第7話「幻のアメジスト」

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ついに迎えたダンスパーティーの日。

黄金のシャンデリア。
赤くきらめく絨毯。
夜の闇を映す、大きな窓。
溢れんばかりの人、人、人!!

ルドルフ「しかしのう・・・あのような予告文が来てはダンスパーティーを
     このまま開催するのも躊躇われるのう・・」
ディアナ「何言ってるのお父様。大丈夫よ。アメジストの警備は万全なんでしょう?
      それに今更中止にしちゃったら、せっかくお越しになってくれたみなさんに失礼だわ。」
ナイトハルト「そうだぞルドルフ。そもそもそんなイタズラ文に何を恐れるのか、これがわからない」
ナイトハルトくんは若干棒読み風にそう言うと、正装の鎧をがちゃがちゃと身に着け始めました。
ルドルフ「しかしのう・・・ああ、心配だ心配だ。」
アルベルト「そうですよみなさん!なぜそんなに余裕なんですか!?
       もし、アメジストと・・・その、その、その、ね、ねね、姉さんがぬす、盗まれデモしたら・・・あああ!!
       ね、ねねね、姉さんの綺麗で清楚で可憐で最高なおか、お体が・・・
       その、き、汚い男達に・・・じゅ、じゅ、蹂躙されて・・・
       うあああああああ!!!姉さーーーーーーん!!!!!」
ディアナ「何言ってるのアルベルト?大丈夫よ。そもそもこういうパーティーにはアクシデントはつき物でしょ?」
たしなめるようにそう言うディアナに、アルベルトくんが顔を真っ赤にしながら口をぱくぱくします。
マリア「まぁまぁ、落ち着きなさい。パーティーは予定通り始めるわよ。
    そもそも中止にしたところでアメジストの警備がより万全になるとかそんな事はないんだし、
    大体最初に決めた事を実行しないでやめるのはよくないわ。」
そのマリアの一言に、ディアナとナイトハルトはこくんこくんと頷きました。
ルドルフ寮長は、「う〜ん」と言いながら首を捻ります。アルベルトくんは酸欠で気絶していました。
ルドルフ寮長は、少し考えた後に意を決したように言いました。

ルドルフ寮長「今宵のダンスパーティー・・・予定通り決行する!」



イスマス寮のホールに、優雅なバイオリンの音が流れ出します。
それまでホール中に溢れていたざわめきが、ぴたりと止みました。
その音と共に、このダンスパーティーの主役、ナイトハルトくんとディアナが、満を持して出てきました。
男子生徒A「ディアナちゃーーん!」
男子生徒B「うおーー!!綺麗だぜーー!!」
女子生徒A「きゃーーー!ナイトハルトさまぁーー!!」
一部の男子生徒と女子生徒が、黄色い声援を上げます。
ディアナは、ホールのみんなに静かにするように手で合図しました。
ホール中の生徒がぴたりと押し静まり、静寂が流れます。
ディアナは一息大きく息を吸うと、よく通る声で話し始めました。

ディアナ「この度は、こんなにお集まりいただいて、ありがとうございます!
     みなさまには、普段の嫌な事、辛い事を全て忘れて、存分に楽しんでいただけたらと、思います。
     では、これよりダンスパーティーをみなさん存分に楽しんでください!では・・・」
詩人「幻の世界へ、ご招待!」ジャカジャーン!!

