第9話「ささやく風が渚を揺らせて」

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マリーン「ストライフちゃん!?」
ストライフちゃん「マリーン!?」
そう、この二人は実は旧知の間柄。ストライフちゃんが有給のサルーインちゃんの
お守りから開放される日には、よくマリンスポーツへと海へ行くのです。
そこで知り合い、水泳について深く話し合い、二人は意気投合したのでした。
マリーン「ストライフちゃん!久しぶりね、でもどうしてあなたがメルビル寮なんかに
     いるの?いつも会うのはノースポイント寮の海岸じゃない」
ストライフちゃん「マリーンこそ、まだ夏休みでもないのに兄弟校『ウコム学園』から
     出てきてこんな所で何してる?・・・いや、さっきサルーインちゃんとか
     言ってなかったか!?」

ちょっと説明をここにはさみますと、『ウコム学園』とはマルディアス学園の兄弟校で、
主に魚介類たちの生徒で成り立っている、海の中の学園なのです。
その学園の理事長がウコムくんなのですが、迷信深いノースポイント寮では、
怒ると海を荒れ狂わすウコムくんのことを恐れ、「海の神様」だと思い込んでいるのでした。

さて話は戻り、ストライフちゃんからの出し抜けな質問に、マリーンちゃんはおずおずと答えました。
マリーン「そうなのよ、実はミルザとかいう人がサルーインちゃんは渡さないとか言って、
     あの『石像』を持って行ってしまったの!」
ストライフちゃん「「サルーインちゃんは渡さない」と言って『石像』を持ってっただってえ!
     ええい、やはりミルザがあの『像』を!」
マリーン「?事情を知っているのストライフちゃん?もしかしてあの『像』を取り返すのに
     協力してくれるの!」
ストライフちゃん「無論だ!おのれーミルザの虫けらが!必ず『像』は取り戻すぞ!!
     ・・・マリーンもあの『像』を取り返すのを手伝ってくれるのか?」
マリーン「手伝うも何も・・・当然でしょ!さあ、行きましょう!」
もちろん二人の言っている『像』とは、同じものではありませんでした。
一つはウコムの娘の像、もう一つは石化してしまったサルーインちゃんの像です。
マリーン「でも見失ってしまったのよ、さっきの人!まだメルビル寮内を
     出てはいないと思うけど・・・!」
ストライフちゃん「お、お前のストーキングをも逃れるとは・・・ミルザ、虫けらの割りに
     侮れん!!・・・いや、しかしメルビル寮内ならまだ手はある。」
マリーン「ストライフちゃん!手って一体!?」

ストライフちゃん「まあ見ていろ!・・・きゃああーーー大変だーーー誰か助けてーーーー!!」



ミルザくんの耳に何か叫びが聞こえてきました。しかも助けを求めているような声が。
ミルザくん「むっ!?誰かが助けてと叫んでいる!?・・・くっ、さっさと船に乗って
     ノースポイントの方まで逃げ延びるつもりだったけど、少しくらいなら・・・!」
そう言ってミルザくんが叫びの聞こえた方向に向かった途端!
ストライフちゃん「ばかめやはり来たな!!」
ミルザくん「!!!!!」



なんとそこには自分を追いかけていたマリーンちゃんと、ワイルちゃんやヘイトちゃんに
よく似た、しかし柄の悪そうな女の子がいたのです。
ストライフちゃん「おめおめとやってくると思っていたぞ!!人助けが趣味みたいな
     お人よしめ!だが正義の味方面したお前は、こんな簡単な罠で敗退の目を
     見るのさ!!さあ、持っている『像』をこっちへよこ・・・ん?」
ストライフちゃんは顔をしかめました。ミルザくんが持っている像はどう見ても
あの時石化したサルーインちゃんの姿とは似ても似つかない。というかそもそも
大きさが全然違う。ストライフちゃんは一瞬悩みましたが・・・
ストライフちゃん「おのれミルザ!!罠にかかった振りをしてすでに本物は
     違う場所へと隠しやったのだな!!本物はどこだ!さあ、言え!!」
マリーン「えっ?」
ミルザくん「はあ!?(あ、あれ?・・・そうか、偽者に見えるってことはあの奪った時に
     なんかどこかに傷がついたのかな・・・・・・・・・・・っ!!!
     サルーインちゃんに傷が!?)
     うわああああっぼ、僕は君達に構ってる暇なんかないんだ
     ーーーーー!!!」
悲痛な叫びをあげるとミルザくんはそこから走り去ろうとしました。混乱して、
最初はノースポイント寮まで海路で行こうと思っていたところを、陸路の方向へと
変えてしまいました。

