第16話「a kidnapping」

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>イフリート「ぐっ・・・くそぉっ、邪魔者どもめっ!!」

空気が、震えています。
コンスタンツの捕われている洞窟の最も奥で、最後の戦いが、今まさに始まろうとしています。
ミニオンズの後ろには、力なくミルザくんとオイゲンくんが倒れ、
イフリートの後ろには、気を失い、目を閉じたままのコンスタンツが倒れていました。

ストライフちゃん「ったく、痛かったな・・・この礼はタップリしてやるぜ、筋肉野郎!」
ヘイトちゃん「3人揃ったアタシ達の恐ろしさ、とくと焼き付けることねぇぇぇぇぇ〜〜★☆」
ワイルちゃん「ちょっと2人とも。」
目を血走らせ、殺気立っている2人の耳を、ワイルちゃんがひっぱりました。
ストライフちゃん「あ、痛!」ワイルちゃん「ぬぅおわああ!何よぉぉお!!」
ワイルちゃん「バレちゃったんですか?ミルザさん達に。」
ストライフちゃん「あ、えぇと、それは・・・」ヘイトちゃん「バレ・・・ちゃったぁぁぁん、かも★」
ワイルちゃんはそれを聞いて、心底疲れたような顔で、泣きそうになりながら言葉を漏らしました。
ワイルちゃん「じゃあ私たち、よくて停学、普通なら退学、もしくは逮捕ですね・・・」

ひゅううう・・・3人の間を、一陣の風が通り過ぎました。

ストライフちゃん「ってことは・・・私のスキルは、ち、中卒・・・」
ヘイトちゃんn「うひゃはぁ〜〜〜スットライフちゃん、顔が死兆星を見たレイみたいよぉぉぉムガッ!」
ストライフちゃん「黙れ!!元はといえばルビーの話の言い出しっぺは貴様だろうがあああ!」
ヘイトちゃん「何よおおおお!!『拉致るか』なんてクゥゥーールに言ってのけたのはスットライフちゃんよぉぉぉ!」

ずごん!

モメはじめた二人の頭に、良い角度でチョップが叩き込まれました。頭を抱えて悶絶する2人に、抑揚の無い声で
ワイルちゃん「黙 り な さ い 」
ストライフ&ヘイト「「はい」」
普段見たことの無い、ワイルちゃんの静かな迫力に押され、二人は素直に返事をしました。

ヘイトちゃん「(・・・どうしちゃったのかしらワイルちゃん。なんつーか、スゲェ迫力なんですけど・・)」
ストライフちゃん「(・・・怒ってるな、完璧に。在学が絶望的になったせいか?マジメなヤツだったからな・・・)」

ワイルちゃんが、ひそひそ話をしている2人を見て、ふふっ、と微笑みました。
ワイルちゃん「(2人とも、本当に身勝手なんだから・・・。
         でも、とても優しい、私のステキな、ステキな友達よ、2人とも。)」
次にワイルちゃんは、倒れているコンスタンツに目を向けました。
ワイルちゃん「(巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。でも誓います。必ずアナタは無事に帰します。)」
そしてワイルちゃんは、倒れているオイゲンくんに目をむけ――――
ワイルちゃん「(オイゲンさん・・・ふふ、オイゲンさんは、まるでミルザさんのお兄ちゃんみたい。
         ・・・ちょっぴりだけ、羨ましかったんだ。オイゲンさんのこと。いっつもミルザさんと一緒なんだもの。)」
――――最後に、倒れているミルザくんに目を向けました。
ワイルちゃん「(ミルザさん・・・楽しかった。アナタと知り合えてから、
         ツラいこともあったけど、とっても楽しかったのよ。
         でも、ここまでですね・・・サヨナラ・・・ごめんなさいね・・・。)」
そして、ワイルちゃんはメガネに手をかけました。

