第17話「ツー・ムーン・ラブ!」

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鬱葱と生い茂ったジャングルの夜に大きく浮き上がる赤い月と白い月。
夜が濃くなり限りなく闇に近づくにつれ、二つの月は光を増し、そして惹かれあっていきます。

???「ああ〜、ウゼェ。ウゼェウゼェウゼェうぜぇうぜぇうぜぇ。」
夜を見上げながら、男は呟きました。
???「ストレス溜まるぜ。トロトロしやがって、このまん丸が!
     タラタラしてねぇで、さっさとくっつけよ!待ってる俺様の身にもなってみやがれ、カスが!」
男の仮面から覗く目が、闇に不気味に赤く輝きます。
???「疼く・・・あぁぁ滾る・・・これ以上放置プレイされたらブッ壊れかねねぇぜ・・・!」
声を震わせながら、男は己の背丈ほどもある大剣を思い切り石柱に叩きつけました。
激しい音を立てながらも石柱はまるでバターのように見た目軽々と斬り裂け、その体を二分にしました。
???「ああァ・・・うぜぇうぜぇうぜぇ」
怒りをぶつけるように落ちた石柱の頭に何度も剣を叩きつける仮面の男。
石柱はやがて原型がなくなり数多の砂と同化します。それでも彼は剣を叩き下ろすのをやめません。
ガッガッ、と鈍い音が闇に響き渡り四散していきます。
???「これだけオレをイライラさせておいてこのまま何も起きずに夜が明けちまうなんてことが起きたらよォ・・・
      あのゴブリンはぶっ殺し決定だな。・・・あのいけ好かない目をグリグリ抉って・・・ククク」
こもった笑い声を上げ続けます。
???「・・・おろ?」
ふと笑いを止め、キョロキョロと辺りを見回し始めます。
それと共に、その周辺の空間の一端から突如闇にも目立たぬ漆黒の鎧が音もなく姿を現しました。

――カヤキス。

カヤキス「ここか・・・ここが二つの月の神殿。月の糸石ムーンストーンの隠れ家・・・
      そしてここへ二つのシンボル・・・あのモンスターどもと・・・」
一人呟き始めるカヤキス。
カヤキス「まったく、なぜこうも恋路には障害が多いものなのか・・・
      障害が多いほど萌える、いや、燃えるなんてどこのアホが作った言葉だ。
      燃えるどころかもはや興ざめだ、おなかが痛いぞチキシヨウ
      ・・・・・・――――!?」
カヤキスは、咄嗟に、ほとんど意識する前の本能のようなもののみで素早く上体を反らしました。
それからほぼ同時とも言えるほど緊迫した時間差で、一瞬前にカヤキスの首があった場所に閃光が走りました。
暴力的な――
カヤキス「・・・!?・・・!・・・!??」
何が今自分の目の前を通り過ぎたかを理解するのは、ヤツが言葉を発したその後でした。