マリーン「あれが偽者??どういうことなの!」
ストライフちゃん「見てわからなかったのか!!全然違うじゃないか!おそらく
     お前が見失ってここで見つかるまでの少ない時間の間にどこかに隠したのだ!」
マリーン「えっ?そ、そうなの?(やばい、私の魚眼レンズも曇ったかな・・・)」
そこでプーー・・・と船の出港の音が聞こえました。ミルザくんが乗り込もうとしていた、
貨物船でした。
ストライフちゃん「ミルザは全力疾走でメルビル寮を出て行った・・・メルビル寮内に
     隠してあるならどんなに巧妙な場所に隠したとしてもメルビルから去るとは思えん!!
     ・・・さっきミルザは港の方から来た!
     もしかしたら今の陸方面への逃走もフェイクで
     運送船に乗せてあってノースポイントで受け取る気かも知れん!!
     マリーン!あれはノースポイント行きだな!」
マリーン「それだったら問題ないわ、海の上だったらウコム様が勝手に嵐を起して
     取り返してくれ・・・」
ストライフちゃん「はあ!?何を言ってるんだ虫けらかお前は!!そんなことになったら
     二度と戻らないだろうが!!マリーン!ノースポイントに先回りして
     『像』を先に手に入れるぞ!!」
マリーン「に、二度と戻らないって何がなんでなんだか・・・・・・・あっ!!」
バッ!!ストライフちゃんが制服を脱ぎ捨てたかと思うと、そこには真っ赤な競泳水着を
来たストライフちゃんの姿がありました!
ストライフちゃん「マリーン!体は鈍ってないだろうな?あんな貨物船は
     すぐにでも抜かして、ノースポイントまで勝負だ!!」
マリーン「・・・!体が鈍ってるかどうか、すぐにわかるわよ!!
     さあ、行きましょう!海の娘の血が騒ぐわ!!!」
マリーンちゃんはその気になってしまいました。

こうしてストライフちゃんとマリーンちゃんは華麗なる泳ぎで海を渡ることになったのです!
・・・マリーンちゃんが海中にいるとウコムくんは嵐を起せません。
本当ならウコムくんはほとほと困り果てて怒っていることでしょうが、ウコムくんは
陸上でそんなことが起こっているなんてつゆほども知らなかったのです。
だって、貨物船には『ニンフの像』も、『サルーインちゃんの像』も乗っていないのですから。



