第16話「a kidnapping」

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騎士団寮の庭。赤い月の下、二人の男が刃を交えていました。
目を見開き咆哮を上げながら剣を振るう男、ラファエル。ウコムの鉾でラファエルの猛攻を必死で受け止める男、オイゲン。
オイゲン「くそっ、ラファエル・・・おまえ、どうしたんだ?」
様々な方向から迫り来る剣撃を受け止めながら、掠れた声で言います。
ラファエルはそれが聞こえていないかのように、連続でオイゲンに攻撃を浴びせかけていきます。
ラファエル「僕たちは今度こそ正しい道を見つけなきゃならないんだ!!」
オイゲンは小さく舌打ちをした後に大きく後ずさり、ラファエルと距離を取りました。
オイゲン「このラファエル半端じゃねえ。見た所正気も無いようだし、これもあいつらの・・・・・・ん?」
オイゲンの目に、ラファエルの額に埋め込まれているモノが目に入りました。
オイゲン「・・・ボルト?突き刺さってんのかありゃ?・・・なんかやばそうだな。
      すぐに気絶させて抜かないと・・・よし、瞬殺コースでいくか。」
オイゲンはウコムの鉾を片手で持つようにして、迫り来るラファエルをキッと見据えました。
・・・次の瞬間の事です。

オイゲン「あっ!!」

オイゲンの目が見開かれました。
おそらくラファエルの後方にある何かを確認した事によって。
オイゲンの人差し指が、ラファエルの後方に向かって指されます。
ラファエル「!!・・・・・・・・・!?」
突然のことに、正気を失っているラファエルもガバリと後ろに振り向きました。
そしてそこには・・・!

ガン

オイゲン「バカかお前は。」
ラファエルの後頭部に、オイゲンのウコムの鉾が打ち付けられました。
前のめりに崩れ落ちるラファエル。それからピクピクと痙攣したまま、起き上がることはありませんでした。完全に気を失ったようです。
オイゲン「まったく、世話が焼けるぜ・・・」
しゃがみこみ、地面に倒れているラファエルをひっくり返しました。
泡をブクブクと吐き、白目を剥いています。気絶している事は見るに明らかでした。
オイゲンは額に埋め込まれているボルトの頭をサッとなでた後、少し引っ張りました。
・・・ビクともしません。
オイゲン「素手で抜くってのも無理があるか・・・」

「オイゲン!オイゲン!!」

声がしました。
オイゲン「・・・ミルザ!お前ら!」
ミルザと、数人の騎士団寮生達が、駆けつけてきました。騒ぎを聞きつけたのでしょう。
ミルザ「ちょっと、こんなとこでなにやってんだよ、オイゲン!・・・って、うぇっ!?」
オイゲンの隣で泡を吹いて倒れているラファエルが目に入り、言葉を失いました。
オイゲン「おい、ラファエルをいますぐ保健室に運べ!事情は後で話す!」
説明する暇もないと考えたオイゲンは、一声こう叫びました。
ミルザとほか騎士団寮の生徒たちは、オイゲンと倒れているラファエルを一瞬見比べた後、
オイゲンに何もいう事なく全員ラファエルの方へ駆け寄っていきました。



騎士団寮中庭。

デーモンコマンドは、地面に降り立ちました。

足元には、顔を下にして大の字に倒れているラミアちゃんがいます。
デーモンコマンド「・・・決まりだな。」
デーモンコマンドはニヤリと笑いました。
ラミア「ちょ、ちょっとちょっとォ!!死ぬかと思ったじゃないっスかぁ!!」
突然ラミアちゃんが起き上がりました。
デーモンコマンドはうざったそうに顔をしかめました。
ラミア「まったく、デモコマ様ったら!あたしがもし魔族じゃなかったら死んでましたよ!!」
紐だか布だかよく分からんような服一枚だけを着た姿で、デーモンコマンドに近寄り大声を上げます。
デーモンコマンド「・・・・・・チッ・・・」
ラミア(・・・・舌打ちされた!?)
ラミアちゃんは凍りつきました。
デーモンコマンド「まぁ、よい。とりあえず奴に連絡を取るか・・・」
デーモンコマンドは何気なく少しラミアちゃんと距離をとってから、目の前にボウッ、と小さな鏡を出現させました。
ラミア「あっ、懐かしいですね、それ。水鏡でしょ、それ?ねぇ。」
デーモンコマンド「黙れ。ウザイ。」
冷たく言い放ちました。
デーモンコマンドは水鏡を正面からみつめ、小声で何かを呟きました。
それからまもなく、鏡が波紋を描き、何かの顔を形成しました。

???『久しぶりだな。何の用かな?』
鏡の中の『顔』が声を出しました。
デーモンコマンド「久しぶりだな。実はお前に任せたいことがあってな・・・」
???『ほう。ただ私も多忙でな・・・貴様の要望通りにはなれぬかもしれぬが。とりあえず言ってみろ。』
デーモンコマンド「・・・糸石、火のルビーの事についてだが・・・」
???『火のルビー!・・・・・・うはは、そうかそうか、火のルビーか、ふふふ。』
声の調子が先程と打って変わって嬉しそうな調子に変わり、そして不適な笑い声を上げました。
デーモンコマンド「・・・なんだ、どうしたんだ?」
不適な笑い声に、違和感を覚えます。
???『デーモンコマンドよ、安心したまえ。火のルビーの事はすべて私に任せろ。
     そして火のルビーの事については『今後一切』関わらなくていい。』
デーモンコマンド「な、なんだと?」
予想だにしなかった返答に、意味もなくうろたえてしまいます。
???『ふっふっふ、楽しみにしていてくれたまえ、デーモンコマンドよ。では、さらばだ。』
その言葉の後、顔は歪み崩れ、元の何も映さぬ水鏡に戻りました。



デーモンコマンド「・・・くくっ」
一時の静寂の後、デーモンコマンドは不意に笑い出しました。
ラミア「・・・な、なんなんですかいきなり、気味悪い。ところで、さっき話してたのは誰なんです?
    『火のルビーは任せろや』とか言ってやがったけど・・一体アイツは何者・・・」
デーモンコマンド「アイツ?無礼者めが。あの男は私も一目おく存在だ。
          貴様ごときはいくら陰でも無礼な口をたたく事は許されん。愚か者めが。」
三つの目でギョロリとラミアちゃんを睨みます。
ラミア「あ、あはは・・・そう、そうでスね。うへへ。うひひ。」
妙なテンションです。