???「よく避けたじゃねーの。スペクター。」

カヤキス「お前は・・・」
カヤキスの視線の先には、ヤツが立っていました。
顔全体を覆う銀色の仮面。その中心のわずかな隙間から覗く赤いまなこ。細長い腕と小さい体に不似合いな巨大な剣。
――あの剣が今目の前を・・・避けるのが少し遅れていたら・・・――
恐怖に浸りかける前に、仮面の男が話しかけてきました。
???「お前とこんなとこで会えるなんて思いもしなかったぜ。
      ・・・俺は?そう、六将魔『死神』、ソードスレイブ。久しぶりだなぁ?『隠者』スペクター?」
カヤキス「(ソードスレイブ・・・死神・・・将魔・・・)・・・久しぶりだな。
       だが久々の感動の出会いにしちゃ、少々過激すぎたような気もするが?」
ソードスレイブ「今のはちょっとした挨拶代わりさぁ。何かしばらく見ない内に随分印象変わったじゃん。」
カヤキス「挨拶代わり、か・・・その割には殺す気満々だったようだが?」
ソードスレイブ「カカカ。俺さぁ、今色々とストレス溜まっててよぉ。ついちょい正気失ってぶっ殺しモードになっちまったんだわ。悪いな。」
仮面の男は、大剣を器用にクルクルと回しおどけて見せました。
カヤキス「・・・全く、無責任なヤツだな。行動と発言に責任を持てぬものは将来痛い目に会うぞ。失恋、散財、友の裏切り・・・おーこわ。」
ソードスレイブ「あいにくだけどそんなもんは生前ぜーんぶ経験しちまったもんでね。もうその忠告は遅ぇよ。」
カヤキス「・・・大したものだな。私も堂々と不幸自慢のできる男になりたい。不幸は慈愛を目覚めさせる・・・
      不幸な男と哀れむ女。やがてそれは愛の鎖となり、そんな男女がよく長続きするというはなs」
ソードスレイブ「まぁそんなつまんねー話はおいといて。
          スペクターよぉ。おまえさあなんでここにいるワケ?俺の仕事の代わりでもしてくれようってハナシ?」
カヤキス「いや、違う。・・・特に用は無かったのだが・・・いや、あれだな。
      傷心旅行みたいなまぁそんな類の感じのアレだよ。そう、アレ。うん。
      ・・・まぁそんなことはどうでもいいんだけどさーつまりお前は、ここで何をしているのだ?」
ソードスレイブ「仕事さ。あの二つの月が重なった時に神殿の扉が開くってんでな、ここで待ってるんだ。
         神殿の中には月の糸石があるってハナシなんだが・・・もうどんくらい待ったかワカんねぇ。
         ったくよぉ。夜は長げぇ。無駄にな!
         あの野郎・・・もう少しってどんだけ長ぇもう少しだよ。
         もう少しってのはなぁ、一分や二分そこらの事を言うんだ・・・あー、うぜぇうぜぇ」
カヤキス「・・・誰だ?」
ソードスレイブ「は?」
カヤキス「お前にその仕事を任せたヤツだ。
      ・・・もしや、全身ピンク色の陰険な顔したむかつく感じの、そのめっちゃむかつく感じのゴブリンじゃなかったか?」
ソードスレイブ「・・・そう、それ。あのめっちゃむかつく感じのな。・・・なんで知ってんの?」
カヤキス「なるほど・・・そうか。・・・それは」
瞬間でした。



金属と金属のぶつかりあうけたたましい音が、高々と響き渡りました。
それは、カヤキスの持つカヤキスの鉾と、ソードスレイブの持つ大剣の間から出た音でした。
ソードスレイブ「・・・おい。・・・何のつもりだ?」
カヤキス「・・・よく防いだな。完全に不意をついたつもりだが・・・流石は将魔、とでも言うべきかな?」
感情を微塵も表さぬ声で低く呟くカヤキス。
ソードスレイブ「・・・ケッ。」
歯をぐいと剥き出しにし笑います。
ソードスレイブ「・・・冗談にしちゃあ笑えねぇなぁぁ、オイィィ!!!」
ソードスレイブの大剣が、ギリギリとカヤキスの鉾を押し返し、そして勢いよく弾き返しました。
カヤキス「くっ!」
体制を崩すカヤキス。
ソードスレイブ「死んじまっても俺は知らねぇぜェェェ!!!」
闘気が拡散し、ソードスレイブの体が宙を舞います。
ソードスレイブ「ヴァアァァンダレアァァイイズゥゥゥゥ!!!!!」
狂った猛り声を上げながらカヤキス目掛けて落ちてくるソードスレイブ。
その手の大剣に、闘気の光線が収束していきます。
カヤキスはすぐにその場から飛びつくようにして離れました。
一瞬後に、一瞬前カヤキスがいた場所にソードスレイブの大剣が憂慮無く叩き下ろされます。
耳をつんざく爆発音と、目をつらぬく閃光が空間を支配しました。
カヤキス「・・・!!(なんだ、この威力は!・・・直撃していたならば、鎧ごと・・・怨念の装甲ごと断ち切られていた・・・)」
カヤキスはすぐに立ち上がり、鉾を構え直しました。
立ち上る煙の下から、ソードスレイブが大剣を構え突撃してきます。
ソードスレイブが大剣を振り上げると同時に、カヤキスは槍をソードスレイブ目掛けて突き出しました。
ソードスレイブ「おっ?」
直撃が一度。ソードスレイブが少し怯みます。
カヤキスは間髪いれずに二撃目、三撃目を繰り出しました。
突きの雨が、ソードスレイブの体を捕らえます。
上体が徐々に後ろにのけぞっていき、そして大剣がゴトリと鈍い音を立て背後に取り落ちました。
カヤキス「(これでとどめだ。)」
ソードスレイブの剥き出しの脊椎目掛けて、思い切りなぎ払いを繰り出します!