ワイルちゃんとシェラハちゃんにとっては水龍くんの間にたどり着くことなど
いともたやすいことでした。

シェラハちゃん「水龍くん!居るの!居たら姿を現せよ!!」
水龍くん『なんの用だ、サルーインちゃんの一味め』
シェラハちゃん「一味と聞くと悲しい話を思い出すわ・・・一味かと思ったら
     七味唐辛子だった話・・・ああーーーーーーこんなところでも癖が!つい癖が!!」
ワイルちゃん「す、水龍さん、私達一刻も早くローザリア寮に行きたいんです。
     ちょっとミルザという生徒を追っていて・・・」
水龍くん『ミルザ?ミルザだと?すでに奴はローザリア寮にはもういない。奴は
     メルビル寮まで行った後その足でノースポイント寮方面に爆走している』
ワイルちゃん「な!・・・・・・どうしてあなたは、そんなことまで?」
水龍くん『水の流れがこの学園のあらゆる出来事の情報を運んできてくれるのだ。
     お前達のサルーインちゃんがタイニィフェザーのくちばしで石化したのだな』
シェラハちゃん「くちばしと聞くとなんですって!
     やはりタイニィフェザーがエロールちゃん側に付いたのか!」
水龍くん『変わり身が早いな。そうではない。あいつの羽がどうやら利用されたらしい、私の鱗のように』
ワイルちゃん「あなたの・・・鱗?」
水龍くん『これからお前らにくれてやろうという代物だ。』
そう言って水龍くんはその巨大な体を震わすと、二つの鱗が落ちてきました。
水龍くん『その鱗を「身に着けていれば」人魚の姿になれる。水中で息も出来る、
     海を渡って陸路より遥かに早く目的地に行くことが出来るだろう』
ワイルちゃん「人魚って・・・きゃあ!!」
試しに付けてみたワイルちゃんは甲高い叫びをあげました。あ、足が魚の姿になっている!
水龍くん『すぐに慣れるし、その身から剥がせばすぐに元の姿に戻る。・・・さあ、
     私がしてやることはこれまでだ。すぐにでもサルーインちゃんを救い出しにいくがいい。
     必ず助けろ!今我々四寮長がエロールちゃん側に付いたとなると均衡している
     この学園内の人間学部とモンスター学部のバランスが崩れるのだ!さあ、行け!』
シェラハちゃん「バランスと聞くと・・・栄養食品にはまった男の話・・・こ、これって
     自分の身から離れれば元に戻るのよね?」
ワイルちゃん「そうらしいです、ノースポイント・・・行きましょう!貧血のヘイトも起して来ましょう、
     どうせ一人置いていくと後で除け者にしたって公害レベルでわめくから。
     すいません水龍さん、もう一枚だけ下さいな!」
水龍くん『・・・なにやら不安が拭えんな・・・』



・・・ちぎれて はぐれてく 雲が〜

親父「おお!なんだか詩人さん、今日は上機嫌だねえ!いつもに増して歌声が響くよ」
詩人「ふふふ・・・そうですか?」
詩人さんはノースポイントで野外ライブをしていました。みんながその歌声に集まってきます。
詩人さんの上機嫌の理由は・・・もうお分かりでしょう。
子供「詩人さーんもっと歌ってー」
お姉さん「もっと聞かせてくださいな、聞いてるだけで苦労を忘れちまうわ!」
詩人「ではご希望通り・・・――――――――!!!」
子供「?どうしたの〜詩人さーん?」
詩人さんは微笑を絶やさずながらも目だけを険しくしました。木の陰に怪しい人影、
明らかに自分の歌に皆が気を取られてるうちに、というこそこそした動き。
人もいなければなにか用事があるはずもない寮の郊外へと向かう足。
そしてなにより、彼の「担いでいる物」は、あそこで海に突き落としたはずの―
すっと詩人さんは立ち上がりました。
詩人「今日はこれでおしまいです、また次回をお楽しみに!」
みんな「えーもう〜〜〜?」
詩人「ふふふ、すぐにまた来ますよ、すぐに済みますから・・・・・・」



小兄ちゃん「はあ、はあ、・・・やっとここまで来たぞ・・・
     夕方にメルビル寮行きの貨物船が来る、メルビル寮の地下競売に出すんだ!
     メルビル寮行きの・・・」
???『その像を返せーーーー!!』
小兄ちゃん「!!!」
なんと、美しい石像を運んできて疲れてほっと一息ついていた小兄ちゃんを
いつのまにか足が生えた魚のモンスターが取り囲んでいたのです!
小兄ちゃん「う・・・く・・・う、ウコムめえぇ!!!」
詩人「はっ!」
小兄ちゃん「!?」
突如振って来た様に現れた詩人さんが、剣の一振りで魚のモンスターを威嚇したのです。
モンスター『お、おのれー』
モンスターはそう吐き捨てると引き下がって行きました。
・・・・・・
生徒A「・・・ふーやれやれ、こんな着ぐるみ着てなんだったんだ?」
生徒B「よくわからんが・・・まあ300ジュエルもくれるって事だし」