ワイルちゃんが、メガネを勢い良く外しました――――その目の端にたまっていた涙と共に。

イフリート「さて・・・最後のお別れは済んだかな?では、さようならの時間だ。」
一歩、また一歩とイフリートがにじり寄ってきます。

ワイルちゃん「ヘイト、ストライフ・・・今は急を要するから呼び捨てさせてもらうわ。
       私に考えがあるの。聞きなさい。」
メガネを胸元にしまい、眼光鋭く見据えるワイルちゃんの迫力に押され、あとの2人はただただ頷きました。
ワイルちゃん「まず、ストライフの得意の火術は、アレには効果が薄いわね。
         そしてヘイト得意の闇術も、ヤツは扱うことができる。
         だから、相手の知らない術で・・・私の風の術でケリをつけるわ。」
ストライフちゃん「しかしワイルよ。ヤツはオートセルフバーニングだぞ。吹雪は通用しない。」
ワイルちゃん「風術は、吹雪だけではないわ。いい?フォーメーションは、ヤツを囲むように。
         ストライフは主に敵の火術の相殺を。
         あと、私が切り込むときに、同時に切り込んで、ヤツの懐をこじ開けて。」
ストライフちゃん「OK。相殺だけじゃあ気が進まないが、そういう荒仕事もあるなら任せろ。さっきの借りを返してやる!」
ワイルちゃん「ヘイトは、主に中間距離から闇、邪術を連射。大技の必要は無いわ。そして、私の合図で――――」
ワイルちゃんが、小声でぼそぼそ、と他の2人に告げました。
それを聞き、ヘイトちゃんが親指を突き出し、「了解!」のポーズをとります。
そしてミニオンズは誰が言うでもなく、同時にこくん、と頷きました。
              「「「行くぞ!!!!」」」



【時同じくして。コンスタンツの洞窟より5km離れた地点の街道】

???「まさか、昨日の今日で阿呆な所業を起こすとは。行動力だけは無駄にあるのが厄介だな。」
夜明けも迎えず、月も出ず、闇にまみれた街道を疾走する一つの影があります。
???「夜中になっても行方知れず。もしやと思ってフラーマ先生に連絡を取ってみれば・・・やれやれ。」
その影は、一人ぼやいたあと、ますますスピードをあげ、街道を人知を超えたスピードで疾駆していきます。
その足跡は、黒く焼け焦げ、白い煙をあげていました。



ミニオンズの3人がイフリートを囲むように、三角形の形に散らばりました。
ヘイトちゃん「んぢゃ行くわよう!!シャドウボルト!!」
連続して闇の槍が、イフリートの足元から突き出されていきます。
イフリート「ほう、さっきとは逆に、最弱の術を連射か。悪くはない・・・しかし効かないよ、それでは。」
イフリートが手を前にかざしました。炎が凝縮され、一匹の大きな火の鳥が、今まさに羽ばたこうとしています。
イフリート「黒焦げになるがいい!」
ストライフちゃん「甘いのは貴様の方だ!!」
イフリートの火の鳥が放出される直前、別の方向からストライフちゃんの火の鳥が飛んできました。
それはイフリートの火の鳥より若干小ぶりではあるものの、その分スピードは速く、
イフリートの火の鳥を打ち消すことはできませんが、軌道をそらすには十分なものでした。
あさっての方向に向かい、誰もいない岩盤に命中する火の鳥を見て、イフリートが歯噛みします。
イフリート「なるほど。3人揃ったときが、貴様らの本当の力が発揮されるときか。
       術ではラチがあかないな。ならば腕力で黙らせよう。」
イフリートがヘイトちゃんに向けて、一歩ずつ近寄ってきます。シャドウボルドの連射でも、その足は止まりません。
と、イフリートの後ろから走り寄る音が聞こえてきました。
イフリート「・・・甘いわ!!!」
イフリートが振り返りざま、ヒートスイングを打ち下ろしました。その拳の先にいたのはストライフちゃん・・・

ではなく。

ヘイトちゃん「ワイルちゅわん!?」
頭から倒れこむようにして、ギリギリでヒートスイングを回避していたのはワイルちゃんでした。
別方向から、ストライフちゃんが、拳を構えて駆け寄っています。
そちらをイフリートが向こうとした時に、足元のワイルちゃんがおもむろに立ち上がり、イフリートに向かってパンチを放ちました。
そのか弱いパンチは、容赦無く炎の盾に防がれてしまいました。ワイルちゃんの拳に鈍い痛みが走ります。
イフリート「はっ!一人だけ何もしてない理由がわかったわ。まぁそのひ弱なパンチでは何の役にもたたんがな。」
ワイルちゃんはしかし不敵に笑いました。
ワイルちゃん「いいえ。役にはたちますよ。・・・炎の盾を剥がす役には、ね。」
イフリート「!!」
イフリートがワイルちゃんの言葉に目を見開いた時には、すでにストライフちゃんがフックを放つ体勢に入っていました。
イフリート「こざかしい!体術に慣れていようが、しょせん小娘!この筋肉で・・・」