次の瞬間、どこからか城の風景を上塗りにするように、新たな風景が辺りに流れ込んできました。
その場にいた人たちが、「うわぁ!」や「すげぇ!」などと叫びだします。
一瞬して城の中身は新たな風景に塗り替えられ、
まるで信じられないくらいに幻想的な世界に、会場中の人が目を白黒させました。
その次の瞬間、人々は一斉にディアナの方に頭を向けます。
にやにやと笑っていたディアナは、満足げに言いました。

ディアナ「これが、優勝商品、『幻のアメジスト』の力!
     普段では絶対に味わえない、『幻』の世界、存分にご堪能してください!
     では、これよりダンスパーティーを開催します!!」

ミルザくん「うおー!すげーすげー!なんだコレー!?すごすぎるー!!」
隠れて会場の様子を観察していた、ミルザくんとオイゲンくん。
ミルザくんが辺りの風景を見ながら、はしゃぎだします。
オイゲンくん「凄いな・・・これがアメジストの力・・・」
ミルザくん「ねーぇ。このままダンスパーティーに参加しないでここでゆっくりしてるなんていやだよ。
      ダンスパーティーいこーよ!ねぇーねぇー、いこーよおいげぇぇん!!」
まるで子供のようにはしゃぐミルザくん。オイゲンくんは「まったく・・・・」と呟き、ため息を漏らしました。
オイゲンくん「まぁ、ダンスパーティーが終わるのにはまだ何時間もあるからな・・・
       よし、いこーぜ・・・」
ミルザ「ほーーんとーーー!?よし、いこーーオイゲン!!
    あーーー、さーるーーいんちゅわぁぁ〜〜〜ん!!待っててねあはぁんうふぅんげぼぉぉ★○Π≦鱸◎&$;!!」
オイゲンくんは表面上冷めた顔で言いながら、内心わくわくしていました。
オイゲンくんは心の中でにやにや笑いながら、
ミルザくんは誰でもわかるくらいわくわくしながら、パーティー会場へと走り出しました。



会場中に優雅な音が流れ、その所々で若いカップルが、華麗なダンスを披露しています。
その会場の傍らのテーブルで、サルーインちゃん、デスちゃん、シェラハちゃんの三人が話していました。
サルーインちゃん「しっかし、凄いわねえこのドレス。あの詩人ここのスタッフだったのか・・・」
デスちゃん「気に入らんな、このドレス。少々自己顕示欲が強いと言うか・・・派手すぎだ。」
シェラハちゃん「自己顕示欲と言うと、悲しい話を思い出すわ・・・
         ある男の人は、恋する女の人に自分をもっと分かってもらいたいがために目立って目立って。
         その結果女の人は男の人を嫌いになり、男の人をふってしまったの。」
サルーインちゃん「よっしゃーーー!!んじゃあさっさと踊るわよバカ兄弟ども!!!!」
デスちゃん「落ち着け!私達の出番はまだだぞ!」
サルーインちゃん「いいじゃないのー!ほら、あそこに全く注目されてない醜い二人組みがいるわ!
      あいつをブッ倒して乱入して・・・」
デスちゃん「ダメに決まってんだろ、常識を考えんかバカ者!」
シェラハちゃん「常識というと悲しい話を思い出すわ。
         あるシスターに恋をした男のこと。
         男は貧乏なシスターのために物を盗んで盗んで。
         盗品をシスターにあたかも自分が買ってきたかのようにプレゼントしたの。
         シスターはそれが盗品だと分からずに身につけ外を歩いていたところ、
         その盗品の持ち主である人に捕まえられ、無実であるのに死刑にされてしまったの。
         男は、シスターをそんな目に会わせてしまった事を激しく後悔して、
         神を呪いながら自殺してしまったの。」
デスちゃん「なんかあんた、いつになく欝な話してないか?」