詩人「大丈夫ですか?」
小兄ちゃん「あ・・・ありがとう、あんたは・・・ああ!いつになったら
     俺達に幸せがおとずれるんだ!?この像を持ってる限りウコムからの
     化け物は付いて回るんだ、はやくメルビル寮で売り払って金を・・・」
詩人「バカなことをお言いでない!幸せになりたいのなら、その像をそんな
   処し方で手放してはなりません!」
小兄ちゃん「えっ!?」
詩人「幸せになりたいんでしょう・・・」
小兄ちゃん「・・・!・・・な、なりたい!幸せになりたいんだ!」
詩人「では聞きなさい!ウコム様をそんな罰当たりな風に言ってはなりません。
   その像のあなたの処し方によってウコム様は絶えぬ海からの幸をあなたと
   あなたの家族に与えてくださるようになるでしょう!」
小兄ちゃん「なに・・・なんだって?」
詩人「海の神ウコム様には三人の娘がおりました。ここまでは知っているでしょう・・・
   その真ん中の娘は、それは美しい娘でしたが、心は醜く、卑しく、
   海のどんな化け物よりも忌まわしい娘だったのです!安らかな海を乱し、
   気まぐれに嵐を起しては溺れる人々を見てあざ笑う娘だったのです!」
小兄ちゃん「・・・!・・・父ちゃん・・・!」
詩人「その娘をウコム様は封印しました。そう、石像という形でね。しかし本当なら
   海からも、陸からも消滅させてしまわねばならなかったのです!そう思いながらも、
   実の娘を手に掛ける事はウコム様は出来なかったのです・・・しかし今でも
   その娘を憎み、その娘の封印が誰かに解かれることを案じていらっしゃいます。
   だから石像を持っているとウコム様の使いから襲われてしまうのです・・・。
   『だからあなたがやるのです』!ウコム様が出来なかったその娘の抹消を!」
小兄ちゃん「・・・ま、抹消って!?この石像を壊せばいいのか?
     でもウコム・・・様が出来なかったことを俺がやってしまったら!
     そんな空恐ろしいこと!どんなに酷い娘でも、実の娘なんだろう?」
詩人「それをウコム様を慰めるかたちでやればいいのです・・・
   『粉々に砕け散った娘を海へと返す』・・・というかたちで・・・ね」



ミルザくんは夕方頃にノースポイント寮に着いていました。彼は港の方までやって来ていました。
ミルザくん「はあはあ、きっとあいつら、僕が騎士団寮に戻ったと思って追いかけることだろうから、
     全く逆の方向に来てやったぞ!へへん、僕もなかなかやる・・・」
ストライフちゃん「待っていたぞ虫けら!!」
ミルザくん「ぶへあ!!!」
なんと港では二人のミニオン・・・ではなく、ミニオン・ストライフちゃんと
マリーンちゃんが待ち構えていました。



ストライフちゃん「もうすぐ貨物船が来る!さあミルザ、あの『像』はどこだか
     教えてもらおうか!」
マリーン(・・・やっぱりあれ本物だと思うんだけどなあ・・・あっれ魚眼レンズの調子悪いのかなあ)
ミルザくん「だ、だから何を言っているんだーーーああもう僕に構わないでーーー!!」
バシャーン!!そういってミルザくんはなんと!海の中へ飛び込んでしまったのです!
大事そうに『サルーインちゃんの石像』を抱えて。
ストライフちゃん「・・・!ふっははは馬鹿め!泳いで逃げようという魂胆だろうが
     相手が悪いと知らなかったのだな!!マリーン!あいつに私達のスイミング力を
     思い知らせてやるぞ!!」
マリーン「(キュピーン!)まかせなさいストライフちゃん!!」
ザバーン!ストライフちゃんとマリーンちゃんの二人も飛び込みます!
ミルザくん(・・・・・・・・・・・!!)
ミルザくんは後ろを見ると後を追ってきている、その上マリーンちゃんの下半身が
魚になっていることに驚きました。どんどん距離を縮められます。
ミルザくんはもっともっとと深くへと潜っていきました。
ストライフちゃん「ばかな虫けらめ!!深ければ深いほど私達に有利だというのに!」
マリーン「捕まえるのも時間の問題ね!ふふふ、味気ないからもうちょっと
     追いかけっこしてあげてもいいんじゃない?」
水中で二人のミニオン・・・じゃなくて二人の嘲笑が響きます。
ミルザくんはさらにさらに深く潜っていきました。
マリーン「お遊びもこれまでにしましょ!さあ、あの『像』、返していただくために
     捕まりなさーーい!」
そう言ってマリーンちゃんが最高速度でミルザくんに近づいた時!
ストライフちゃん「!!!
     マリーンこれは罠だ戻れーーーーーーーーー!!!」