デーモンコマンド「ふふふ・・・あの男に任せて正解だったかもしれん。いや、あの男の事だ。
          私よりもずっと先に火のルビーをその眼に捉えていたのかもしれぬな・・・
           ともかく・・・期待しているぞ、六将魔『反逆者』の名を謳われる者よ・・・!」

ラミア「反逆・・・者?」
デーモンコマンドのたわいもない独り言に出たその単語が、ラミアちゃんに引っかかります。
数秒後、ある過去の日の出来事がラミアちゃんの頭に映し出されました。

”ゴブリンセージの事は放っておけといっておる!!”
”いやぁ、やはりマスターは話が分かる!デモコマ様も話が分かる!
 あ〜、『死神』や『反逆者』がいなくてホントによかったぁ!
 ・・・うふふっ、じゃあ、僕はゆっくり自室でゴブレンジャーの指揮でもしていますよ。
 じゃ、みなさんっ、よい夜を!”

ラミア「そういえばずっと前セージの口からも出てた・・・『反逆者』の名前・・・。
    何かなぁ、とは思ってたけど。あれ将魔の事だったんだ・・・初めて知った・・・。」
そこまで考え納得した後、ラミアちゃんはもう一つ頭に何かの疑問が引っかかっていることを感じ始めました。
疑問の正体を確かめようと、静かにその疑問を凝視しはじめます。
そして・・・
デーモンコマンド「ラミア!」
ラミア「ハ、ハイッ!?」
突然名を呼ばれ、ラミアちゃんも気づかないままにその時考えていた事も謎の疑問も全て吹き飛んでしまいました。
デーモンコマンド「ボケッとしてないで、私達は帰るぞ!」
ラミア「ハ、ハイ!」

二人は静かに目をつぶると、その空間から瞬時に消え去りました。



場面変わってミニオンズ。気絶したコンスタンツを連れ、見事騎士団寮を抜けていました。

ストライフちゃん「さて、そろそろ騎士団寮の領域を抜けた頃だろう。もう安心だな。」
ヘイトちゃん「そうねェェイ$6!さァて、このうっとうしい覆面ともおさらばァ!&$!」
二人は覆面をガバッと外しました。
ワイルちゃん「ゼイゼイ・・・わ、私もようやく荷物持ち終了です。」
ワイルちゃんは背負っていたコンスタンツを床に降ろし、肩で息をしながら乱暴に覆面を剥ぎ取りました。
ワイルちゃん「ゼイゼイ・・・な、なんで今回は私がこんなに疲れなきゃなんないんですかぁ・・・理不尽ですよヘイトちゃあん。」
ヘイトちゃん「理不尽も貴婦人もキャべジンもないわぁ☆#$!!これも全て我が主君、サルーインちゃんさまのた・め★」
ワイルちゃん「はっ!そういえばすっかり忘れてました・・・!
        サルーインちゃんさまのためだから私がパシられるわけですね!納得しましたよ!?」
一人元気にうんうん頷くワイルちゃん。
ヘイトちゃん「そうそう♪(こんな使いやすい娘は滅多にいないわねェい・・・★)」

ストライフちゃん「で」

ストライフちゃん「この女はどこに監禁しておこうか?」
ヘイトちゃん「ムダに三行使ってんじゃねェェこのアバズレがァぁァァ!香磨噤F!#F∀!!」
(バキャッ!!)ストライフちゃん「ぐべらッ!!?なぜここでアンタにあたしが殴られなきゃいけねぇんじゃボケェ!!」
(グワシャッ!!)ヘイトちゃん「ぐぼふっ!!」

ストライフちゃん「で」

ストライフちゃん「この女はどこに監禁しておこうか?」
倒れているコンスタンツを指差しながら言いました。
ヘイトちゃん「ふふ、そこらへんは流石このヘイトちゃァん。もうすっかり考えてあったりしちゃうのよォん@#$・・・
        騎士団寮西の人が住んでない地域にモンスター学部の寮が一つあるはず。そこを借りるのヨン。」
ストライフちゃん「モンスター学部の寮か。なるほど、それはいいかもしれんな。いざという時にはモンスター達の力も借りれるからな・・・
          ・・・ところで、ワイルおまえどうしたんだ?発言が無いぞ。」
ワイルちゃん「・・・いや、なんか先程あまりにシュールな出来事が起こったような気がしてそれで」

ストライフちゃん「さて、どうやって騎士団寮の連中をおびき寄せるかだな。」
ヘイトちゃん「んとォ:;やっぱりセオリー通り脅迫文でいこうかと&#▲@:・・」
ワイルちゃん「脅迫文って・・・あの『 こんや12じに だれかが しぬ 』っていうアレですか?」
ストライフちゃん「アレとはちょっと違うと思うが・・・まぁ、そんな感じでいいんじゃないか?」

ヘイトちゃん「ハイ決まりよし決まり!!!さーて、早速張り切って脅迫文書くわよォォん+;:y」54@!!! ワイル、ペン!」

ワイルちゃん「・・・・もってませんけど。」
ストライフ「・・・・もってない。」

ヘイトちゃん「・・・仕方ねェ・・・爪で書くか・・・・・・ほい、お前ら紙!!」

ワイルちゃん「・・・もってませんが。・・・ストライフちゃんは?」
ストライフちゃん「もってない。」

ワイルちゃん「・・・あらら、どうするんですか?まったくもう・・・って・・・ん、どうしたんですか、二人とも?」
ストライフちゃんとヘイトちゃん。二人ともどこか達観した顔つきでワイルちゃんを凝視しています。
ワイルちゃんは意味も無くキョロキョロ二人を見比べてしまいます。
ワイルちゃん「・・・・っていうか、その・・・まさか・・・」
すぐに気づきました。
ヘイトちゃん「ワイル・・・今から紙とペン、大至急買ってきて。」