ガッ

カヤキス「・・・ぐっ、何?」
カヤキスの鉾はソードスレイブの体には達していませんでした。
鉾と体の間に、ソードスレイブの手が二つ。
ゴツゴツした指で鉾をしっかり掴んでいます。
カヤキス「素手で私の一撃を止めた・・・?」
仮面の下から覗く口が、にわっ、と笑みの形を浮かべました。
ソードスレイブ「カーッ。まったく、響くねぇ。」
腰の骨が軋みます。

ガンッッ!!

とてつもなく鈍く、硬い音が響き渡ります。
ソードスレイブの突き上げた拳が、カヤキスの鎧の腹部を絶妙に捉えていました。
カヤキス「・・・・・・」
ソードスレイブ「・・・何だよ。」
ブオッ
カヤキスがソードスレイブ目掛けてその鉾で勢いよく足払いを繰り出しました。
跳躍して足払いを避けるソードスレイブ。そのまま何歩か後ろに跳び退り、床に突き刺さる大剣を拾い直しました。
真っ直ぐ、カヤキス目掛けて剣を構えます。
ソードスレイブ「貫けると思ったんだがな。かてぇかてぇ。」
カヤキス「・・・何という拳だ。角度、スピード、腕力、全て申し分ない。まったく、本当にモンスターの繰り出す攻撃とは思えんな。
      ・・・私の着ていた鎧がこのカヤキスの鎧でなければ、確実に貫かれていた。」
ソードスレイブ「俺の拳は羅刹の拳。一撃必殺の拳さ。・・・今まで壊し損ねたモンはなかったんだがな。
          ・・・こっちもそうだ。この剣。『羅刹の剛剣』。」
ソードスレイブの持つ大剣が、微かに熱を帯びていきます。
ソードスレイブ「さて、こっちはどうだろう!?」
『羅刹の剛剣』の刀身から、炎が燃え上がりました!
カヤキス「・・・!(痛手どころでは済まぬやもしれぬな。・・・無駄な怪我はなるべく避けたいところ、ここは・・・)」
ソードスレイブ「ひぃやっはああぁぁぁ!!!」
燃え盛る剛剣が、カヤキス目掛けて振り下ろされます!

ブン

ソードスレイブ「・・・な、にぃ?」
ソードスレイブの剣が捕らえたものは、”空”でした。
目測を誤ったわけでも、避けられたのでもありません。
カヤキスは、跡形も無くこの場から消えてなくなっていました。
ソードスレイブ「・・・・・・・・・そう、来るワケ。
         ・・・・・ちくっしょおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
燃え盛る剛剣を、思い切り地面目掛けて振り下ろしました。
一度だけではなく、二度、三度、刀身にありったけの怒りを込め何度も地面を叩きつけます。
ソードスレイブ「スペクターのクソ野郎・・・何だってんだ一体、テメェで喧嘩売ってきた癖に逃げやがって・・・!!
         なに考えてやがんだ、クソが・・・!寸止めはイチバン体に悪いってのによォォ・・・!うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇ」
大剣の炎の勢いが一層増してきます。
ソードスレイブ「次会ったら即消してやるぜスペクタァァァ!!!!」