ワイルちゃん「今よ・・・・歌え!!!ヘイト!!!!」
ヘイトちゃん「おおともさ!!インペリーーーーーーウムゥゥゥゥ!!!!」



【時同じくして、コンスタンツの洞窟入り口】

???「ここか。右手の奥の方から凄まじい炎気がする。そして妙に不安定な殺気も。
     確か騎士団寮で所在知れずなのは、ミルザ・オイゲン・イフリート先生だったな。
     ――――まさか。そういうことなのか?指導すべき立場の者の裏切り・・・考えたくはないがな。」
一つの影が、コンスタンツの洞窟に歩み入ります。
その視線の先には、先程のミルザの睡夢術から目覚めたばかりの、多くのモンスターがいます。
モンスター達は、入り口から入ってきた新しい獲物に向かって、嬉々として集まってきました。
影は、面倒くさそうに溜息をつきました。
???「モンスターどもよ。貴様らには3つの選択肢がある。1つは退くこと。我はこれを強く勧めるが。」
モンスターたちはその言葉を聞くと、げひゃげひゃと笑いながら、一斉に襲い掛かってきました。
???「馬鹿共が。選択肢の残りの2つは――――」
最初に駆け出したモンスターが、影に食いつこうとし――――地面に叩き付けられました。
???「――――挽肉になるか、消炭になるか、だ。」



ヘイトちゃんがインペリウムと叫んだ後、みゃーみゃーみゃーと奇妙な歌声がしました。
その直後、ストライフちゃんの右フックがイフリートの腹にめがけて突き刺さりました。
イフリート「ゲバァッ!!?」
イフリートの腹部を、焼きごてをあてたような激しい痛みが襲います。その巨体が、『く』の字に曲がります。
イフリート「(バカな!なんだこの威力は!!私の腹筋を突き抜けて・・・)」
ストライフちゃん「今のは、気に食わないが一応ヘイトの分だ。そして、やっと殴れるな・・・貴様の顔面を。」
イフリート「くっ!」イフリートが、両手をクロスさせて顔面をガードしようとします。
しかし、それより一瞬早く、ストライフちゃんの左ストレートがイフリートの顎を捉えました。
ストライフちゃん「これがさっきの私の分だ!女の顔を殴るんじゃないぞ筋肉野郎め!!」
今の一撃でイフリートのガードが外れ、糸石を埋め込んである胸元があらわになりました。
ストライフちゃん「ワイル!」 ヘイトちゃん「ワイルちゅわん!!」

ワイルちゃん「行きます。」

イフリートのがら空きの胸、3つの糸石が埋まっている個所に向けて、ワイルちゃんが跳躍しています。
その手には、風が渦を巻き、一つの球体を形作っていました。
ワイルちゃん「ブラッドフリーズ!!」
その球体をイフリートの胸に叩きつけます。
瞬間、イフリートの心臓からの血の流れが止まり、イフリートの呼吸が止まりました。

一瞬、全ての音が止まり、静寂が場を支配しました。

カツーン・・・ その静寂を打ち破ったのは、イフリートの胸から幻のアメジストが落ち、地面に落ちた音でした。
一拍置いて、イフリートが後ろにゆっくりと崩れ落ちます。
ワイルちゃんは慌てて幻のアメジストを拾い、大事そうに両手に抱えました。
ストライフちゃん「終わった、か?」
ヘイトちゃん「えっへっひぇ〜〜kfkjflアタシ達に逆らったのが運のつきぃぃ〜〜〜★☆」

と、ワイルちゃんがコンスタンツの元に歩み寄り、よいしょっと、と担ぎ上げました。
そしてよたよたとミルザ達の所に運び、アメジストと共に、ミルザの傍らに置きました。
ストライフちゃん「おいワイル、何を・・・」
ミルザ「う・・・うーん・・・わ、ワイルちゃ・・・?」
ワイルちゃん「ミルザさん、この子と、この石はお返しいたします。」
ミルザ「ワイルちゃん・・・キミは・・・?」
そのミルザの問いにワイルちゃんは答えず、小首をかしげ、ただ悲しげに微笑むだけでした。



一方、倒れているイフリートの側に、ヘイトちゃんがひょこひょこ近寄ります。
ヘイトちゃん「(うひひ〜〜今のうちにぃ残りの2つをゲ・ッ・トよぉぉ〜=〜m)」
と、カッ!とイフリートの目が開きました。
ヘイトちゃん「やば。」