???「あ!サルーインちゃんだぁ♪」

サルーインちゃん「あン?だれぇ?」
サルーインちゃんが声のしたほうを振り向くと、
そこには巨大な月を背負ったような奇妙なファッションをした女の子がいました。
女はにこにこしながらサルーインちゃんに話しかけました。
ラミアちゃん「あたしラミアって言いますぅ♪うわぁ・・・やっぱ近くで見るとサルーインちゃん綺麗だなぁ・・・
       その、あのぅ、あたしすごくサルーインちゃんが好きでっ!その、サインして下さい!」
ラミアちゃんは言うだけ言うと。色紙をサルーインちゃんに差し出しました。
デスちゃんとシェラハちゃんがぽかんと口を開けます。
デスちゃん「あ、あのサルーインちゃんが・・・男子ではなく女子からサインを・・・」
シェラハちゃん「あ・・・あ・・・もしかしてこれは最も悲しい出来事の予兆・・・」
サルーインちゃん「だっっっっっっっっまりなさいおめぇら!!このあたしが女子にも人気で何が悪い!
          ホントの美女は女子生徒に嫌われるのを通り越して逆に好かれるもんなのよ!
          えっと、ラミアちゃんだったわね。それ、どうぞ。」
サルーインちゃんは、手馴れた手つきで色紙にサインを書き、ラミアちゃんに差し出しました。
ラミアちゃんの顔がぱぁっと明るくなります。
ラミアちゃん「あっ、あああ、ありがとうございますぅー!その、何ていうか図々しいかもしれないんですけど・・・
       握手なんかも・・・してくれませんかっ!?お願いです!あたしの長年の夢なんですっ!」
ラミアちゃんは地面に頭がつきそうなくらい深々と礼をしました。
その傍らで、デスちゃんとサルーインちゃんが棒立ちになっています。
デスちゃん「な、ななな・・・サルーインちゃんと握手することが夢の女子生徒なんて・・・そんな・・・バカな・・・
       聞けラミアちゃんとやらよ。この女は性格は悪くて、握手なんて求めたら何をされる事か・・・」
シェラハ「・・・これは新しい悲しい話リストいきかもね・・・絶世の悪魔美女に憧れた可愛い女子生徒の話・・・」
サルーインちゃん「だまれだまれだまれこのクソ兄弟どもがぁぁぁ!!来るものは拒まず、
          私だってそこまで性格悪くないわ。
          で、ラミアちゃんだっけ?ほら、握手しましょ。これから先の人生の誇りにしなさい。」
ラミアちゃん「あ、ああああ、ありがとうございます!!!!!!!!!きゃーーーーーーーー♪♪♪」
ラミアちゃんは狂喜乱舞すると、激しくもじもじしながらサルーインちゃんの手をぎゅっと握りました。
ラミアちゃんの顔が至福の顔色に染まります。
しばらく経った後、ラミアちゃんは手を離しました。
ラミアちゃん「ほ、ほんとーーーーーにありがとうございますっっっ!!この思い出、一生大事にします!!ありがとう、さよならっ!!」
サルーインちゃん「えっと、確かラミアちゃんだったわね。私もあなたの事忘れないわ。頑張ってね!」
ラミアちゃん「はいいーーーーーーー!!」
ラミアちゃんはうきうきした足取りで、人ごみの中へ消えていきました。

デスちゃん「あのラミアちゃんとやら・・・なんという天然だ・・・」
シェラハちゃん「・・・世間知らずというのはあの人のことね・・・あ、そういえば世間知らずというと・・・」
サルーインちゃん「なんでアンタらそんな否定的なのよ!あっ、もしかして嫉妬しちゃってる?あははは!無様!哀れ!」
デスちゃん「んだとこのアホ!!」
サルーインちゃん「なにー、このジャック!」
シェラハ「ジャックというと悲しいジャックのことを・・・」

ラミアちゃん(んふふふ、これでサルーインちゃんの弱点が分かったわん♪
        糸石と共にあいつも捧げれば・・・きっとあたしマスターに・・・キャッ♪)



