。
そしてもう1つは、エラい勢いでかっ飛んで来るのは、『両手斧』だったことです。
人攫い「う、嘘おおおおおお!!!!!」
大斧が地面に炸裂した瞬間、巨大な爆発が巻き起こりました。周囲に衝撃派が広がり、人攫いが吹っ飛ばされます。
と、髪の毛を抑えるデスちゃんに、声がかけられました。
「――――探した!無事か!!」
「タイラント!タイラントだな!!」
巻き起こる砂煙で姿は見て取れませんが、声を聞けばわかります。
タイラントくんは、声をかけるやいなや、鉄格子を引きちぎりました。
人攫いボス「お、おまえタダモノじゃないんだな!なにやつ、なんだな!!」
デスちゃん「ふはははは!こやつが来たからにはもう貴様らは終わりよ!己の所業を悔いるがいいわ!」
そして砂煙が徐々に薄れていきました。中から出てきた人影は・・・

にゃーん

人攫いボス「・・・ぶっ!ぶくくくくあっひゃひゃひゃひゃひゃ!!
        なんてカワイイライオンさんなんだな!!確かにタダモノじゃないんだな!!うひゃひゃひゃ」
デスちゃん「・・・・・・・・・このバカ!!」
タイラント「痛い!!」
デスちゃん「なんて恰好してるんだバカ!私が苦労してたのにおぬしは!!恥をかかせる気か!バカ!!」
タイラント「痛たたたたた!!首を引っ張るな!首の骨が折れる!いや、これにはワケが・・・」
デスちゃんが顔を赤くしながら、タイラントくん(着ぐるみ)をぼかぼかと殴っています。
やがて殴る勢いは少しずつ弱まり、最後に倒れこむように、額をぽすっ、とタイラントの胸に押し付けました。
デスちゃん「・・・まぁ、来てくれたのは嬉しい。信じていたぞ、タイラント。恰好は予想外だったがな。」
タイラント「我も信じていたぞ。お前は無事でいると。大丈夫か?辛い目には合わなかったか?」
人攫いボス「・・・なんかお前たち見てたらムカついてきたんだな!無視するなムガッ!?」
タイラントは人攫いボスの方を見ないまま、無造作に手を伸ばして人攫いボスをひっ掴みました。
デスちゃん「危害を加えられた、というのは特に無い。ただ炎天下に放置されて水も飲めなかった。
       それにそいつらのヨタ話を延々聞かされて、いいかげん参っていたところだよ。
       被害といったらそのくらいかな。」
タイラント「なるほど。それは非道い話だ。・・・リクエストは?」
デスちゃん「馬鹿の相手をし続けて、私は非常に頭にきている。しかし他にせねばならぬ事もあるし。
        ――――――シンプルに、わかりやすく、スカッとした方法で頼もうか。」
タイラント「了解。」

人攫いボス「ぶべらっ!ばべらっ!ぼべらっ!」
拳の連打、コラプトスマッシュを浴びて、人攫いのボスが空中に打ち上げられています。
ボロぞうきんのようになったボスは、最後に投げ捨てられました。
かわいいライオンさんが、ゆっくりと他の人攫いたちの方を向きます。
にこやかに微笑むライオンの顔は、返り血でべっとりと汚れておりました。
人攫い「なんか怖ェーーーー!!!!!」
――――そして始まる、カマの血祭り。



スペクターくんは、中央の祭壇にて、人攫いたちがぶっ飛ばされていくのを見ておりました。
スペクター「(うーん、人がまるでゴミのようだ。)」

        ・・・・・タマシイヲ・・・・

スペクター「えっ!なんだなんだ!?・・・何かが、来る?」

        ・・・・・丁度良い、器がおるわ・・・・
        ・・・・・他の者どもからは魂を・・・・

        ・・・・・貴様からは、体を貰おう!!

スペクター「うっ、うわあああああ!!!来るなあああああ!!!!」



人攫い「じ、冗談じゃないんだな!!逃げるんだ・・・な!?」
人攫いに向かって、骨ばった手が迫ります。そしてその手は、人攫いの胸の辺りをなぎ払っていきました。
すると、人攫いが力なく崩れ落ちました。その顔は青白く、まさに死人のようです。
そして、人攫いをなぎ払った手には、白く輝く魂が1つ、握られておりました。

タイラント「この気配、何かがいる。それもとてつもない・・・危険なものが。」
タイラントくんは、人攫いを痛めつけるのを一時ストップし、辺りを見回しました。
そして気づいたのです。立っていた人攫いが激減していることに。
そして、自分がノックアウトした人攫いも、顔色が急変しているということに。