ストライフちゃん「ん?」
ストライフちゃんが気配を感じて振り返ると、眼前にヘイトちゃんの尻が迫ってきておりました。
そのまま尻を顔面にくらい、ヘイトちゃんと一緒に後方へ、ミルザ達のところへ吹き飛ばされます。
ストライフちゃん「ヘ〜〜イ〜〜ト〜〜〜!!こぉの虫けらがああああ!!」
ヘイトちゃん「ちょ、ま、あっちあっち。」
場の全員が視線を向けます。そこには、全身から炎をたぎらせ、胸に2つ石をつけたイフリートがおりました。
ワイルちゃん「もう・・・気付いたの?」
イフリートが、そのまま術の構えをとります。
ミルザ「先生・・・」オイゲン「やっぱり本気かよ・・・」
ワイルちゃん「いや、違います!あなたは本当はそんなこと出来る人じゃないんでしょう!?」
イフリートの動きがピタッと止まります。
ミルザ「そうだ!先生は、あの日あの時、僕らと過ごしてきた先生は、嘘じゃない!
     先生!正気を取り戻して!負けないでくれ!イフリート先生!!!」
イフリート「わたしは・・・ワタシハ・・・・アア・・・」
そしてイフリートは突如頭を抱え、洞窟中に響く雄たけびをあげました。

残響音がこだまするなか、イフリートは力なく膝を付き、言いました。
イフリート先生「この石二つだけは貰っていく。お前たちは・・・帰れ、今すぐに・・・。」
ミルザ「先生・・・・。」



セージ「えぇ〜〜〜それじゃあつまらないなァ〜〜〜〜。」
と、突然幼い声が聞こえたかと思うと、イフリート先生が頭を抱えて苦しみだしました。
ミルザ「誰だ!!まさか、操っているのはお前か!!!」
セージ「操ってるなんてやだなぁ。後押ししてると言って欲しいナ。こんなふうに・・・ね。」
と、イフリート先生の動きが止まり、ゆっくりと起き上がりました。
イフリート「ふふフふ・・・かワいい、生徒たチ。消灯時刻だ、ナ?」
その目は赤く輝き、心情を一切窺い知ることが出来ません。いえ、心情が失われたのかもしれません。
そのままイフリートは手を大きく広げました。
その前に、大きく、荒々しく、真紅の羽根を広げた炎の巨鳥が形作られていきます。

オイゲン「で、でけぇ・・・」
ストライフちゃん「今の私では、あれを打ち消す火の鳥は作れないぞ・・・」
ヘイトちゃん「あひゃ〜〜〜美人薄命ってぇのは、このことねぃ・・・」

セージ「キミたちと遊ぶのはもう終わりサ。あの世にいっても、仲良くネ。アハハハ・・・・」


ミルザ「諦めるな!!!」


ミルザ「先生に・・・『先生じゃない先生』に殺されて終わるなんて御免だ!だから、諦めるな!!」
ワイルちゃん「そうです!まだ!まだ諦めないで!!みんな!!」
ミルザくんがレフトハンドソードを構え、剣閃を放つために力を溜めています。
同時にワイルちゃんが、吹雪の詠唱を開始しました。

ミルザくんとワイルちゃんの激を受けて、あとの3人も腹をくくりました。
オイゲン「だよなぁ。こんなおっかねぇ女と心中なんて、俺はゴメンだぜ。」
オイゲンくんのウコムの鉾に、再びエネルギーが充填されていきます。
ストライフちゃん「それはこっちのセリフだ!虫けらめ・・・。」
ストライフちゃんの眼前に、紅蓮の鳥が生み出されていきます。
ヘイトちゃん「ヘイトちゃんの底力、見せてあげるわひゃぁ〜〜jfぁjkl!」
ヘイトちゃんの頭上に、闇の球体が作り出されていきます。
ミルザ「行くぞ!」



【時同じく、ミルザくん達の位置まで200m】

???「(くそ、邪悪な炎の気配だ。間に合うか?いや――――)」



「剣閃!」「吹雪!」「神雷!」「火の鳥!」「ダークスフィア!」
5つの技と術が炸裂しました・・・しかし。
オイゲン「ダメだ!スピードが少し落ちた程度で、まだ向かってきやがる!」
ミルザ「くそ・・・くそおおお!!」



【時同じく、ミルザくん達の位置まで100m】

???「(――――諦めん。諦めんぞ。間に合う。間に合ってみせる!)」



弱っているミルザくん達の技では、火の鳥を打ち消すことはできませんでした。
それでは、先程の決意を込めた5人の技は、全くの徒労だったのでしょうか?
いいえ。
火の鳥を消すまで至らずとも、その速度を弱めた技。5人の決意の込められた技が、
――――まさに運命を変えたのです。

巨大な火の鳥が、ミルザくん達のすぐそばまで、着弾寸前まで迫っています。
ワイルちゃんが、思わずミルザくんにしがみつきます。
ミルザくんは、固く目をつぶりました。

その瞬間、彼らの背後の岩盤が爆裂しました。

耳をつんざく轟音と共に、何がおきたか分からない5人の上を、人影が飛び越えていきます。
その影は、赤いコートを翻し。

その手には――――――――両手斧!

