第13話「クリスタルレイクプールご招待」

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クリスタルレイクの底には、青い燐光を放つような洞窟が、口をあけている、といいます。
サルーインちゃんを追う9人が、煙の中を懸命に泳ぎ、その入り口にたどり着いた、といいます。
しかし、洞窟は一つではなく、複数存在していた、といいます。
そして、彼ら勇敢な9人は、運命のイタズラというか、こういう場合における、大宇宙のお約束として、
――見事に分散してしまった、といいます・・・



デスちゃん「なんというか、意外と狭いな。これなら探すのも苦にはなるまい。」
オイゲンくん「ただ、奥まで行くのは相当キツいぜ・・・見ろ!モンスターだ!」
見る限り分岐点の無い道。それは同時に回避する猶予も与えられない道ともいえます。
2人は正面から当たる覚悟を決め、それぞれの獲物を構えました。
――これが、アクアマリンの洞窟Aでの出来事。



ワイルちゃん「ちょっとだけ広そうですけど、今のところ危険な気配は無いですね。
それにしてもキレイ・・・」
シェラハちゃん「洞窟というと悲しい話を思い出すわ。水曜日にやっていたTV特番の話。
明らかに人に慣れているヘビ、発泡スチロール丸出しの岩、
さらには『誰も踏み入れたことのない洞窟』の『真ん中』とか言っちゃうネタ番組なのに、
隊長だけは大マジだったという話。彼はいまだに、伝説の野人ナトゥーは居るんだ!と信じているそうよ。
・・・ホントはいるのかしら?」
ワイルちゃん「知りません!!」
――これが、アクアマリンの洞窟Bでの出来事。



ヘイトちゃん「きぃぃぃぃやぁぁぁぁぁあぁあああヘェェエェェイトォォォちゅわぁぁぁぁn
どぅあぃぃいぷぅぃぃぃいいいんちぃぃぃいいいい●√〆!☆」
あまり広いとはいえない洞窟内で、大勢のモンスターの中を、
ヘイトちゃんがくるくるくるくる回っています。
奇声を発しながらも、的確に攻撃を避け、またこちらの打撃を与えているのは、さすが・・・
ヘイトちゃん「きぃぃぃやあぃぃっぁあぃあぁああうあうあうあうああ☆♂★†」
・・・ヘイト・・・
ヘイトちゃん「くぅおわいよぉぉうおうおうおうおうおひゃああああああ★∈●Д●!」
・・・・・・ちゃ・・・・・。
・・・これ以上の説明は必要なさそうです。
――これが、アクアマリンの洞窟Cでの出来事。



ミルザくん「はっ!!うりゃっ!!
(ナイトハルト君、強いな!!こんなに心強い味方はなかなかいないよ!!)」
ナイトハルトくん「イクゾー ヤルナー
(あーミルザの野郎しぶといなー死なないかなー突然死なないかなー
なんの脈絡も無く死なないかなー英語で言うならサドンデス。)」
お互いの思惑はどうあれ、流石は学園で1,2を争う使い手の2人。みるみる奥まで進んでいきます。
と、2人の先に、大きな木製の扉が見えました。
「あれは・・・まさか」「恐らく、アクアマリンの台座だ」
言うやいなや2人は駆け出しました。2人とも抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げております。
もっとも、ミルザ君は純粋な理由で。ナイトハルト君は負けたくないという理由からなのですが。
そして2人同時に扉を蹴破った先に見えたものは。
2人「・・・無い!台座にアクアマリンが無い!!サルーインちゃんもどこにも居ない!!!」
――これが、アクアマリンの洞窟Dでの出来事。