デスちゃん「間に合わなかったか・・・タイラント!気をつけろ!こいつはヤバイぞ!!」

???「・・・まだ立つものがいたか・・・その魂、いただく!」



骨ばった手が2つ、誘導弾のように弧を描きながらデスちゃんに迫ってきました。
デスちゃんにその手が触れる直前、タイラントくんが横から、デスちゃんをかかえて飛びました。
手はさらに2人に迫ります。デスちゃんを抱えて走るタイラントくんの、肩を、背中を、足を、手が掠めそうになります。
そのままタイラントくんは、大きな岩の陰に転がり込みました。
と、手の追撃がやみました。2人が様子を見てみます。
手は、先に取りやすい魂を探すつもりか、人攫いたちを追い回していました。
とりあえず標的がそれたことを確認しつつ、2人は魂を略奪している者の姿を見て、絶句しました。
タイラント「スペクターくん!何故だ?」
デスちゃん「スペクターくんも来ていたのか!なんということだ・・・
        いや、お前たちはココに何がいたか、知らなかったから仕方ないか。しかしマズい。
        ・・・スペクターくんは、『ヤツ』と同じ不死族だ。器として乗っ取られてしまったのだろう。」
タイラント「デスちゃん。お前が一人ででもこの地に向かった理由。そしてウソの病気。
       この2つの根は同じものだな。アレが原因ということか。アレは一体何だ?」
デスちゃん「ヤツの名は『ソウルドレイン』。アレは元々はな・・・」
そしてデスちゃんが、苦悩に満ちた表情でひとつ、ため息をつきました。
デスちゃん「我が愚妹が作り出したものなのだ。魂が無くとも動くものを作ってみるぞアハハアハ、とか言ってな。」
タイラント「・・・その文末だけで、誰が原因なのかよーくわかった。で、出来上がったのがあの魂を奪う化物か。」
デスちゃん「そうだ。魂が無いため、殺しても殺しきれない。だからこの地に封じたのだ。
        ウソの村に伝わる、カマの祭りになぞらえた方法でな。ヤツの周りを5回まわるというやり方だ。
        だが。さっきの人攫いの馬鹿どもがいたろう?奴らが封印した祭壇を、『逆に』まわっていてな。」
タイラント「デスちゃんほどの法力を持ち合わせていない連中がやっても、そう簡単には封印は解けない。
       しかし、封印は徐々に弱まっていった。ウソでの奇病が起きたのもそのころだろう。
       そして、『器』となるスペクターくんが居合わせたせいで、一気に復活に至ったのか。」
デスちゃん「ただ復活しただけなら、おぬしと共に打ち破って、
       もう一度封じれば良いと思っていた。しかしスペクターくんが・・・」
タイラント「・・・聞きたいことがある。まず1つ。スペクターくんはかつての敵だろう?見限ることは、しないのか?」
デスちゃん「それはできん。今となっては奴は我々の一員だからな。それに、あの3人組が悲しむだろう。」
タイラント「そう言うと思っていた。ならばもう1つ。
      スペクターくんの体から、ソウルドレインを追い出すことはできるか?」
デスちゃん「封印の応用でいけるだろう。しかし、それにはヤツの動きを止めないと・・・」
タイラント「なるほど。ならば我の成すべき事が見えた。デスちゃんはここで、封印の準備をしていてくれ。
       では、足止めに向かうとしよう。」
デスちゃん「ちょっと待て!一人で行くつもりか?」
タイラント「あぁ。デスちゃんは弱っている上、封印できる唯一の人物だ。失うわけにはいかない。
       大丈夫だ。我が魂はそんなにヤワにできていないさ。それに」
そしてタイラントくんはソウルドレインの方に向かい、言いました。

タイラント「もうお前の眼前で、あんな無様はさらさない。絶対に負けない。そう、誓ったのだ。」

デスちゃん「タイラント・・・」
タイラント「ま、まぁその、何だ。極力傷をつけず、動きを封じれば良いのだろう?
       大丈夫、我に策ありだ。だから何が起きようと、信じて待っていろ。」
デスちゃん「・・・恰好つけているところ悪いが、まだその恰好で行くつもりか?」
タイラント「あぁっ!着ぐるみ付けっぱなしなのをすっかり忘れていた!!」
デスちゃん「まったく、変な所が抜けているな・・・。ほれ、さっさとそんなもの脱げ。」
タイラントくんは頷き、着ぐるみを全て脱ぎました。そしていつものタイラントくんに戻りました。
デスちゃん「よし次だ。ちょっとかがめ。ひざまずけ。」
タイラントくんは、ちょっと頭をひねりながらも、言われたとおりにしました。
デスちゃん「うむ。じゃあ目を閉じろ。」
タイラントくんは、言われたとおりに目を閉じました。


デスちゃん「汝に、祝福を――――」


タイラントくんの額に、やわらかな唇が触れました。
この場にいるのは2人きり。つまりこれは――――

タイラントくんが、目を見開き、口をぱくぱくしながら呆然としています。
デスちゃんは顔を赤らめて、目を少しそらしながら言いました。
デスちゃん「こ、これはおぬしの魂を守る祝福の儀式だ!他意など無いからな!!絶対だぞ!!」
タイラントくんの額についた、デスちゃんの赤いキスマークが、不思議な紋様の形に姿を変えました。
タイラント「・・・ありがとう。こんなに心強い手助けは無い。
      役目は3つだったな。スペクターくんを取り返し、お前を守り、そしてヤツを倒す。」
デスちゃん「もう1つ追加だ。タイラント、死ぬなよ。生きて帰ってくるのだ!」
タイラント「以上4つか。了解した。受けたからには、果たしてみせよう。」


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