???「炎の猛禽よ。貴様に命令する――――散れ!」
低く通る声でそう言いながら、影が両手斧を火の鳥に叩きつけます。

カッ!!
その瞬間に赤い閃光が輝きました。

頭部にあたる位置に、両手斧の一撃を受けた火の鳥は、
閃光を放った次の瞬間には急速に勢いを失い、大気に溶けるように散っていきました。

オイゲン「助かった・・・・」ストライフちゃん「・・・のか?」
ミルザ「きみは・・・」
ワイルちゃん「あなたは・・・」
ヘイトちゃん「あひゃ〜〜〜。」
イフリート「・・・キ、貴様ハ・・・・!」
セージ「へーえ。キミは・・・」



  「君主」   「炎の精霊」   「リガウの守り手」   「四寮長」

               『炎帝』

        「フレイム――――タイラント!!!」

タイラント「ようミルザ、久しいな。どうやら再開を喜んでいられる状況ではないようだ。
      ――――が、我はどうやら間に合ったようだ。紙一重ではあったが、な。」



イフリート「貴様ァァァ!!」
再びイフリートが巨大な火の鳥を作り、飛ばします。
同時にタイラントくんは、君主の大斧を投げつけました。
タイラント「行け」
その掛け声と共に、投げられた大斧は炎に戻り、そのまま巨鳥に姿を変えて突っ込んでいきます。
火の鳥同士が激突し、部屋の中央で業火が球体となり、そして散り散りになりました。
タイラントくんが、ゆっくりと歩いていきます。それを見て、イフリートも悠然と近寄ってきました。
2人が、お互いの拳が届く位置で止まりました。互いを睨みつけたまま、動こうとしません。
タイラント「オートセルフバーニングか。」
イフリート「あア。」
タイラント「我もだよ。これでは膠着してしまうが、あまり面白くない、な。」
次の瞬間、タイラントくんが両手で掌打を放つように、自分の炎の盾をイフリートのそれに叩きつけました。
イフリート「!!」
ガラスを割るような音と共に、互いの盾が粉々に砕けます。
イフリートはその光景に一瞬ひるみましたが、すぐさま拳を振り上げて攻撃体勢に入りました。

イフリート「縮退砲!」
タイラント「縮退撃!」

ガッシィィィィィィン!!!
イフリートとタイラントくんの右拳同士がぶつかり合いました。
その瞬間、衝撃が赤い波動として円形に広がりました。
2人は同じ距離を弾き飛ばされる形で、後ろに跳びすさります。

イフリート「クリムゾォォォンフレイアアアアアア!!!」

すぐさまイフリートは、巨大な球体の炎を作り出し、タイラントくんに向けて放ちました。
凶暴な音を発しながら真紅の球体が向かってきます。
タイラントくんは両手を突き出すように構えました。同時にタイラントくんのオーラが赤みをましていきます。
そして球体がタイラントくんの両手に触れ、爆発する瞬間でした。

タイラント「焼殺!!」

円形の魔方陣が浮かび上がったかと思うと、地面から猛り狂う炎の柱が吹き上がりました。
その炎の柱は球体の炎を包み込みます。炎が拮抗する音が響き渡ります。
そして、目を覆わんばかりの白い閃光が場に走りました。
・・・それが収まったころには、炎の柱も、球体もありませんでした。
まさに、炎の球体を『焼き尽して』しまったのです。

イフリート「ホォ・・・」
オイゲン「・・・すげぇな・・・。」

今の一連の攻防で、タイラントくんとイフリートの間に再び距離があきました。
すると、タイラントくんはヘイトちゃんに視線を向けました。
ヘイトちゃん「あひゃぁ〜〜さっすがタイラントくぅん(はぁと)助かったわぁん☆★f」
タイラント「はっはっは。貴様には、後で色々聞きたいことがある。逃 げ る な よ」
と、ジト目で低い声でヘイトちゃんを威圧すると、イフリートの方に向き直りました。
タイラント「貴様はイフリート先生なのか?まさか、本当にモンスターだったとは。
       まぁモンスターであるかどうかはさしたる問題ではない。」
そこで一度言葉を区切り、疲弊しているミルザ達を見やりました。
タイラント「こいつらをここまで追い詰めたのは貴様か?」
イフリート「そウだ。」
タイラント「目的は。糸石か?」
イフリート「そうサ。」
タイラント「騎士団寮に入ってから裏切ったのか?裏切るために騎士団寮に入ったのか?」
イフリート「・・・私ハ、将魔イフリート・・・はじめから裏切るためサ・・・」
ミルザ「嘘だ!10年近くも何も行動を起こしていなかったじゃないか!!
     さっき謎の、子供みたいな声がした。そいつがきっと先生を・・・」
タイラント「なるほど。貴様もまた黒幕では無いか。だが――――ファイアウォール」
タイラントくんがミルザくん達の方に手を向けると、彼らの前に業火が吹き上がり、炎の壁を作り出しました。
タイラント「どのみちこいつを止めなければ、話の進展が無いな。あとは任せろ。」