そして。

ストライフちゃん「・・・ふう。どうやら、ここまで辿り着いたのは結局私だけか。」
ゲラハくん「いえ。私もここまで辿り着きました。」
ストライフちゃんが見上げると、そこにはゲラハくんが腕組みをして立っておりました。
ストライフちゃん「なるほど。流石はゲッコ族・・・何を見ている?」
ゲラハくんの視線の先には、今ストライフちゃんが通ってきた湖へ通じる水面があります。
・・・ところが、水面の一部が怪しくゆがんでおりました。
ストライフちゃん「これは・・・水鏡。そうか、これを使っていやがったか。ナメたマネを・・・」
ゲラハくん「・・・それについて考察するのはとりあえず後回しにしましょうか。
奥に行く道から、お客が来ましたよ。」
洞窟の奥から、ずしり、ずしりと響く足音が聞こえます。
・・・1匹のオーガが、毒坊主に火をつけながら歩いてきました。2人を認識し、毒坊主を放り投げ・・・
ゲラハ「遅い!!」
オーガが投げのモーションに入った時には、
既にゲラハくんが清流を思わせるような体さばきで、オーガの懐に入り込んでおりました。
ゲラハくん「無足、流体拳!」ゲラハくんの掌が、オーガのみぞおちに打震を打ち込みました。
ゲラハくん「さぁ、続けてお願いします!」
「・・・ほぉ。お前も体術を使うのか。・・・なら私も術はやめだ!!」
言うやいなや、ストライフちゃんは飛び上がり、空中できりもみをしながら、電光をまとって蹴りこんできました。
めぎっ、という形容しがたい音の後、顔面をへこませたオーガは地面を削りながら吹き飛んでいきました。
オーガの巨体が、電気実験のように小刻みに震えています。もはや立ち上がることはできないでしょう。
ゲラハくん「お見事です。驚きました・・・」
それを聞き、ストライフちゃんは口の端を吊り上げて言いました。
「私は策を弄するのは好きだが、罠に落ちるのは大嫌いなんだ!
このうっぷんは、直々に拳で晴らさせてもらおう。行くぞ虫けらども!!」
ゲラハくん「えっ!!虫!!虫どこ虫!!」
ストライフちゃん「・・・その、なんだ、言葉のアヤって奴で・・・」
――そして、これがカヤキスの待つ、アクアマリンの洞窟Eでの出来事。



一方、時同じくして、洞窟の奥。
巨大なイカが立ちふさがる、その奥の部屋。
とてもとても美しい、一人の眠れる美女がおりました。
その美女、サルーインちゃんは血を失ってしまったためか、
ただでさえ白い肌をより白くさせ、力なく横たわっておりました。
いつものタカビーさを感じさせない閉じた目は悩ましく、その唇は果実のよう。
そして、視線をさげれば・・・なんというか、その、ほら、すげー胸が。
カヤキス「・・・エメラルド、この谷間にあるんだよな・・・
・・・なんて立派な、やぁらかそうなオッパイだ・・・ごくり。
・・・いかんいかん!!目的は石だ!!ミルザがいつ来るやもしれんのだ!!
・・・でも、もう純粋だった子供でもないのだ。そろそろ大人の階段を昇っても・・・」
そしてカヤキスは遠き日に思いをはせてみました
カヤ「ねぇお母さん!赤ちゃんてどこからくるの?」
カヤ母「あっ、いや、その、キャベツ畑。そう、キャベツ畑から来るのよ!」
カヤ「ふーん。お母さんのあそこってキャベツみたいなんだね!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
・・・どうやらカヤキスのトラウマスイッチを連射してしまったようです。
カヤキス「っ、う、う、男になったらーー!!」
「下がれ下郎!!」
カッ!と目を見開いたサルーインちゃんが、絶空閃を放ちました。
カヤキスの足元に激しい爆裂が起きます。カヤキスのまとっていた鎧の、具足の部分が粉々に消し飛びました。
しかし――
サルーインちゃん「・・・なんだと?」