夜にソードスレイブの猛り狂った遠吠えが深く響き渡りました。



冥部。
ミニオンちゃん三人にスペクターくんとアルを加えた五人が、もぬけの殻となっている冥部を前に呆然と立ち尽くしていました。

ワイルちゃん「サルーインちゃんさまがいない!!デスちゃんさまも、シェラハちゃんさまも・・・」
ヘイトちゃん「ほぉぉんとだわぁぁぁん☆;:!!
        サルーインちゃんさまが元気になったってんでお祝いにどっか遊びにいっちゃったのかなあぁ@?;:、」
スペクターくん「女性のみでの夜間の外出はすっごい危ないっていうのに!!
          まったく、なんて危険に鈍感な姉妹なんだ、両親は彼女達に一体何を教えて育ててきたんだ!」
ストライフちゃん「大丈夫、あの三姉妹についてそのような心配は全くいらん。」
ヘイトちゃん「というかなんつーかその危険の方が心配だわぁん。%:・
        あの三姉妹を狙っておいて無事に家に帰れたものは一人もいないらしいし?」
ワイルちゃん「それ前シェラハちゃんさまが言ってましたよね。浪々と。」
スペクターくん「一日一回以上は言ってたよね。」
アル「ばっきゃろう、そういう問題じゃねーんだよバカども!
    ・・・・・・とうとう始まっちまったみてーだな。・・・もう時間はあまり無いぞ。」
ワイルちゃん「あっ!もうこんな時間!?早く寝ないと・・・朝は待ってくれませんからねっ!」
ストライフちゃん「やばい!明日マガジンの発売日じゃん!早く寝ないと!
          いや、このまま0時まで待ってコンビ二に行くか・・・?ぐっ、どうする!」
ヘイトちゃん「ああああぁぁぁぁぁ、夕飯の時間だわぁぁぁぁぁ★&~!@:!!;l:!!!」
スペクターくん「あああああ、僕もぉぉぉぉ!!!僕も・・・僕も、アレ?」
アル「そういう意味じゃねえって!!・・・もちろんお前らにも付き合ってもらうんだからな、逃げんなよ。」
ヘイトちゃん「うっわ、なんかやたら偉そうこのデブ猫。」
ワイルちゃん「カルシウムが足りてないんですね、きっと。・・・さっき道端で骨拾ったんですけど、食べます?」
ストライフちゃん(なにっ、いつの間に!!抜け目ないなワイルのやつめ・・・!)
アル「いらねーーーーよ!!!・・・ったく、人の気知れずのん気な事ばっか言いやがって・・・
    とりあえずエリスに連絡だ!」
ヘイトちゃん「人の気知れずぅぅ???それを言うなら『猫の気知れず』でしょうがぁぁぁ!+‘>!*!!
         まったく、最近の猫はやたら背伸びしたがるわねッ!!」
ワイルちゃん「大人に憧れる年頃なんですよ。」
アル「うるせーーーーーよ!!!」



うつ伏せに倒れているジャミルくんの背中の牙から、声が聞こえてきます。

アル『こいつらの主人が・・・アムトのシンボルが動き出しちまった。二つの月を見比べてみても、猶予はあと二、三時間ってとこだろうな。
   とりあえず俺たちはこいつらの主人を探し出す。時間的にもまだそう遠くには行ってないはずだ。』
エリスちゃん「わかった。気をつけてね、アル。私達を襲った黒い鎧の男がいつ現れるか分からないわよ。」
アル『でーじょうぶだって。・・・それにしても、その黒い鎧の男ってのは何なんだ?何が目的でお前らを襲ったワケ?』
エリスちゃん「ヤツは、赤い光・・・そう、『アムトのシンボル』を欲しているように聞こえたわ。
        エリスのシンボルとアムトのシンボル、両方ではなくアムトのシンボルのみを・・・詳しい事はよく分からないけどね。」
アル『へぇ、変わった奴だな。・・・まぁ、とりあえずアムトのシンボルは俺に任せてくれ。
    アムトのシンボルを確保したらまた連絡するぜ、んじゃな。』
エリスちゃん「わかったわ。・・・本当に、気をつけてね。」