ワイルちゃん「やっぱりーーーーーーーーーーーーー!!?」

ストライフちゃん「そうだ、そのやっぱりだ。さ、さ、買ってきなさい、はやく♪」
ヘイトちゃん「それがアナタの役目だから♪ふふ♪」
二人とも似合わない暖かい笑みを浮かべながら、ワイルちゃんにつめよります。
ワイルちゃん「そ、そんな、いやですよ。もう私疲れきってるんですからね。二人のどっちかがやってくださいよ。ね。
         今度こそはね。わ、私だって怒っちゃいますからね。ね。」
ワイルちゃんはオドオドしながらも言い返しました。
ヘイトちゃんはサブリミナル的に一瞬だけ修羅のような顔をした後、先程よりも更に柔和な顔で、ワイルちゃんに向かって言いました。
例の『呪文』を。

ヘイトちゃん「これも全部・・・ サ ル ー イ ン ち ゃ ん さ ま の た め ・ ・ ・ 」

ワイルちゃん「!!!!」
ワイルちゃんの顔つきが瞬時に変わりました。
ワイルちゃん「そういえばすっかり忘れてました・・・!サルーインちゃんさまのためだから私が紙とペンを買いにいくってワケですね!?
        オーケー、じゃあ、大至急紙とペン買ってきます!!!!」
ヘイトちゃん「あ、ついでにチョコパンとタラコおにぎりも買ってきてねェェ。サルーインちゃんさまのため。サルーインちゃんさまのため。」
ワイルちゃん「OK!!じゃあ、いってきまーーーす!!!!!・・・・・・」
ワイルちゃんは全速力で走っていきました。
ストライフちゃん「・・・・・・・・はは」
・・・・・・その後姿に、ストライフちゃんはどこか悲しさに似た何かを感じていました。

・・・それから何分か経った時。
ヘイトちゃん「・・・ストライフ。」
ストライフちゃん「なんだバカ。」
ヘイトちゃん「あたし・・あれほど天然で素直な娘見たこと無いわァ@::・・・」
ストライフちゃん「・・・あたしもだ。」
ヘイトちゃん「ある意味・・・国宝級のバカよねえい・・・」
ストライフちゃん「・・・うん。」



翌日。お昼正午の時刻の騎士団寮。
騎士団寮の生徒達全員、寮長ハインリヒ。テオドール先生、フラーマ先生、イフリート先生・・・・
騎士団寮に住むすべての人間が、広間に集結していました。
これから始まる幾ヶ月ぶりかの『臨時騎士団会議』のために。

ハインリヒ「さて・・・」
寮長ハインリヒが、口を開きました。それは臨時騎士会議の始まりを告げる合図でもありました。
ハインリヒ「これより臨時騎士会議を開催する。テオドール、議題の説明を。」

テオドール「みなももう知っての通り、我が娘であり、この騎士団寮のアイドル、コンスタンツが何者かに誘拐された。
       相手はコンスタンツを引き渡す代わりに、いわゆる身代金としてわが寮の宝、糸石『火のルビー』を要求している。
       大人しく相手の要求に従い火のルビーを渡すのか、それとも火のルビーを渡さずコンスタンツを・・・見殺しにするのか・・・
       私としては、いまだ答えを出せずにいる。みなの意見を聞きたい。」

ミルザ「・・・・・」
オイゲン「・・・・・・難しいね、コリャ。」

フラーマ先生(火のルビー・・・)
イフリート先生「・・・・・・」


・・・時は、今朝へ遡ります。


ラファエル「実はそのー、昨日襲われちゃって・・・たぶんその人達にコンスタンツ誘拐されちゃったのかと・・・」

  一同「ハァ!!??」

保健室にいるおよそ数十人の騎士、
そしてラファエルの額のボルトを力ずくで引っこ抜いたテオドール先生、みなが同時にその一声を上げました。
騎士A(正気に戻った第一声がそれかよ、クズ!!)
騎士B(テメーは何をやってたんだよ、カス!!)
騎士C(なに『やっちゃいましたぁ♪』的な言い方でごまかそうとしているんだよ、ゴミ!!)

その場にいるほとんどの騎士達はラファエルに殺意と憎悪を抱き始めていました。

テオドール「コンスタンツが誘拐されただってーーーーーーーーーー!!!!!!」

テオドール先生が、今までにないくらいの大声を発しました。
瞬間的にその場にいるテオドール先生以外のすべての人間が耳をふさぎます。
テオドール「テメー、何やってたんだあ!大人しく見てたのかあ!このカスがーー!!」
ラファエル「うひぃ!?」
詰め寄るテオドール先生の物凄い剣幕にラファエルは恐怖を感じました。
テオドール「大人しく見てたのかっ、つってんだよ、あ゙ーーー!?」

ミルザ「こ、怖い・・・なんて勢いだ・・・」
オイゲン「あの人は結構な親バカだからなぁ。前からラファエルの事気に入らなかったみたいだし・・・」
騎士A・B・C「いいぞ、テオドール先生やれやれー」

テオドール「なんか答えろやコラ、皮剥くぞ、ア゙ーーー!?」
ラファエル「じ、じつはっ、その・・・昨日コンスタンツと永遠の愛を誓い合っていたら、突然見知らぬ三人組が現れたんです!!」
テオドール「愛とか交わすとかんな事は聞いてねーー!!余計な事は言うなやこのカスが!!
       指と指の間んトコ爪でカリカリするぞオラー!!」
テオドール先生の教師とは思えぬような暴言が、ラファエルに襲い掛かります。

テオドール「これよりー、臨時騎士会議を開催しますー。ラファエルくんの死刑に賛成のものはー。」
騎士A・B・C「ハーイ♪」
ラファエル「マジでか!?」
テオドール「ラファエルくんへの死刑判決は可決されまちたー。これより・・・
       死刑執行ゥォォーーー!!!!!」
騎士A・B・C「WAHOOOO!!!!ザッツグレイティストヒアーメーン!!!!」
ラファエル「マジでかーーーーー!!!??」

ミルザ「・・・・・・」
オイゲン「・・・・・・」


ラファエルは困惑していました。
ラファエル「そ、そ、その、落ち着いて聞いてください!!突然のことでっ!つまり奇襲で!!」
テオドール「で?」
ラファエル「コンスタンツを守る暇も無かったんです!!仕方なかったんです!!マジで!マジで!!」
テオドール「で?」
ラファエル「その・・・つまりっ・・・・・・!」
返答に困ります。
ラファエル「え〜と、その・・・その・・・えと、その、その・・えーと、その・・・つまり、その・・・」
テオドール「そのそのそのそのうるさいわボケーーーーー!!!!!」
(ブグシャッ!!)ラファエル「キャオラッ!!!(悲鳴)」
テオドール先生の拳が、ラファエルの顔面にクリーンヒットし、ベッドから転げ落ちていきました。