ヘイトちゃん「いくわよおお!!あたし達の情熱?いや熱情ぅぉぉぉぉのリズゥム!!!!♪☆★◎∀fo^^!!」
ワイルちゃん「さぁ、みなさんご注目ぅー!あたし達ミニオン三姉妹のダンス、ご堪能あれー!」
ストライフ「・・・・・・」
ワイルちゃん「・・・・・・」
ヘイトちゃん「・・・・・・・」
ワイルちゃん(ちょっとストライフ!)
ヘイトちゃん(あんたが『トライアングルフォーメーション』って言わないと始まらないわよ!)
ストライフ「・・・・・・と、とらいんあんぐるほーめー・・・しょ・・・」
ストライフちゃんの声がどんどんフェードアウトしていきます。
無数の観客が不思議そうに三人を見詰めます。
ストライフちゃんが足をがくがくさせながら俯いています。
ヘイトちゃん(・・・ストライフちゃん。あんたもしかしてアガリ症?うわ、はずかしー!あひゃー)
ワイルちゃん(ストライフちゃん!ここで踏ん張れなくてどうするんですか!
       サルーインちゃんとあたし達の未来がかかってるのよ!)
ストライフちゃん「・・・・・・」
ヘイトちゃん(あたしあなたを見損なった・・・こんな所であがって使い物にならなくなるなんて・・・)
ワイルちゃん(頑張ってストライフちゃん!)
ストライフちゃん「・・・・・・」
今までこの成り行きを見ていた観客達が、みな、他のステージの踊りへと移ってゆきます。
ヘイトちゃん(ストライフちゃん!)
ワイルちゃん(ストライフちゃん!)
ストライフ「・・・・・・・・・・・・・・・・見返りは・・・たくさん頂くからな・・・

             トライアングルフォーメーション!!」

カカンッ!!
デンデデッデデレデンデデッデデレデンデデッデデレデンデデッデデレ・・・
小気味よいガットギターの音が響きました。
去ろうとしていた観客がミニオンちゃんの方を再び振り向きます。
ヘイトちゃん「そぉら、やっとキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !!!!! さぁ、やるわよぉぉぉうう♪◎<><>!!」
ワイルちゃん「よーし、踊り狂いますよー!みなさん、見てくれ私達の踊りー!」
ストライフちゃん「虫けらども、活目するがよい!!」

ステージの上で、赤い三角形の軌跡を描きながら、舞い、踊る三人。
いつしか、会場の半分以上の男子生徒女子生徒が、彼女達のトライアングルフォーメーションに見とれていました。
中には『熱情の律動』のけたたましいリズムに一緒に踊りだすものも・・・
ワイルちゃんも、ヘイトちゃんも、ストライフちゃんも、にこにこと笑いながら、楽しむように踊っています。

男子生徒C「はぁ・・はぁ・・・可愛すぎる・・・もうだめだオレ・・・」
男子生徒D「あのメガネの子ええな・・萌え狂う・・・」
男子生徒E「それよりもあの気の強そうな女の子も・・・はぁはぁ・・・」
男子生徒F「あの頭悪そうな子が俺はツボだ・・・ぐっへへへへ」
女子生徒A「かわいーー♪しかもかっこいーー♪」
女子生徒B「うああ、いいなー。気持ちよさそうに踊ってるー。」
女子生徒C「頑張れワイルちゃーん!」

いつのまにか観客のほとんどが彼女達のとりこになっていました。
ステージの上で、三人は顔を見合わせます。
ストライフちゃん(よし、フィニッシュだ!)
ヘイトちゃん(OKッス!姐さん!)
ストライフちゃん(だれが姐さんじゃぼけっ!って、あっあっあー?)
体制を崩すストライフちゃん。
ヘイトちゃんも体制を崩して・・・
ヘイトちゃん(ちょぉっとバカっ・・・なにドレス踏んで・・・ぎゃっ・・「うぎゃーーーーーーー!!」
ストライフ「きゃあああああああーーーー!!!!」

どってーーーーーーーん!