一方、アクアマリンの洞窟Dでは、ミルザくんとナイトハルトくんが、がらんどうの台座の前でうなだれておりました。
ナイトハルトくん「バカな・・・何故だ!あのイカは守護獣だ!
守護獣が生きているということは、台座からは石を持ち運んだものがいないということだ!
ならばこそ、イカはここに戻るはず!
・・・何故だ!何故、石もイカも見当たらぬ!これがわからない!!!」
ミルザくんはぴくりとも動きませんでした。
未開の土地で突然眼の光を奪われたかのような絶望感に押しつぶされそうです。しかし・・・

――おかしい。何かがおかしい。

ミルザくんの中にある、ひとかけらの疑問が、絶望に染まりきらない最後のカギとして、脳裏に残りつづけました。
何かおかしい。自分はとても単純なことを見落としてはいないか?
そもそも、あそこにイカはいた。しかし石は見当たらなかった。何故だ。守護者は遠隔操作できるのか?
・・・いや。守護者の使命は護ること。見えなくなるまで離れるということはありえないのではないか。
ならばどうすればいい。あの、サルーインちゃんを襲った場所にイカを動かすには。
――守護者の護るべきものは、場所ではなくて石そのものだ。ならば、石のある所が守護者がいるべき所になる。
しかしあのとき、側に石の存在など見え――

ここではた、とミルザくんの動きが止まりました。
歴史の授業における、遺跡のメカニズムについての話を思い出したのです。

そしてミルザくんは、ナイトハルトくんの肩を掴んで叫びました。
「サルーインちゃんの居場所がわかった!ナイトハルトくん!さっきのイカが現れた、だいたいの位置がわかりますか!?」
そして言うやいなや、出口にむかって走り始めました。ナイトハルトくんが慌てて後を追いかけます。
ナ「どういうことだししゃどの!説明してもらおう!」
ミ「ナイトハルトくん!アクアマリンを狙った犯人は、
サルーインちゃんをさらうために守護獣を使うことを考えついたんですよ!
どういう方法かはわからないけど、アクアマリンに、守護獣を避けて触れることができれば・・・
・・・その犯人の位置が、守護獣に対して絶対の安全地帯になります!
そして、アクアマリンの側を、守護獣は離れられない。
さらに守護獣は近づくものに対して無差別に攻撃をするのだとしたら
こんなに良い兵隊はいません!」
ナ「なるほど。しかし!イカが現れたときには近くに石などなかったろう。
それに、血のあとが見えた。それを追って我々はここにきた。
やはりイカが恐るべき速度で連れて行ったのでは?」
ミ「いいえ!どんなに水中でも、透明度の高いクリスタルレイクの水の中ではそうそう見失うことはありえません。
むしろ、あの血は犯人にとって想定外なんですよ!我々の目をかわし、水からサルーインちゃんを引き上げたものの、
予想以上に流れた血は、洞窟の『本来の』出口から外にもれた。だから慌ててあんな眼くらましをしたんです!」
ナ「待てししゃどの!『本来の』出口といったな!ではそれ以外の出口があるとでもいうのか?」
もう2人は出口に近づいています。出口の直前でミルザくんは止まり、そして深呼吸をして、答えました。
「ナイトハルトくん。遺跡のメカニズムの授業でやりませんでしたか?

――転送装置について。

あれは広大な神殿の移動の簡略化や、外部からルートをわからなくするために魔術処理されたものですよね。
客観的にはものすごく離れた場所同士でも、特定の廊下から行けば、ものの数歩で辿り着ける。
・・・これは憶測ですが、守護獣の移動パターンは、『石から何歩以内』という考えかたなのではないですか?
イカにとってはものの数歩。しかし、その移動の路上に、魔術処理した転送ポイントをかませれば・・・」
ナイトハルトくん「・・・なるほど。確かに守護獣にとってみれば、石からは離れていない。
転送ポイントがあれば、あの巨体が瞬時に消えたのもうなずける。
そして、転送の術法は特殊な方式だ。常に転送の機能を働かせるようにするために、そう簡単には解除はできない。
――皮肉なものだ。サルーインちゃんが最初に襲われた場所こそが、遠方にいる犯人への近道だったというわけか・・・」
「(サルーインちゃん・・・!無事でいてくれ・・・!!)」
2人が水面に顔を出します。と、遠方からモーター音が聞こえてきました。
ジャミルくん「ミルザー!駄目だ!湖面を回ってみたが、影も形も見えねェよ!!」
ミルザくん「ジャミル!ナイスタイミング!僕らを乗せて第一プールの方へ!詳しい話は行きながら!!」