ミルザ「あ、ラ、ラファエル!」
騎士一同「うひゃっほうぅ!!もっとやれーー!!」
ミルザ「ええ!?」
自分以外の騎士達の意外な反応に、ミルザは面食らいました。

・・・殴られた当の本人、ラファエルは相当パニックになっていたようです。
ラファエル「い、痛いわ・・。・・・・殴ったわね・・・僕を殴ったわねーー!!父さんにも殴られた事にゃいのにィーーー!!」
テオドール「誰が義父さんだコラーーー!!!!」
(ゲボグシャッ!!)ラファエル「ダヴァイッ!!(悲鳴)」
鈍い音が響きわたりました。再び、テオドール先生の怒りの拳がラファエルの顔面にクリーンヒットしたのです。
ラファエル「だれも・・義父さんとまでは・・・言ってな・・・い・・・のに・・・。ゲボォ」
ラファエルは完全にのびてしまいました。

ミルザ「ラ、ラファエル!!み、みんな、ラファエルが・・・って、」
騎士一同「ざまあみやがれラファエル!!うひゃひゃひゃ!!!さっすがテオドール先生!!!」
ミルザ「やっぱそーなんだ!?」

怒り渦巻く部屋中に、一陣の風が舞い込みました。

騎士C「いいぞ、いいぞ、テオドール!!いいぞ、い、わぷっ、ぷっ・・・」
窓から風に乗って飛んできた一枚の紙が、騎士Cの顔に張り付きました。
騎士C「なんだ、この紙は・・・この紙・・・は・・・って、え、」
騎士Cは、その紙を一目見た瞬間、言葉を失いました。
何度も何度もその紙に書いてある文字を読み返し、
自分の眼に偽りが無い事を確認した後、騎士Cはその紙を指差しながら一同に対し言いました。

騎士C「みんな、大変だー!!これ、見て!!これ見て!!」

騎士Cの鬼気迫る声に、テオドール先生も含む騎士達は、騎士Cに、次に騎士Cの持つ紙に目線を写しました。
テオドール「な、なんだとう・・・・・・!?」
真っ先に声を上げたのはテオドール先生でした。

【騎士団寮のみなさァん!! コンスタンツを返してほしかったら、身代金の代わりとして糸石、火のルビーちょうだいねェ!!!】



【騎士団寮のみなさァん!! コンスタンツを返してほしかったら、身代金の代わりとして火のルビーちょうだいねェェェ!!! よろちく★】

ほとんど殴り書きのような文字で、紙にはそう書いてありました。
騎士A「なんだってー!?身代金だってー!?」
騎士B「火のルビーだってー!?なんじゃそりゃー!?」
下部には、ご丁寧に取引場所の指定も書いてあります。

【取引場所は、フラーマさんの棟から南西部の洞窟。明日のお昼にきて! 絶対に一人できなさい!!
 じゃなァいとォ、コンスタンツがどうかなっちゃうわよォう!!】

ミルザ「火のルビー・・・!・・・ねぇ、オイゲン、火のルビーって事は・・・」
オイゲン「ああ。間違いない、糸石、『火のルビー』の事だ・・・!」
二人は確信しました。
それと共に、なぜコンスタンツを誘拐した敵はこの『騎士団寮』へ火のルビーを求めるのか、そういう疑問も持ち始めてきていました。

オイゲン「なぁ、テオドール先生!」
混沌とした雰囲気を破るように、オイゲンは言いました。
テオドール「な、なんだ?」
テオドール先生の顔は、心なしか少し青ざめているように見えます。
オイゲン「どういうことだよ、火のルビーって・・・『運命の赤い糸石』の事だろ?
      ・・・テオドール先生、なぜ敵は火のルビーをこの騎士団寮に求めているのか・・・わかるか?」

騎士A「運命の赤い糸石・・・?なんじゃそりゃ」
騎士C「聞いた事あるぞ、ほら、あの、アレだ。」

テオドール先生は少し間をおいた後、言いました。
テオドール「そう、この紙に書いてある火のルビーとは、間違いなく運命の赤い糸石のことだろう・・・
       その証拠に、この騎士団寮には、いま、火のルビーがある。」
ミルザ「・・・やっぱり・・・!」
ミルザくんは息を呑みました。
オイゲン「・・・もう俺ら何年か騎士団寮に住んでいるってーのに、んな事初めて聞いたぜ。
      ・・・この寮のドコに、そしてなんで騎士団寮に火のルビーが?」
テオドール「・・・火のルビーはこの騎士団寮の宝として昔からこの騎士団寮の『ある場所』に保管されている。
       なぜこの寮に火のルビーが存在するのか・・・詳しくは外伝『決して届かぬ炎の御許』を読むといいだろう。」

騎士A「んな外伝あったっけか?」
騎士D「そんな話はないだろう。いまんとこ。」

テオドール「わが娘、コンスタンツ・・・わが寮の宝、火のルビー・・・二つに一つ・・・!
        どうえらべというのだ・・・いや、わしの一存で決める事ではあるまい・・・
        フラーマ先生、そしてハインリヒ寮長に連絡をせねば・・・」
騎士B「せんせー!!火のルビー渡しちゃえばええやん!!」
テオドール「おまえは何も分かっておらん!」
騎士B「げえっ!」
テオドール「すまぬが、みな席を外してくれ。ここからはお前達には関係ない話だ・・・さぁ。」
テオドール先生は、手でみなに部屋を出るよう指示しました。
騎士達は一瞬躊躇した後、ぞろぞろとドアに向かい歩き始めました。
騎士C「あ〜あ、どーなっちまうんだか。」
騎士B「まぁ、どっちにしろラファエルは寮追放確定だな。」
騎士A「死刑も・・・」騎士D「それはないだろう。」
ミルザ「・・・・・・」
オイゲン「どうしたミルザ、行くぞ。」
一分後、騎士達はみな部屋を出て行き、部屋には倒れているラファエルとテオドール先生だけが残りました。