男子生徒たち「・・・・・・(ぽかーん・・・)」
女子生徒たち「・・・・・・(あんぐり・・・)」
じゃかじゃんっ!
BGMが終わります。しかし、ヘイトちゃんとストライフちゃんは派手にステージに転がって・・・
ワイルちゃんの顔から、血の気が引いていきます。
ワイルちゃん「あはっあはははは・・・」
ワイルちゃんはまるで壊れた人形のように笑い出しました。
辺りが寒い空気に包まれます。
ヘイトちゃん「いってててて・・・このバカストライフ!あぁんんたなぁぁぁにやってのよぅぅぅ!!!!
怒錨碇伊刈猪木!!!!」
ストライフちゃん「ててて・・・あんたがいけないんだろーが!あーもー台無しだこのクソバカ!」
ヘイトちゃん「あぁぁぁ〜〜んだってぇぇ★☆丸⇔!!?やるかこんのやろぉぉぉあァァァァんン!!??」
空気を読まないままに喧嘩しだす二人。
ワイルちゃんはハッと我に帰りました。
ワイルちゃん「す、すいませんお騒がせしましたー・・・
       その、今までのはなかった事に、っていうか忘れくださーい・・・あは、ははは・・・」
ワイルちゃんは冷や汗をぼろぼろ垂らしながら言うと、喧嘩するヘイトちゃんとストライフちゃんを強引に引きずりながら、逃げるようにどこかへと行ってしまいました。

後には、口をあんぐりと開けている何人かの生徒が取り残されていました。



ミルザくん「うーん、踊る相手がいなきゃなぁ。盛り上がらないなぁ。」
ミルザくんとオイゲンくんは、会場の端っこのベンチでお茶をすすりながら、遠目で踊る人たちを眺めていました。
オイゲンくん「はぁ。女っ気のない騎士団寮がいけないんだよな・・・
        騎士団寮の女なんてコンスタンツさんと今は無きアルドラだけだろ?」
ミルザくん「今は無きって・・・なんでそんなに嫌ってるの?」
オイゲンくん「嫌うのが普通だ・・・大体おまえはあいつに優しく接しすぎ・・・ん?」

「み〜〜〜る〜〜〜〜ざ〜〜〜〜く〜〜ん!!!」

どこからか、女の子がミルザくんの方に走ってきました。
足を帽子をかぶった男子が掴んでいます。しかしそれを物ともせずに走ってきます。
ミルザくん「あ、あれは・・・えーと、ファラちゃん?」
オイゲンくん「ん?知り合いか?」
ファラがミルザくんの目の前で急ブレーキをかけました。
ジャミル「ふぁ〜〜〜ら〜〜〜なんでおどってくれないの〜〜????」
ファラ「黙れ!・・・ねぇミルザくん。一緒に踊らなーい?」
ミルザくん「へ?んな事いきなし言われても・・・大体枠が無いんじゃないの?」
ミルザくんは辺りをきょろきょろ見回します。
ファラは、『待ってました』とばかりににぃ〜っと笑うと、言いました。
ファラ「それがね、なんかしんないけど出場者が欠けてるとこがあるみたいなの。」
ミルザくん「欠けてる?」
ファラ「そうそう。じゃっ、決まりね。さぁ行くわよー!」
ガラは、ミルザくんの手を引きました。
ミルザくん「ちょ、ちょ待・・・あれーーー!!」
ミルザくんは、ファラに引きずられ、会場のほうへと行ってしまいました。
オイゲンが『やれやれ』と呟きながら頭を抱えます。

男の子「おい、あんた!」
オイゲン「あん?」
ファラの足にしがみついていた男の子が、オイゲンくんに話しかけます。
ジャミル「俺の名はジャミル!ヤツが踊り終わったら、外で待ってるって伝えておいてくれ。じゃあな。」
オイゲンくん「あ、ああ・・・」
ジャミルはそう言うと、人ごみの中へ消えていきました。
オイゲンくんは、はぁ、とため息をつきました。