マリーン「え!?」

マリーンちゃんがストライフちゃんの声に気付いた時にはもう、マリーンちゃんは
状況がよく分からなくなっていました。
漁夫A「・・・こりゃ人魚か?」
漁夫B「人魚だーーーーーーーーーーーー!!!」
マリーン「・・・あっ!!!」
そうです、マリーンちゃんはまんまとミルザくんに誘導され、投網の中に
入ってしまい、引き上げられてしまったのです!もちろん誘導したミルザくんも
網に絡まっていましたが、レフトハンドソードでさっと網を切り抜け
『サルーインちゃんの石像』を持ったまま近くの船へと
ジャンプして移り、そしてまたマリーンちゃん達二人の前から姿を隠してしまいました。
マリーン「・・・よ、よくもーーー石像を返しなさーーーーい!!!」
マリーンちゃんはぼんっと人間の姿に化け、「網から放しなさい!」と漁夫達に叫びました。
漁夫達は何がなんだか分からなくなっていましたが取りあえず放してしまいました。
ストライフちゃん「よくもはめてくれたなミルザ・・・虫けらめぇ!!
     すでに貨物船は港に着いている!あいつは陸に戻るはずだ!
     マリーン!行くぞ!!!」



ミルザくん「やっとまいてやったぞ・・・ああサルーインちゃん、僕が君を守るからね!
     (頬擦り)・・・やれやれ、もう夕方だ・・・―!?」
ミルザくんがなんとなしに上を見上げると、岬がちょうど目に付きました。
その岬をミルザくんは目を疑いながら凝視しました。いつも影から見つめていたあの人、
Sっぽいその素振り、その何者にも媚びを売らぬ美しさ・・・
まさしく、その『サルーインちゃん』の姿をした像がそこに立っていたのですから!!



シェラハちゃん「・・・海と聞くと悲しい話が星の数ほどあってどれを話したらいいか
     わからなくなって悲しいわ・・・やっとノースポイント寮の海辺ね!」
ワイルちゃん「ああっあれ!!見てくださいシェラハちゃん、ヘイトちゃん!!」
ヘイトちゃん「ヒイ・・・ヒイ・・・ヘェイトは貧血・・・も・・・駄ぁ目ぶ・・・」
シェラハちゃん「姉さん!!!」
人魚となって泳いできた彼女達が見上げると、岬の上に紛れもない美しさを誇る
サルーインちゃんの石像があったのです!
ワイルちゃん「さ、サルーインちゃんさま!!一体どうしてあんなところに・・・
     美しいからってあんなところに飾るもんじゃ・・・はっ!」
ワイルちゃんはその目に、サルーインちゃんの石像と、もう二つの人影をそこに認めました。
ワイルちゃん「あそこ、あそこ!サルーインちゃんの他に、誰かが二人ほどいます!」
シェラハちゃん「二人と聞くと二人と思ったら一人だったさびしい男の話を・・・
     ああ本当だわ!一体何をしているの?何をしようと・・・まさか!」
ストライフちゃん「お前ら!!!何をしているんだこんなところで!?」
ワイルちゃん「!?・・・ストライフちゃん!?」
陸に上がろうと浅瀬に向かっていたストライフちゃんとマリーンちゃんに、
ワイルちゃん達は出くわしたのです。
ストライフちゃん「・・・しかもその姿は一体!?」
ワイルちゃん「何をしているも何もそんなことよりあれを見て!あれ!」
ストライフちゃん「なんだ!?・・・・あっ『サルーインちゃん』!!?」
ストライフちゃんもサルーインちゃんの石像の姿を認めました。ストライフちゃんは混乱しました。
ストライフちゃん「あれっ?ミルザがすでに貨物船から運んだのか!?・・・
     あの二つの人影はどちらもミルザではない!!」
マリーン「あ、あの〜〜・・・何を言っているの?」
ストライフちゃん「ん?マリーン見つかったぞ!間違いなくあれがサルーインちゃんの石像だ!」
マリーン「・・・・・・・・・はああ???」
ストライフちゃん「ん?・・・だから『サルーインちゃんの石像』を探すのを
     手伝ってくれてただろ?あれがそうだ!!」