ナイトハルトくん「このあたりだが・・・しかしどう見つけるか。場所を確定させる手段が必要だ。」
ジャミルくん「へへっ。今一度、水竜様の力を借りるとするか。ミルザ!ナイトハルト!いいか!集中して探せよ!
今から湖全体の水を一定の速度でゆらめかせる!」
・・・水の動き、屈折率、なんでもいい!違和感のある場所を探せ!!」
水竜の指輪が淡い輝きを放ち、ジャミルくんの手から光が流れだしました。同時に、湖自体が律動を開始したのです。



デーモンコマンド「湖が・・・これは隠者の仕業か?いや、そんな力は無いはずだ」
ラミア「将魔さまぁ〜〜その隠者って誰なんですかぁ?そろそろ教えてくださいよぉ。私もご同行するんですからぁ〜」
デーモンコマンド「そういえばそうだったな。下位ユーザーフレンドリーな将魔ともあろう私が、ついうっかり。
奴が『隠者』などと呼ばれているのは、奴の名前からだ。
奴の名前には、『心の中に潜む恐怖』という意味合いをもっている。だから隠者なんだよ。」



ミルザくん「見えたぞ!!!」
水中の一角。周りに比較対照もなく、簡単に位置を見失ってしまいそうな場所。
しかし今度ばかりは誰も見失うことはありませんでした。
周囲の震動よりワンテンポ送れて水が流れている奇妙な個所があります。
それは円形の、まるで鏡のような姿をしており、どのような水のゆらめきにも、その形は変わることはありませんでした。
ナイトハルトくん「・・・ありがとう。ミルザ。君の発想のおかげだ。
私も一つ気づいたことがある。守護者に隠れて石に近づいた犯人だが、
・・・壁や地面に潜行できる不死型か、空間を越えられる魔族型のモンスターかもしれん。・・・油断するなよ。」
ジャミルくん「よーし!んじゃ行くぜぇ!!」
ミルザくん、ナイトハルトくん、ジャミルくんがしっかりと肩を組みました。
その後方からジェット噴射のように水の流れが彼らを押しやります。
彼らは弾丸のように水鏡――アクアマリンの洞窟Eの、もう一つの入り口へと向かっていきました。



サルーインちゃん「・・・なんだと?」
サルーインちゃんの視線の先には、ふわふわと浮かぶカヤキスの姿が。
視線をそのまま落としてみます。絶空閃で吹き飛ばしたその先には、足がありませんでした。
・・・いいえ。
カヤキスには、もとより足が無いのです!
カヤキス「やれやれ、荒々しいお目覚めですな、破壊の姫よ。
あくまでもスマートに(そしてちょっとエッチに)決めたかった所ですが。まぁ仕方ありませんな。
マスターの威光を知らしめ!ローザリアに暗い恐怖の影を落とす!そして石を奪い去る!完璧です!!」
・・・ナイトハルトの影武者の姿見を借りてみるのも一興かとも思いましたが。破壊されてはしかたありませんな・・・」
サルーインちゃん「貴様・・・名を名乗らんか下郎!」
ぱきん、ぴきん、と黒い鎧が弾け飛んでいきます。そして中から溢れた『それ』が、一つの形を成しました。
足が無く、爪の生えた巨大な手と、仮面のような頭、そして黒いローブからなる、1体のモンスター!

「我は6将魔が一人!『スペクター』なり!」


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