アルベルト「うぁああ〜〜ああ・・・姉さん・・・姉さん・・・大丈夫なんですか姉さん・・・」
妖みたいな男の子・・・背中に羽をこさえた、貴族風の男の子。
イスマス寮ルドルフ寮長の息子アルベルトは、ダンスを見ることなくイスマス寮の庭を、ぐるぐる回っていました。
アルベルトくんの頭の中は、アメジストの事とナイトハルトくんの事でいっぱい。
愛しの姉さんにせっかく『ナイトハルトくん』という自分の理想の彼が出来たのに・・・あんな怪文が来てしまっては・・・
アルベルト「ああ・・・心配だ心配だ・・・」
顔を青くして頭を抱えながら庭をぐるぐる回るアルベルトくん。
そんな時、どこからか大きな声が聞こえてきました。

「や・る・よ・・・や・る・よ・・・」

アルベルトくん「ん・・・なにこれ、宗教歌?」
アルベルトくんは歌のする方に頭を向けました。
・・・何か、いや、誰かが、砂埃を撒き散らせながらこちらに走ってきます・・・
アルベルトくんは目を凝らしました。
どんどん走ってくる・・・女?・・・角?・・・牛!?
ツフ「やるよーーーーーーー!!!!!!」
アルベルト「ぐべらはあああああぁぁぁぁ!!!!!!」
バキャーン!
走ってくるシフに猛烈なヘッドバッドを食らったアルベルトくんは、腹を押さえながら崩れ落ちました。
ツフ「あン?なんだいこいつぁ・・・」
たった今自分がぶつかった男の顔を見るツフ。
男の顔を見た瞬間、ツフは言葉には出せないときめき(?)のような物を感じたのは、まぁ、言うまでも無いでしょう。
アルベルト「な、なんですかあなたは・・・って、ぎゃああああーーー!!うぎゃーーーーー!!」
まさに『お持ち帰り』体制で、アルベルトを担ぎ、イスマス寮へと向かうツフ。
果たしてどうなることやら・・・



男子生徒「ディアナちゃんが踊るぞー!!」
女子生徒「ナイトハルト様が踊るわよーー!!」
会場の中心のステージに、このパーティーの主役、ディアナとナイトハルトくんが立ち、見詰め合っています。
周りの客が息を呑みます。
静寂・・・

デッデッデデデデッ!

勇ましい音が辺りに響き、二人は踊りだしました。
女子生徒「きゃー!ナイトハルト様のテーマ曲よ!」
男子生徒「腹イテェw」
ぴったりの呼吸で舞う二人。
激しく、また華麗に舞う二人に、ステージ周りの全員が魅了されます。
しばらく経った後に、曲が静かな曲に切り替わりました。
男子生徒「おお、クリスタルパレスの曲じゃないか?」
女子生徒「ローザリアメドレーね!素敵・・・」
手を離す事を絶対に忘れることなく舞う二人。
見詰め合う事を絶対に忘れることなく踊る二人。
その踊りを見ている誰もが、『この二人は最高のカップルだな』と思いました。
影で見ているルドルフ寮長も、満面の笑顔です・・・



「ミルザ・・・」
男子生徒「うおー、いいぞねえちゃーん!ミルザてめーぎこちねーぞー!うひゃひゃひゃ!」
女子生徒「ファラちゃ〜ん、すごーーーい!」
ファラ「ちょっとミルザくーん。もっと気の利いた動きしてよ〜。」
ミルザくん「よ、ほ、は・・・ん〜無理・・・」
ミルザくんとファラが踊っている場面を、アルドラは遠くから見ていました。
アルドラ「・・・そうか。よくよく考えればサルーインの事もあるわけだし、私の出る幕ではないな・・・」
アルドラは、一人で力なく笑いながら会場の隅のイスに座り込んでしまいました。

ミルザくん「あ〜、もうくたくた!」
ファラ「うふ、あたしは楽しかったよ!」
ミルザくんは、疲労困憊した顔でステージを降りました。
反面ファラは踊る前より元気です。
そこに、オイゲンくんが走りよってきました。