・・・・・・

マリーンちゃんは少し考えてやっと事態を・・・自分達の大いなる勘違いのもと
成されていた結託を理解しました。
マリーン「ストライフちゃんのばか!ヒラメ!!やっぱりあのミルザが持ってたほうが
     『ニンフ像』なんじゃないですかああーーーーーああ私はやく行かなきゃ!!」
ストライフちゃん「はあ?ニンフ?・・・あっおい!」
マリーンちゃんは一人で先に陸に上がってミルザくんを探しに行ってしまいました。



ストライフちゃん「なんなんだ??なんなんだ全く???」
ワイルちゃん「ストライフちゃん、それどころじゃないんですよ!
     あの岬で一体サルーインちゃんがなにがどうなってるんだか」
ストライフちゃん「・・・おお!そうだ、あの二つの人影はなんなんだ?」
シェラハちゃん「それよりはやく!はやく陸に上がらなければ!あそこの崖の
     下は岩のごつごつした『浅瀬』なのよ!!」
シェラハちゃんの言葉にワイルちゃんとストライフちゃんに一つの考え、
―今サルーインちゃんの石像が置かれている状況―がよぎりました。しかし!
ヘイトちゃん「あばばばぶわぁ⇔⇔⇔⇔!!!」
ワイルちゃん「!!!ヘイトちゃん!?」
ヘイトちゃんがなんと溺れかけていたのです!貧血でしかも、沈んでいくうちに
『水龍くん』の鱗が取れて、人魚の姿から戻ってしまっていたのです!
ワイルちゃん「ああっヘイトちゃん!ああっもうこんな時に!!
     ヘイトちゃん!私の鱗を・・・」
シェラハちゃん「(鱗が取れると元に戻る・・・タイニィフェザーの羽・・・!)
     待て!そのまま捨て置け!!」
ワイルちゃん「ええ!?」
ストライフちゃん「シェラハちゃん何を言い出すんだ!?ヘイトを見捨てて
     新しい悲しい話でも作る気か!?」
シェラハちゃん「・・・ひどい皮肉ね・・・皮肉と聞くと・・・ああ違う!!!!!
     違うのよ!そのまま『死にかけ』させなさい!そうすれば、『冥部』にいる
     デス姉さんと連絡が取れる!」
ワイル&ストライフ「!?」



小兄ちゃん「これで・・・いいんですね・・・」
それはノースポイント寮でも一番高い岬・・・その断崖の下は海水に岩が透きとおって
美しい様相をなしています。それ故に、そこから落ちれば恐ろしい、恐ろしい場所・・・。
詩人「そうですとも。そこから突き落とせば・・・海に帰れる上・・・
   『海の中で砕け散ってくれる』んですからね・・・ウコム様も満足されましょう」
小兄ちゃん「俺達・・・俺達家族は・・・本当に幸せになれるんだな・・・!?」
詩人「もちろんですとも!ウコム様はあなたが『その像をここから突き落として』くれた事を
   決してお忘れにならずに恩に報いてくれましょう!」
小兄ちゃん「・・・父ちゃん・・・!」
そう言って小兄ちゃんが一歩踏み出したその時でした。

ミルザくん「待ーーーてーーーーーーーー!!!サルーインちゃんをどうする気だーーーーー!!!」

小兄ちゃん「なんだ!?・・・サルーインちゃん!?」
詩人「(チッ!)さあ、はやく!あの人は私が止めます」
小兄ちゃん「し、しかし・・・」
マリーン「待ちなさーーーい!!その像を返しなさい、ミルザさーーーーーーーん!!」
小兄ちゃん「はあ!?」
ミルザくんのちょうど後ろぐらいでした。恐ろしく精確なストーキングぶりで
マリーンちゃんがミルザくんの後を追いかけています。
小兄ちゃん「な、なんなんだ!?」
詩人「・・・気にせずにはやくやってしまいなさい、さあ!」