セージ「へーえ。大した自信だね。でも四寮長には用が無いんだ。ひっこんでてくれないかナ?」
突如、幼い声が空間に響き渡りました。
ミルザ「・・・お前は・・・イフリート先生を帰せ!!!」
タイラント「貴様が黒幕か?ひっこめと言われてひっこむと思うか?」

セージ「ふふふふ・・・忘れてるのかな?今こっちには・・・水のアクアマリンがあるってことをサ!」
次の瞬間、イフリートは胸のアクアマリンに手を添えて、ウォーターガンを唱えました。
水しぶきを上げながら、巨大な鯨が地面を潜行してきます。
鯨は大きく口を開け、そのままタイラントくんを飲み込みました。
セージ「はい。おしまい。石の力に適うわけがないじゃない。これで今日から三寮長だね。」

と、鯨の背中に赤い亀裂が入りました。亀裂は一気に大きく広がっていきます。
そして鯨を構成する大量の水分と共に、水分に負けない勢いの炎をまとってタイラントくんが飛び出してきました。
タイラント「あまり舐めないことだ。我は水に完全に負けるわけではない。水の弱点もまた、火なのだから。
       術を扱うには魔力の他、資質が大きく関与する。火のモードの化物が放つ水術など恐れるに足らん。
       ――――ただ、むかつくだけだ。」

(そう、資質が重要だ。そして我が見た中で、数多の術の資質を秘めていたのはアイツだけだ。アルドラという、あの女)

セージ「・・・フン。石はもう一つあるんだよ。闇の力で苦しむんだね。無関係な『野次馬』くん。」
イフリートの周囲に闇が渦巻きます。そして闇の吹き溜まりから、いくつもの闇の球体が浮かび上がります。
セージ「すごいだろう?糸石の力!闇のブラックダイアの力!無尽蔵の闇の力!これでキミ達は――――

タイラント「黙れ」

タイラントくんの吐き捨てるような言葉に、思わずセージの言葉が止まりました。
タイラント「二言目には石、石、石か。それしかセリフが無いのか『小僧』?
       糸石は確かに強力だ。だが、戦いはそれが全てではない。
       魂を燃やす闘志、絶対に負けないという覚悟、臨機応変に変わる状況。
       言葉では語れぬものが、机上では決して計れないものがある。」
セージ「・・・この期に及んで精神論かい?炎帝も落ちたもんだね。」
タイラント「精神論ではないさ。実際に今までの戦闘で体感し、確信した経験則だ。」
そしてタイラントくんは、イフリートに・・・いや、その意識を支配しているセージに向けて、指をさしました。
タイラント「貴様、眼前の敵に向かって、己の拳を握り、殴りつけた経験はあるか?
       無いだろうな。貴様の術法操作はたいしたものだ。戦術も悪くない。

       しかし、貴様には強い意志も覚悟も無い――――そう、貴様の戦いには『魂』が無い!

       ミルザやオイゲンが、そしてあの3人娘が対峙したときのように、
       イフリート先生がイフリートとして、その意識を保っていたなら、我も苦戦は免れなかったろう。
       少なくとも、イフリート先生は闘いに魂をこめられるヤツだったからな。
       はっきり言おう。貴様が精神を支配している状態のイフリートと戦うのは
       ――――楽な作業だ。比較にならぬほどな。」

セージ「・・・へ、へーえ・・・言ってくれるじゃないか。でも大層なセリフは・・・勝ってから言うんだね!!
     こっちは火のモードを持つ上に闇の糸石がある!火遊びしか脳が無い奴に何ができるのさ!!」
少々怒気のこもったセージのセリフと共に、数多の球体がタイラントくんに向かってきます。

タイラント「まぁ言っただけではわからぬだろうよ。ならば実際に教育をしてやろう。
       火のモードを『持つ』ことと、火のモードで『ある』ことの違いというものを。
       我が『炎帝』と呼ばれること、その意味を。