テオドール「場合によっては、臨時騎士会議が開かれるやもしれぬ・・・」



一方、その窓の外。
窓の下の壁に、騎士団寮生徒ではない一人の女の子が張り付いていました。
???「ふふ・・・万事成功ですね!・・・あとは彼らがうまく動いてくれることを願うのみです・・・」
女の子は立ち上がると、小さく笑みを浮かべました。

ワイルちゃん「あとは、事が上手くいくまでミルザさんの監視、ですね!」



イフリート先生「ああ、フラーマ先生!僕は君と会うためだけに生きてきたのかもしれない・・・!」
フラーマ先生「バカじゃないの」
イフリート先生「バ、バカだってーーーー!?それってまさか、私めに対するププププププププロポー・・・」
フラーマ先生「バカじゃないの」

イフリート先生『バカなのだーーー!!♪  ぼくちんほんとにバカなのだーーーー!!♪ イェーーーイ!!』

ここはフラーマの棟最上階、フラーマ先生の部屋。
自称バカ他称バカの完全バカ、イフリート先生が、今日も飽きもせずにフラーマ先生に言い寄っていました。
(フラーマ先生はいい加減飽きていますが)

イフリート先生「すいません!バカですいません!!」
フラーマ先生「まったくだわ。バカ。」

イフリート先生『バカなのだーーー!!♪  ぼくちんほんっっとマジでバカなのだーーーー!!♪ イェーーーイ!!』

その時です。
プルルル・・・プルルル・・・
部屋の中に、無機質な電子音が響き渡りました。
机の上からです。どうやら、電話のようです。
フラーマ先生「あらやだ、電話だわ。誰からかしら。・・・静かにしてろよイフリート!!」
イフリート先生「神の仰せのままに。」
フラーマ先生は受話器を取りました。
フラーマ先生「はい、フラーマですー」
イフリート先生(あー、退屈ー。えい、床に鼻くそつけちゃえ)
フラーマ先生「なんだってぇぇ!!!!???」
イフリート先生「の、のわぁぁぁぁ!!!??」
鼻くそを床につけようとしていたのがバレたと思ったイフリート先生は、すぐさま鼻くそを鼻に戻しました。
イフリート先生「す、すいませすいませんすすすいません、悪気とかそういう類のものは一切・・・
          ただの出来出来出来出来出来出来出来出来出来ごころーなんーですーー  ハイ、ハイ!♪」
フラーマ先生「コンスタンツがさらわれて、しかも犯人は糸石、火のルビーを要求しているだってーーーーーー!!!?」

イフリート先生「    え?    」

フラーマ先生「はい、はい。わかりました、はい!・・・・・・はい、ではまた連絡します。では・・はい、さよならー 」
フラーマ先生は受話器を置き、ふぅと一つため息をつきました。
イフリート先生「フラーマ先生。」
フラーマ先生「なによ?」
イフリート先生の顔は、いつになく真剣でした。
イフリート先生「もちろん・・・先生は、コンスタンツではなく火のルビーを取りますよね?
         まさか・・・コンスタンツを取るなんて事は・・・ありえませんよね?」
フラーマ先生「そんなことない!!」
イフリート先生「マジでか!?」
本気で驚いたようです。
フラーマ先生「だって・・・コンスタンツかわいいじゃない!コンスタンツかわいいもん!!かわいいんだもん!!!
         朝すれ違うたびに・・・あの若々しい肌に、髪質に、声に・・・心が洗われるんだもぉん・・・アハァ」
若干いつもと声の調子が違います。
イフリート先生「・・・先生、落ち着いてください。・・・早まった真似はしないで下さいよ。
          火のルビーがこの寮にとって、そして『あなたにとって』どんなに大切なものか・・・分からないわけありませんよね?」
フラーマ先生「あなたに・・・」
イフリート先生「は?」
フラーマ先生「あなたに何がわかるっていうのよぉぉぉ!!!!」
イフリート先生「はい!!?」
イフリート先生は思い切り眉をしかめ、吐き出すように言いました。
フラーマ先生「コンスタンツは私にとってはスッゲ大切なの!!スッゲスッゲ大切なの!!!
         それこそ火のルビーと・・・いや、火のルビーよりも・・・スッゲ大切なの!!」
イフリート先生(ウッソ、なんかむかつくぞ?このフラーマ先生。)
フラーマ先生「あの子はまさにアイドル・・・私にとっても・・・いや、騎士団寮みんなのアイドル・・・心のアイドル・・・!
         そのアイドルが誘拐よ、誘拐!わかる?イフリート先生!!
         相手の要求どおりにならなきゃ殺人強姦当然バッチコイセイセイセイの誘拐よ!!?」
イフリート先生「ちょ、マジで落ち着いてください!キャラおかしくなってますよ!!」
フラーマ先生「あーー、コンスタンツのおっぱいもみてーーーーー!!!!」
イフリート先生「ブフッ!!(いけね、笑っちゃうトコだった)」
フラーマ先生「コンスタンツかわええーーー!!!コンスタンツかわえええーーーー!!!」
イフリート先生「だ、だれかこの変態をとめてーー!ただいまフラーマ乱心発生中ですよーー!!」
フラーマ先生「イフリートォォォォ!!!」
イフリート先生「は、はいっ!?」

フラーマ先生「コンスタンツは、かわいいわね。」

イフリート先生「・・・・・・・・は、はい。」
勢いに飲まれてつい言ってしまいました。

フラーマ先生「とにかく、私としては火のルビーをもはや渡しちゃってもいいんだけど・・・あとは生徒達、他の先生達はなんというか・・・・・・
         テオドール先生は臨時騎士会議も考えているらしいけど・・・
         テオドール先生、あとハインリヒにもいっておこう、『臨時騎士会議』を開こう、と。」

イフリート先生(・・・・・・・・・チッ・・・めんどうくさい・・・)



時は戻り臨時騎士会議。

静寂の中、ひとりの騎士が言いました。

ブラッツ「僕は、コンスタンツ救出のために火のルビーを渡してしまって、何の問題も無いと思っています。」
それから、相次いで一人、また一人とその意見に賛成する事を表明していきます。
その時です。
一人の男がその流れを止めるべく、言いました。