???「まあああああああてえええええええええぇえぇえぇ!!!!」

小兄ちゃん「今度はなんだ!?・・・母ちゃん!?」
詩人「!?」
マリーンちゃんのちょうど後ろぐらいでした。半狂乱の恐ろしい形相をした主婦が、
後ろでなにか止めようとしている小さな子供の制御も聞かず、
サルーインちゃんの石像と彼らの元へ突進してきます!!

母ちゃん「やっと見つけたよ、誰にも渡さないよ、これで大金持ちだよオオォォオォオ!!!」

小兄ちゃん「母ちゃん!!!」
マリーンちゃんにも追いつきそうになったその主婦は!
マリーンちゃん「(チッ邪魔だよ!!!)きゃっ」
マリーンちゃんはこけるフリをしてその主婦に足を引っ掛けました。
母ちゃん「あっ・・・!」
母ちゃんの体が華麗に宙を舞います。
そしてちょうどミルザくんにぶつかりそうになったのです!
ミルザくん「・・・!?く・・・!」
ドカッしかしミルザくんには背後からとはいえその主婦の衝撃に持ちこたえる力はありました。
が、ところが!足を『どこからか転がってきた石』につまづかせてしまったのです!!
ミルザくん「あっ・・・!」
母ちゃん「あっ・・・!」
詩人「(ジャジャーン!)レクイエムの用意ですかね・・・『御三方』の!」



母ちゃん「ああああああああ!!」
ミルザくん「サルーインちゃあああん!!(ガシッ!とミルザくんはサルーインちゃんの
     石像に抱きつきました)サルーインちゃんは僕の命に代えても守る―――――――!!」



シェラハちゃん「ヘイトちゃん、ちゃんとアヒャ語じゃなくて伝えるのよ!」
ヘイトちゃん「あひゃばばばbgbsyg大丈夫です。私に任せなさ・・・ごぼb」
『デスちゃん!!!』



デスちゃん「―――この冥部にコンタクトをしている死に損ないがいる・・・
     ヘイトちゃんか!?」
『デスちゃん!!そこにラミアが捕らえてありますね!そのラミアの体から
 タイニィフェザーの羽を引き剥がしてください!!』
デスちゃん「何?タイニィフェザーの羽とはどういうことだ!タイニィフェザーがやはり
     裏切りを・・・!?」
『サルーインちゃんを石化させたのはタイニィフェザーの羽の力です!早くなさい!』
デスちゃん「・・・・・!飲み込めたぞ、そういうことだったのか!」
デスちゃんはラミアちゃんから着ているものから何まで引き剥がしてしまいました!



(サルーインちゃん・・・冷たくなってしまって・・・はじめて触れた君がこんなに
 冷たいなんて・・・悲しいことだけど大丈夫・・・僕の命をあげるから
 もう一度暖かくなって・・・僕は永遠に触れられないけど・・・もう一度暖かい君に!)

サルーインちゃん「――――なに!?」
ミルザくん「はっ!?」



抱きついた『サルーインちゃんの石像』は・・・もはや暖かくなっていました。
戻ったのです。タカビーで、自信過剰で、露出狂で、誇り高いサルーインちゃんに!
そしてミルザくんとサルーインちゃんと+αが落ちてゆくときに、ミルザくんの
体からぺらっとはがれたものがありました。ミルザくんは見逃しませんでした。

ミルザくん「―――――――――――――勇者の証よ!!」



ふわ・・・ふわ・・・ それはそれは巨大な羽が、夕日に照らされて、ふわふわと舞い降りてゆきます。
その端には、背中に母ちゃんを抱え、肩でサルーインちゃんを担いだ
勇者ミルザくんがしっかと羽に掴まっていました!