ミルザくん「ん?どうかしたのオイゲン?」
オイゲンくんは、したり顔ではき捨てるように言いました。
オイゲンくん「その隣にいる女の子がジャミルってヤツが・・・外で待ってるらしいぜ。」
ミルザくん「へ?な、なして?」
ファラ「あーもー、アイツ何しよーとしてんのよーぅ!」
オイゲンくん「どーせ嫉妬だろ。」
ファラ「嫉妬?あらま見苦しい!」
ミルザくんの顔つきが不安の色に染まりました。
ミルザくん「もしかして変な誤解されちゃってるのかな・・・?
僕、誤解かけられるのすごい嫌いだから・・・はやく言ってやらないとな。」
オイゲンくん「ああ。言ってやれ言ってやれ!」



ジャミル「おい、ミルザとやら・・・てめぇファラに手ぇ出してただで済むと思うなよ?」
こおはイスマス寮の外庭。ジャミルくんが早速ミルザ君に因縁をつけてきました。
ミルザくん「いや、そのさ。僕他に好きな人がいるからさ。ファラちゃんとは何も無いんだ。信じてくれよ。」
ジャミル「ファラ『ちゃん』だとぉー!?んまっ!馴れ慣れしぃ!!」
ミルザくん「ああ、ごめんごめん、そんなに殺気立だないで・・・仲良くなろっ!」
ジャミル「黙れ!お前のせいでおれh」

「ああああああああああ!!!まだかこのヤローー!!踊らせろーーーーー!!」

ミルザ&ジャミル「うほっっっ!!!」
ミルザくんとジャミルくんは、声が聞こえた瞬間その声の主に釘付けになりました。
・・・お互いに顔を見合わせます。
一瞬にして心が通じ合った二人は、もう争う必要はなくなったのです。



デスちゃん「落ち着け・・・こういうパーティーにも少なからずプログラムというルールがあるのだ。
      あと10分ほどの辛抱だろう?我慢しなさい。」
サルーインちゃん「でもでもでも〜ぉ!もう体がうずうずでぇ〜あー、もう滅びよ!
         滅びよ!滅びよ!滅びよ!滅びよ!滅びよ!滅びよ!滅びよ!滅びよ!」
シェラハちゃん「滅びよというと、悲しい話を思い出すわ。
          あるRPGで、プレイヤーはラスボスと白熱した戦いをしていたの。
          プレイヤーがあと一発で相手が死ななければこちらが全滅する。
          という場面で、プレイヤーは技を放ったの。
          しかしラスボスは死なずに生きていた。
          彼はその次の瞬間ラスボスが放った技を見る前にリセットボタンを押してしまったの。
          でもね・・・実はそのラスボスが使った技ってのは・・・本当は死ぬ合図で・・・
          なのに・・・彼は・・・うっ・・・」
デスちゃん「こらこら、思い出話で泣くな。」
サルーインちゃん「10分ってこんなに長かったかーーーーーーっっっ!?」
デスちゃん「そういう物だ!我慢しろ!」
シェラハちゃん「我慢というと、かゆみを我慢して死んでしまった男の話・・・」



ツフ「や、る、よーー!!」
男子生徒&女子生徒「ぎゃあああああ!!なんだこいつぅぅぅ!!!???」
どごーーん!!
一瞬にして一つのステージのダンスは一人の女に邪魔され、潰されてしまいました。
ぽかーんとしている生徒達を尻目に、ツフがよく通る声で叫び始めます。
ツフ「あたしはバルハル族のツフ!乱入上等、駄ン棲上等!
   今世紀最高のカップルの情熱の舞いをご堪能あれ!」
大声で叫ぶツフに、一部の生徒は他のステージへ移り、、一部のノリのよい生徒は更に盛り上がりました。
男子生徒「うおーー!面白いぞー。やれやれー!ひゅーひゅー♪」
女子生徒「きゃっはははははは!!マジ受けるーー!!」
ツフは、満足げに笑うと、担いでいるアルベルトを下ろしました。
そして、怖がるアルベルトの目を真っ直ぐに見つめ、言いました。