イフリート先生「私はその意見に反対だ。コンスタンツを誘拐した相手は、まず正気の沙汰ではない。
          火のルビーを渡したところで、大人しくコンスタンツが帰ってくるとは思えんな。」

オイゲン「おっ、珍しいな、あのイフリート先生が・・・あのキャラがあんな発言するなんてよ。」
ミルザ「珍しいよね。てっきりあの人も僕たちの意見に絶対賛成の方だと思ったんだけど・・・」
オイゲン「ミルザ、お前はコンスタンツを助ける側の人間なのか?」
ミルザ「もちろん、そうだよ。オイゲンは・・・どうなの?」
オイゲン「・・・さあな。・・・・・・ただ、イフリート先生の言う事は一理あると思うぜ。」
オイゲンはイフリート先生をじっと見つめました。

ブラッツ「イフリート先生!!コンスタンツを救出せねば・・・火のルビーを渡さねば、コンスタンツは100%帰ってこないんですよ!
      いくらルビーを渡してもコンスタンツが帰ってこないという可能性があっても・・・
      僕たちはそれとは違ったもう一つの可能性に賭けるしかないんじゃありませんか!?」
ブラッツはまたみなの先陣を切るようにして言いました。

イフリート先生「賭け?愚かな事を言うなよ、ブラッツ。火のルビーも失い、コンスタンツも失う。まさに最悪のシナリオじゃないか。
          このシナリオは怖すぎる上に容易に想像できるほどにその可能性は高い。冷静になりなさい、ブラッツ。」
ブラッツ「俺は冷静だ!しっかしイフリート先生、アンタいつの間にそんな血も涙もない人間になったんだ?アンタこそ正気になれ!」
イフリート先生「血も涙もないワケがないだろう。私はわざわざ最悪の道を自ら辿ろうとしている君達の方向を正そうとしているだけだ。
          私も、できればコンスタンツを失う選択肢を選びたくない・・・。
          だが、『できない』からこそ私はこちらの選択肢を選ぶしかなかったのだ。お分かりか?」
ブラッツ「いいよな、大人って奴は。そうやって俺らの気持ちを理解しようとせず大人の考えだけで話を進める!」
イフリート先生「私は正しい事を述べているだけだ。そもそも普通に考えて火のルビーとコンスタンツ、どちらが大切か分かるだろうが。
          私情にほだされて正しい道を見失っているようだな。最悪のシナリオが想像できるだろう?想像したくないのか?」
ブラッツ「100%ってワケじゃねーだろ!」
イフリート先生「わからんぞ?」
ブラッツ「ほざくな!!」

ハインリヒ寮長「静粛に、静粛に!!」

殺伐とした雰囲気の中、ハインリヒ寮長の声が響き渡り、二人の論争はぴたりとやみました。

ミルザ「・・・ブラッツ・・・」
ブラッツ「なんなんだよ、アイツは・・・アイツがあんな奴だったなんて・・・!」
オイゲン「まぁ、冷静になれよブラッツ。」
ブラッツ「くっ・・・」
ブラッツは肩で息をしながら、イフリート先生をキッとにらみつけました。


フラーマ先生「ハインリヒ。私も発言してよろしいですか?」
ハインリヒ寮長「どうぞ、フラーマ先生。」
フラーマ先生「ありがとう、ハインリヒ。」
フラーマ先生はずいと前に出て、言い出しました。
フラーマ先生「火のルビーは、赤い運命の糸石の一つ。糸石は、一つ一つがとても強大な魔力を持っています。
         その魔力を手にするために、糸石は様々な邪悪なる者から狙われています。現に今回の件で・・・
         邪悪なる者に糸石を手渡す事。それはとても危険な事です。」
イフリート先生(ほう・・・フラーマ先生、いつのまにか火のルビーを取る考えに変えていたか。意外だが、さすがだ。)

フラーマ先生「ただし」
イフリート先生(?)

フラーマ先生「その危険性よりも、私はコンスタンツの命のほうが大事だと思っています。」

イフリート先生(何!?)

ざわめきが起こりました。
一部の騎士達には、「おお」と歓声を上げるものもいます。

テオドール先生「確かに・・・イフリート先生の言うように
           敵がその場でコンスタンツを引き渡さず火のルビーだけを取っていってしまう可能性もあるかもしれない。」

突如、テオドール先生が話し始めました。
みんなの視線がテオドール先生に向かいます。

テオドール先生「しかし、もしそのような事が起こったならば・・・私はその場で力ずくで敵を倒し、コンスタンツを奪い取る。
           火のルビーを渡すという結論に至った場合、私がルビーを渡しにいく。そして最悪のシナリオは絶対に起こさせん!」

テオドール先生のその勇敢な一言に、騎士達は頼もしさを覚えました。
騎士A「さすが、騎士団の剣、テオドール先生だ!」
騎士B「頼りになるぜ・・・」
ブラッツ「さすがテオドール先生!・・・どっかの冷酷なヤローとは大違いだな。」
騎士C「だな!!あんなんだからフラーマ先生に振られるんだよな!」
ブラッツ「ちげぇねぇ。あはははは!!」

ハインリヒ寮長「静粛に、静粛に!」

再びハインリヒ先生の声が響き渡りました。
ざわめきが消え、静寂が戻ってきます。

ハインリヒ寮長「意見のある者は?」

イフリート先生「・・・火のルビーは――」
ハインリヒ寮長「!イフリート先生。」
ブラッツ(またアイツか――)
イフリート先生「火のルビーは、わが騎士団寮の宝です。伝統です。それを・・いいんですか?
          渡してしまえば・・・絶対に帰ってはきませんよ?絶対に。絶対に。」
フラーマ先生「まだルビーを渡すとは決まったわけではありませんが・・・」
フラーマ先生が口を開きました。
フラーマ先生「みなさんがどうしてもコンスタンツを助けたいというのなら、いいんじゃありません?
         伝統や・・・歴史なんてものは、実際人ひとりの命には遠く及びません。・・・ね、ハインリヒ。」
ハインリヒ寮長「・・・・・・」
再び静寂が訪れました。