シェラハちゃん「おお・・・!」
ワイルちゃん「なんという・・・」
ストライフちゃん「・・・美しい・・・」

・・・・・ぽちゃん・・・・・
羽はゆっくりと降りて、ゆっくりと海の浅瀬に落ちました。
ミルザくんとサルーインちゃんと、母ちゃんはもちろん水浸し。
しかし、そこに『粉々になった石像』は、ありませんでした。
ミルザくん「・・・サルーインちゃん・・・?」
サルーインちゃん「・・・・・・・・・・・・」
呆然としているサルーインちゃんにミルザくんはそっ・・・と触れました。
暖かい。
ミルザくんの心にもなにか暖かい・・・いえそれどころか熱いものが湧き上がってきました。
が!

バチーン!!!

ミルザくん「・・・・・・・・・・・・・」
サルーインちゃん「無礼者!!私に触れたな身の程知らずめ!!しかもこの
     びしょびしょの様はどういうことだ!!あーーーもう今日の猫柄のネクタイまで
     濡れちゃってるわ!!」
ミルザくんは頬にサルーインちゃんのお熱いびんたを受けたのでした。
シェラハちゃん「ね、姉さん・・・」
サルーインちゃん「あ?シェラハ!?一体どういうことなのこれは・・・あんた!
     人魚になってる!えっどういうことなの!?どうやったの!?」
ワイルちゃん「サルーインちゃん・・・」
サルーインちゃん「あっワイルまで!!すごい!どうなってるの!どうやったのねえねえ!
     ・・・あれ?ストライフは普通の水着じゃない。なんで?どうなってるの??
     ・・・あっわかった!海に皆で遊びに来たのに私調子に乗って溺れたのね!
     しかも制服のまま!アハアハハハ嫌だ!全然覚えていないわ!!」
ストライフちゃん「・・・調子に乗るタイプだと自覚出来てたのか・・・」
サルーインちゃん「もう夕暮れになっちゃってるけど・・・ええい!物足りんわ!!
     私はまだ遊び足りないぞーーーーシェラハ!ワイル!ストライフ!
     夜まで海で遊ぶぞアハアハハハハハハハ!(バシャッ!)」
シェラハちゃん「きゃっ!・・・もう、姉さんたら!(バシャッ!)ふふふ!」
そう言ってサルーインちゃんはシェラハちゃん達と水かけっこを始めました。



じんじんと頬が痛むミルザくんはその光景をぼーっと見ていました。
ミルザくん「・・・まるで子供だ・・・」
いつも影からその麗しい姿を見ていたミルザくん、しかし、今日、今は、
サルーインちゃんの知らなかった一面をはじめて見たのです。
突然くるっと、そんなミルザくんの方にサルーインちゃんが振り向いたので、
ミルザくんはビクッとびびりました。サルーインちゃんは不敵な笑顔で言いました。

サルーインちゃん「お前も一緒に遊ぶか?」

ミルザくん「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」



ワイルちゃん「あーーーーーーーーーーーーーっヘイトちゃんのこと忘れてああーーーーーー!!!」
ストライフちゃん「しっかりしろ!!救急車だ!!!」
シェラハちゃん「救急車と聞くと・・・きゃーーーーーーごめんヘイトちゃーーーーん!!」
サルーインちゃん「何!ヘイトがどうかしたのか!」
ミルザくん「あ・・・・・・・」
サルーインちゃんは死にかけのヘイトちゃんの方へと走っていってしまいました。
ミルザくんはぽつんと残されましたが、今さっきのサルーインちゃんの一言が
何度も何度も頭の中で響いていました。

そんなミルザくんの後ろでは、母ちゃんに駆け寄って抱きしめあっている小兄ちゃんと子供たちの
家族の姿がありました。岬には、すでに誰の影も見当たりませんでした。



海の中・・・
マリーン「・・・勝手に海に捨ててくれてたのね、ニンフ像・・・これで一件落着ね」
???1「そうね・・・けどなんだか楽しかったじゃない?」
???2「あのミルザって人ね・・・いつかは報われる日が来るといいけどね」
マリーン「・・・ふふっ祈っててあげましょ、海の底から!」

今日もノースポイントの海辺は、風に揺らめいていました・・・


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