ツフ「・・・踊るよ!」
アルベルト「無理だーーーーーーー!!」

ほとんど目を飛び出させるようにしながら叫ぶアルベルト。
ツフは、「仕方ないねぇ」と呟くと、強引にアルベルトの手を掴みました。
アルベルト「はっ!?助けてくれーー!!父上、父上ーー!!」
踊ると言うよりもまるで振り回すかのようにアルベルトをぐるんぐるんまわすツフ。
生徒達が爆笑します。中には腹をおさえて蹲っているものや、泣きながら笑っているものも・・・
しかし、振り回されているアルベルトの方は無論別の意味で泣いていました。
アルベルトが泡を吹いて気絶してしまったのは、その数秒後のことでした。ちゃんちゃん☆



「この舞台に立つと、悲しい話を思い出すわ・・・
満足に踊れずに病気で倒れてしまった女の話・・
そんな事が無いよう・・・みんなで祈ってね・・・」
「舞いとは、魂の再生だ。何もかも忘れ、舞に没頭する事により、
血が、肉が踊り、魂は活性化する・・・」
「ついに来たわけだ・・・この時が!
時は来たれり!いざ、私達の魅惑の舞台へ!」

男子生徒A「うおーーー!!サルーインちゃーーーーん!!美しーーー!!」
男子生徒B「デスちゃーーーーーん!!美人だーーーー!!」
男子生徒C「シェラハちゅわーーーーーん!!可愛いよーー!!」
ワイルちゃん「頑張ってくださいみなさーん!」
ヘイトちゃん「あららん、あらーーぁぁぁ☆◎⇔@##!!みんな頑張ってへぇぇぇェんンン!!!!!」
ストライフ「ご舞運を祈ろう・・・応援するぞ!」
ミルザくん「ぎゃーーーサルーインちゃん頑張れーーー!!!わぁおわぁおわぁーーーお!!」
ジャミル「サルーインちゃ〜〜〜ん!!頑張れ頑張れ〜〜!!」

大量の声援。およそほとんどの男子生徒が、彼女達3人のいるステージへと集まってきていました。
ステージの上には、全学園中最も美人とされている三人の女性が舞い、踊るのです。
これは男として来ないわけにはいきませんね!
ミルザくん「あれ?そういえばジャミルってファラが好きなんじゃないの?なんでサルーインちゃんのファンなの?」
ジャミル「ばっかだなぁ。恋愛とファン精神は違うんだよ。
     大体ここにいる誰もが本気でサルーインちゃんをモノにしようなんて思ってないぜ?」
ミルザくん「・・・そっか。」
ミルザくんは腑に落ちないような表情をしながら、視線をステージへと移し戻しました。

サルーインちゃん「BGMスタート!!」

サルーインちゃんが指をぱちんっ!と鳴らすと、どこからか激しい音が鳴り響いてきました。
男子生徒「うおっ、『決戦!サルーイン!』か!」
男子生徒「うおー!熱いぜー!」
激しい音にあわせて、三美女が踊りだします!
うおー!としばらくは熱狂しながら見ていた男子生徒たちも、何分か経った後に、違和感を覚えました。

・・・・・・
さ、
男子生徒ども一同(三人ともばらばらだー・・・・・・)

サルーインちゃんが一人で激しいダンスを披露する傍らで、デスちゃんはもっさりとした動きで踊り(蠢き?)
、その傍らでシェラハちゃんは俯きながら時々揺れるだけで・・・
少し前では比較的熱狂していた男子生徒たちも、力なく「ははは・・・」と笑う事しか出来なくなっていました。
3人のミニオンちゃんも、呆れたように見ています。
もう既にその場は『踊り鑑賞会』ではなく『美女鑑賞会』に変わってしまっていたのは、言うまでも無いでしょう。

ルドルフ寮長「さて、一通り踊り終えたようだな。
        ここからはフリータイムだ!」


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