「それでは採決を行う。・・・コンスタンツ救出に、賛成のものは!」

まず真っ先にテオドール先生が手を上げます。
次にフラーマ先生が、そして、騎士達が一人、また一人と・・・ミルザも、オイゲンも、そしてやがて騎士達全員が挙手をしました。
イフリート先生だけは、手を上げようとはしません。
そのまましばらく経ち、ハインリヒ寮長は言いました。

ハインリヒ寮長「賛成多数。コンスタンツ救出は可決された。これにて会議を閉会とする!」



   ・ 
   ・
   ・ 
オイゲン「・・・そういえば。」
ミルザ「ん、なに?」
臨時騎士会議が終わり、二人は騎士団寮の廊下を歩きながら話していました。
オイゲン「お前には言ってなかったが・・・昨日の夜、そうだな、あの騒動があったちょっと前、『奴』の気配を感じた。」
ミルザ「奴って?」
オイゲン「奴だよ。デーモンコマンドさ。」
ミルザ「ええ、デーモンコマンドが!?」
思わず大声を上げてしまいます。
ミルザ「まだ、生きていたんだ・・・」
オイゲン「ああ。あれは間違いなく・・・やつの気配だった。
      そしておそらくラファエルを洗脳したのも、コンスタンツを誘拐したのも奴らの・・・」
ミルザ「そうか・・・」
オイゲン「・・・脅迫文の文面は奴が書いたとは思えなかったけどな。おそらくは連れのあの女が書いたんだろうが・・・
      ・・・やつらなら、火のルビーを渡しても平気でコンスタンツを殺してしまう。
      そしておそらくは火のルビーを渡しにいくテオドール先生も・・・やりかねなくないか?」
ミルザ「・・・そう、かな・・・?そんな事はないと思うけど・・・」
オイゲン「おいおい、何言ってるんだミルザ。大丈夫か?」
オイゲンは冗談めいた調子で言いながら、ミルザの額を触りました。
ミルザ「大丈夫だってば!なにすんだよ!」
オイゲン「ははっ、そうかそうか。」
手を離しました。
オイゲンくんは一息つくと、言いました。

オイゲン「なぁ、俺達またヒーローになってみないか?」
ミルザ「へっ?どゆこと?」
首をかしげるミルザくん。
オイゲン「事前に場所指定をしてしまった敵の裏をかくのさ。
      洞窟に潜入、敵に気づかれずにコンスタンツを救出、できれば敵も背後からぶちのめして、
      火のルビーもコンスタンツも無事、一件落着評価うなぎのぼりそして二人で名誉騎士になって特別待遇ウヒャッホウ!
      ・・・どうよ?」
ミルザ「・・・それいいね!さすがオイゲン!!」
オイゲン「そうだろそうだろ!実は俺、そういう感じのスパイ?みたいな怪盗X?みたいな展開がある映画が大好きでさ・・・その・・・」
ミルザ「そういえば、イスマスのダンスパーティーで怪盗になろうそうなろうとか言いだしたのもオイゲンだったね。」
オイゲン「ああ。その、なんちゅーかある種の後ろめたさ?みたいな背徳感?みたいなの・・・ゾクゾクしないか?ん?」
ミルザ「・・・・・・うん。そうですね。」
オイゲンの目は、いつになく輝いていました。

オイゲン「でだな、この作戦の成功のために、今からある人に助力を求めに行くんだが・・・」
ミルザ「ある人?」
オイゲン「ああ。イフリート先生さ。」
ミルザ「イフリート先生?なぜイフリート先生に・・・」
オイゲン「まぁ、それはお楽しみって事で。さぁ、いくぞ!」
オイゲンはミルザの手を掴み、ぐいと引っ張りました。
ミルザ「ところで、オイゲン・・・」
オイゲン「ん?なんだぁ、ミルザ?」
ミルザ「その作戦っての、いま閃いたの?なんか色々考えてるみたいだけど・・・」
オイゲン「いま?んなワケねーだろ。騎士団会議の途中からずっと考えてたさ。」
ミルザ「・・・・・・マジでか。」



二人は、まずイフリート先生の自室へと向かいました。
オイゲン「あのー。先生、いますかー?」
木のドアを手でノックします。
数秒経っても、先生は出てくる気配がありません。
オイゲン「・・・やっぱいねぇか。まぁ、あの人が自室にいるなんて事は滅多にないからなー・・・」
イフリート先生は授業が無い日は、大体フラーマ先生の棟か修行場にいて、自室にいる事はほとんどありません。
オイゲン「しかたねぇ、じゃあ、次はとりあえずフラーマの棟へいってみようぜ。」
ミルザ「うん。」
身を翻し、その場を去ろうとしたその時です。

「・・・なんだ、誰だ?・・・何のようだ。」

オイゲン「おっ!」
ドアの中から、掠れた声がかすかに聞こえてきました。
オイゲンは急いでドアの前に戻りました。
オイゲン「俺です、オイゲン。あとー、ミルザ。実は先生に用があってですねー、入れてもらえませんか?」
言い終えると、ドアが静かに開きました。
イフリート先生の巨体が、ぬぅと現れます。
先生は静かに言いました。
イフリート先生「・・・入れ。」

二人は先生の部屋に足を踏み入れました。

イフリート先生「いやぁ、少々散らかっててすまんな。足の踏み場も無くって・・・」

先生の部屋は、言うほど汚くはありませんが、それでもあまり綺麗とはいえないような部屋でした。
カップ麺の容器や新聞などが、整理されずに床に無造作に散らかっています。
そして散乱物の中でも、とりわけダンベルや握力計などの筋トレ用具が目立っていました。
イフリート先生の普段の生活の様が、手に取るように分かる。そんな部屋でした。
イフリート先生「まぁ、座れ。」
先生はドカリと座りました。
ミルザとオイゲンもゴミを蹴り、場所を作った後続いて座りました。
イフリート先生「それにしても、珍しいな。私に何のようだね?」
オイゲンはニヤリと笑いました。
オイゲン「実はですね・・・」

オイゲンはミルザに説明した事を、同じく先生にも説明しました。
先生はその話に大変興味をもったようで、話の途中からはずっとニヤニヤと笑いながら聞いていました。
オイゲンは一通り言い終えると、一息ついてこう言いました。