       ――――『炎を支配する』とは、どういう事かをな。」



闇の球体が迫る中、タイラントくんは目の前に巨大な火の鳥を作り出しました。

タイラント「火の鳥――――古式!!」

タイラントくんの掛け声とともに、巨大な火の鳥の全身にヒビが入ったかと思うと、
その内部から突き破るように、小型のハチドリのような、無数の火の鳥が飛び出しました。
眼前を覆い尽くさんばかりの大量の炎のハチドリが、闇の球体とぶつかり、次々と潰していきます。
そしてタイラントくんは、地面を静かに蹴りました。

瞬間、爆発音がしました。

タイラントくんは、爆発の推進力で壁に向かっていました。そして再び壁を蹴り、また爆発音が響きました。
そのまま天井を、床を蹴っていきます。そのたびに爆発音がし、その間隔はどんどん短くなっていきました。
タイラントくんのスピードはどんどん上がっていきます。まるで赤いレーザーが乱反射しているようです。
タイラントくんはそのまま洞窟中を使い、軌道を読ませずにイフリートに向かっていきました。
イフリート「ク・・・ウ・・・」
セージ「上だ!!」
イフリートの頭上から、タイラントくんが火の鳥を放ちました。
しかし炎はイフリートには効果がありません。イフリートは火の鳥を無視して空中に拳を打ち込みます。
その側をカスるように天井を蹴ったタイラントくんが、地面に向けて突っ込んでいきます。
地面に激突する瞬間に体を反転して着地したタイラントくんは、そのまま手を伸ばしました。
その手の先には、先程タイラントくんが放った火の鳥が来ています。
タイラントくんの手が触れた瞬間、火の鳥は、君主の大斧へと姿を変えました。

そのまま低い体勢で、イフリートの足をなぎ払いに行きます。
イフリートが反射で飛び上がり、ギリギリで斧を回避しました。
そして大斧を振りぬいたタイラントくんの手の中で、斧が再び炎に戻り、その形状を変えていきます。
炎はタイラントくんの両手に分かれて、それぞれ一本ずつの炎のムチに変形しました。
イフリートが着地し、そのままヒートスイングを放ちます。
同時にタイラントくんが、蹴りを放ちました。
2人の攻撃は、それぞれの持つ炎の盾で弾き返されました。イフリートの腕とタイラントくんの足から血が流れます。
2人が再び、同時に攻撃態勢に入りました。タイラントくんのムチがイフリートの頭上を襲います。
頭上から振り下ろされたムチを、体をひねってイフリートが回避します。
しかし、その足元にはもう一本のムチが絡められておりました。
タイラント「ハッ!」
タイラントくんが勢い良くムチを引き、イフリートの体勢を崩しました。
足をとられて膝をついたイフリートに向けて、間髪入れずにタイラントくんが突っ込みます。
そして、もう一方のムチが再び炎に戻り、タイラントくんの手に集まってきました。
タイラント「火神縮退撃!!」
そのまま炎に包まれた手を地面に叩き付け、エネルギー式の範囲攻撃を加えます。
まともに喰らったイフリートは、大きく後退しました。

タイラントくんとイフリートが、再び距離をあけてにらみ合っています。
セージ「・・・なるほどね。ミルザ達を守ってる炎の壁の勢いが増してる。
     炎を自在に操り、炎の術を重ねて、地相を炎にする。それによりますます力を得る。嫌な循環だね。
      つまり炎で場を支配する・・・だから炎の支配者ってかい?」
タイラント「よく気付いたな。しかしそれではまだ十分ではないな。」
そしてタイラントは、君主の大斧を構えました。
タイラント「――――決着を、つけるか。」
イフリート「・・・来・イ!」
セージ「ふふふ。そうだね。ボクも早く石が欲しいからネ。正々堂々、ケリをつけよう・・・」



君主の大斧を構え、タイラントくんが真正面から突っ込んでいきました。
と、拳を構えたイフリートの周囲に、色濃い闇が形作られました。

セージ「・・・なーんてね。ダークスフィア!!」
イフリートが、闇の球体をはるか上方に放ちました。
その先は洞窟の天井。その真下にはミルザ達。炎の壁は、正面から来る攻撃は防ぎますが、上からの崩落は・・・
タイラント「舐めた真似を!」
タイラントくんが振りかえり、大斧を投げつけました。それは火の鳥と化し、闇の球体に当たり相殺しました。

イフリート「死ネ!!」

ザシュッッッ!!