オイゲン「そこで、です。イフリート先生・・・僕達にカムフラージュをかけてほしいんです。」

イフリート先生「カムフラージュ?」
オイゲン「そうです。身近に土術を使える人間は先生しか思いつかなかったので・・・カムフラージュ、潜入には最適の術でしょう?」
イフリート先生「・・・そうだな。」
オイゲン「敵地への潜入は、深夜、夜明け前の3時くらい・・・生徒達が皆寝静まったところでいこうと思っています。
      先生には出発直前に俺達カムフラージュをかけてもらいますが・・・大丈夫ですか?」
イフリート先生「大丈夫だ。騎士団寮の未来のためならば寝る間も惜しまん」
オイゲン「それはそれは、いやあ、さすが先生!・・・じゃあ、一発カムフラージュを俺たちにかけてみてください!」
イフリート先生「いまか?」
オイゲン「はい。先生のカムフラージュの効果の程を前もって知っておかないといけませんからね・・・」
イフリート先生「よし、わかった。では二人ともそこにじっと座ってろ。」
先生はふふっと小さく笑った後、立ち上がり術の構えをとりました。
ミルザ「イフリート先生への用って、これだったんだね。」
オイゲン「そうさ!」
魔力が集約していきます。

フリート先生「カムフラージュ!」
先生の手から、魔力が放たれました。
オイゲン「うおっ!」
ミルザ「うわっぷ!」
激しい閃光に、二人は思わず目をつぶりました。
それから、数秒経ちます。
イフリート先生「もういいぞ、二人とも。」
先生の声がしました。
ミルザとオイゲンの二人は、ゆっくりと目をあけました。
それから、自分の手を見ます。
ミルザ・オイゲン「!!」
手が透けていました。
目を凝らせば全体的な形はかろうじて分かるものの、
集中してみなければほとんど分からないくらい、カムフラージュをかけられた二人の体は透明になっていました。
ミルザ「す、すげーー!!」
オイゲン「さすがイフリート先生だ!」
感嘆の声があがります。
イフリート先生「ただ――見ての通り完全に姿が消えたわけではない。気配も消えない。
         いくら姿が透けてるからとはいえ、音を立てたりしてしまえば敵に感づかれるぞ。気をつけろ。」
オイゲン「いや、その点は全然大丈夫っすよ。カムフラージュで補えない点は・・・『幻のアメジスト』が補ってくれるんでね!」
オイゲンがその言葉を発すると、先生の顔色が瞬時に変わりました。

イフリート先生「幻の・・・アメジスト!!?」

ミルザ「・・・ど、どうしたんですか?先生。」
先生は、血走った目で極限まで薄くなった二人を見下ろしていました。
イフリート先生「いま、幻のアメジストと言ったな。幻のアメジストを・・・糸石を、お前達は持っているのか?」
ミルザ「は、はい・・・」
オイゲン「アメジストだけじゃありませんけど。」
イフリート先生「・・・見せてみろ!私に!」
ミルザ「は、はい。」
ミルザは立ち上がり、懐から幻のアメジスト、水のアクアマリン、そして闇のブラックダイアを取り出し、イフリート先生に見せました。
糸石をじぃっ、と凝視する先生。
その顔色が、みるみる赤くなっていきます。
イフリート先生「これは、間違いなく・・・本物だな?・・・お前達が集めたのか?」
真剣な顔で問います。
オイゲン「そうです。・・・そういえばまだ騎士団寮の人達にはいってなかったっけな。」
ミルザ「だね。へへ、すごいでしょ、せんせー。この三つ全部僕達が手に入れたんですよー。」
イフリート先生「・・・・・・そうか。・・・さすが私の教え子だ。」
どこからかカタリと音がしました。

ゾクッ

ミルザ「・・・!!」
ただならぬ気配を感じ取りました。
全身の毛穴が開くような、そんな感覚を覚えます。
ミルザは直感的にすぐ糸石を懐に入れなおしました。
イフリート先生「?どうしたんだ、ミルザ?」
オイゲン「どうした?」
オイゲンがミルザの顔を覗き込みます。
ミルザの顔色は心なしか先程よりも青ざめているように見えます。
ミルザは声を震わせながら言いました。
ミルザ「いま・・・ただならない気配を感じた。背筋がゾクッとした・・・誰かに、どこかから恐ろしい奴が、今僕達を見ている!」
オイゲンは首を傾げました。
オイゲン「そんなの俺は感じなかったけどなあ。」
イフリート先生「私もだ。ゴキブリの気配でも感じ取ったのではないか?ははは」
ミルザ「そ、そうかな・・・」
ミルザは釈然としませんでした。
と、その時先生が唐突に言いました。
イフリート先生「ところで、私も一緒にいっていいかな?」
ミルザ・オイゲン「へ?」
思わず疑問符を口に出してしまう二人。

先生は床に座ると、言い始めました。
イフリート先生「いやぁ、私も君達と一緒にヒーローになってみたくてね。
         もしかしたら、この件でフラーマ先生が私の事を見直してくれるかもしれんではないか!
         ・・・あと幻のアメジストの力も見たいし。筋肉も鍛えられるし。」
ミルザ「へぇ。僕はついてきても全然OKだけど。先生だし。オイゲンがどう言うか・・・ねぇ、どう?オイゲン。」
オイゲンの顔を覗き込むミルザ。
オイゲンは少し考えた後、言いました。
オイゲン「・・・まぁ、別にいいんじゃないか?いざという時の戦力になるし。」
イフリート先生「さすがオイゲン!分かっているな!」
オイゲン「そのかわり!」
イフリート先生「ん?」
オイゲンは先生に顔を近づけ、言いました。
オイゲン「成績、ちょいとサービスしといてくださいよ。」
イフリート先生「・・・ふっ、わかったわかった。」
小さく笑いました。
オイゲン「さてと・・・」
立ち上がるオイゲン。
ミルザ「ん、帰るの?」
ミルザも立ち上がります。
オイゲン「じゃ、明日の早朝3時に。校庭集合にしましょう。その時まで来なかったらおいていきますからね。」
イフリート先生「あいよ。」
オイゲン「さ、出るぞミルザ。」
ミルザ「うん。じゃまた、先生!」
二人は身を翻し、先生の部屋を後にしました。



・・・二人は最後まで気づきませんでした。
三人の話を、影からすべて聞いていた者の存在を。
・・・二人は予測しませんでした。
この事件には恐るべき裏がある事を。


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