そのスキを逃さず、イフリートがタイラントくんの背後から・・・左胸を拳で打ち抜きました。

ワイルちゃん「タイラントくーーん!!!」

セージ「アハハハハ!!バカだ!バカがいるよ!!アハハハハハ!!」

しかし、狂ったように笑うセージも、何か違和感を感じました。
イフリートが、凍りついたように動かないのです。
同時に、タイラントくんもまた、ウンともスンともいいません。

すると、左胸を打ち抜かれたはずのタイラントくんが、首だけでゆっくりと、ゆっくりと振り返りました。
その顔の左半分、いえ、それだけではありません。打ち抜かれた左胸を含む、タイラントくんの左半身が――――


――――龍骨を携えた、燃え盛るただの『炎』になっていました。


イフリートが放った、体を貫いたと思われた今の一撃は、
炎と化した半身の中に腕を突っ込んだにすぎなかったのです。

タイラント「これが、火のモードで『ある』こと。炎そのものであるということだ。」

そのままタイラントくんは半回転し、イフリートの懐に・・・一撃が届く位置に滑るように入り込みました。
同時に、炎と化した半身が元に戻り、再び完全に人化します。
セージ「・・・くっ、イフリート!相手はまだ武器を練成してない!炎を生み出す前に叩き潰せ!」
タイラント「炎を生み出す?その必要は、ない。」

そしてタイラントくんは、イフリートの体の前に、スッ、と手を伸ばしました。
その手の先には、イフリートの炎の盾があります。
その盾に、タイラントくんは静かに、静かに手を添えました。

次の瞬間、タイラントくんは添えた手を握り締め、引っ張りました。
その動きに合わせるようにイフリートの炎の盾が収束し、一本の棒のような形となっていきます。

タイラント「貰うぞ。」

タイラントくんはそう呟くと、一気に腕を引きました。
腕を引ききった時には、イフリートの炎の盾は燃えカスのようになり、
それを代償に、タイラントくんの腕の中には一本の両手斧・・・君主の大斧が握られていました。

セージ「・・・バカな。」
タイラント「炎を創造し、炎で練成し、炎を操作し、炎と同化し、炎を略奪する。
       ――――――これが、『炎を支配する』ということだ。」

そしてタイラントくんは、イフリートの胸の辺り、ワイルちゃんの一撃の跡が残る部位を確認しました。

タイラント「狙いはそこか。では、味わうがいい。

       ――――――――零距離からの、破砕流をな!!!!」

イフリートの縮退砲が、上から打ち下ろされます。
しかしそれより一瞬早く、タイラントくんが全身を捻りながら、大斧をイフリートの胸に叩き込みました。

君主の大斧を槍のように叩き込むと同時に、地面を思い切り蹴ります。
爆音が響き渡り、タイラントくんはイフリートごと、壁に向かって突進していました。

タイラントくんの全身が赤く輝きます。
全身のオーラが渦を巻き、螺旋の形をもって、斧の一点に力を収束しています。
そのまま2人は恐るべきスピードで、そう、正に流星のように突っ込んでいきました。

大斧を通して、イフリートの皮膚が、筋肉が、骨が、内臓が、螺旋にねじれ、へし折れていきます。
そのままコンスタンツ捕獲場所の壁を突き破り、通路に出て、さらに通路の反対側の壁に向かっていきました。

爆音が響き、洞窟全体が大きく揺れました。

その残響音が余韻となって残るなか、カツン、カツン・・・と、2つの糸石が落ちる音が静かに聞こえました。



次の瞬間、ミルザ達を守っていた炎の壁が低くなっていき、地面に溶けるように消えました。
ミルザくんが、オイゲンくんが、ミニオンズが、通路にぱたぱたと出てきます。
そこには、胸に大斧を突き立てられて、壁に埋め込まれたイフリートと・・・

タイラント「――――終わったぞ。」

水と闇の糸石を拾い上げた、タイラントくんの姿がありました。
タイラントくんは、そのままミルザに糸石を手渡しました。
タイラント「しっかり持っておけよ。これはお前が勝ち得たものだからな。」
ミルザ「タイラントくん、ありがとう・・・でもどうしてここに?」
タイラント「うーん、まぁ火のルビーには、我も少々ワケ有りで、な。」
ミルザ「そうなんだ。あ・・・イフリート先生・・・は・・・?」
タイラント「殺してはいない。全くタフだよ奴は。だが、このまま放置もできまい。」
そう言うとタイラントは、指をパチン、と鳴らしました。大斧が炎のムチに変化し、イフリートを拘束しました。



タイラント「さて、と。」
そう言うやいなや、タイラントくんは一直線にヘイトちゃんの方に歩み寄ると、ヘイトちゃんの襟首を掴み、
タイラント「ちょっと来い。色々聞きたいこともあるからな。」
そう言って、コンスタンツの捕獲場所まで引きずっていきました。
ヘイトちゃん「あ、あひゃ〜〜〜jfぁjdぁfjぁj!!」


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