水龍くん「・・・あのさぁ、アルって奴は本当に信用できんの?」
エリスちゃん「ええ。彼は何度か共に死線を潜り抜けてきた私のパートナー。
        とりあえずは信頼できるわ。・・・たまにむかつく時もあるけど。」
水龍くん「げっ、『私のパートナー』とか『たまにむかつく』だなんて、もろフラグ立ってるじゃん!!
      エ、エリスさん、あのですね、あの子とお付き合いするのはおよしなさい。」
エリスちゃん「はぁ?あなたは何を言っているの?
        ・・・それにしても、実は先程から気になることがあって。」
水龍くん「なにっ!ついに私の魅力に気づかれたというワケでございますか。いやはや貴方様もお目が高い。
      よっしゃーー!!気になるなら端っこからまた端っこまで全部教えてあげるよーー!!さぁ、行こう、僕達二人の愛の講義室へ」
エリスちゃん「いきません!まったく、本当になんて人だ・・・こんな人が四寮長だなんて・・・
        他の三人もあなたみたいな人だと思うと!ブルル!
        ・・・それよりも、今二つのシンボルが出来上がったわけだけれども、今回は二つのシンボルに所有者がいない・・・」
水龍くん「・・・えーと、シンボルに所有者がいないっていうのは初めてなのか?」
エリスちゃん「ええ。それどころか私とアムト以外に両方のシンボルの所有者になったものはいなかったわ。
        ・・・今回は今までに比べて例外が多すぎる。何者かの陰謀を感じるの。ドス黒い、悪意に満ちた陰謀が・・・
        おそらく、月の舟で私達を襲ったあの黒い鎧の男が何かを・・・」
水龍くん「あの男も何者かに利用されていたようだったがな。もう一つや二つ裏がありそうだな。」
エリスちゃん「ええ。・・・ともかく、所有者がいないシンボルがどう動くのか、これが分からないの。
        シンボルという本能のままに蝕と共に神殿へ近づいていく・・・これは間違いないはずだけれども・・・
        所有者がいないと言う事は野放しにされた狂犬も同じ。
        もし何者かが不用意に近づけば、いや進行を阻止しようと近づけばシンボルは・・・」
水龍くん「どういうことだい?」
エリスちゃんの声は少し震えているようでした。
エリスちゃん「いえ、これは一つの仮定だけれども・・・可能性は十分にあるわ。
        あの物凄い数の怪物の群れと等しい力を持つはずのシンボル・・・サルーイン。
        ・・・アルの手に負えるのかどうか・・・分からない!」



少し時を遡り、リガウ寮草原にて。
軽く上を向きながらふらふら無言で練り歩くサルーインちゃんを、その二人の姉妹デスちゃんとシェラハちゃんが追っています。
シェラハちゃん「姉さん!聞いてちょうだい、私の声が耳に入っているの?姉さん。
         どこへ行くつもりなの?ねぇ、聞いてる?」
デスちゃん「無視とかそういう次元のものとは思えない、この子がたった半日でこんなにも利口になるとは思えない・・・
       い、いや、も、もしかしてこれはあの守護霊交替現象では!?ああ、何でことだ、サルーインがいい子になってしまうなんて・・・
       いや、それはそれでいいのか?どっちなんだ?利口な方がいいんだよな普通。ばんざーい。ああ、でも・・・!」
シェラハちゃん「私にしてみればお利口すぎて人の話を華麗にスルーするようなサルーイン姉さんはまっぴらゴメンだわ。
         ああ、それにしてもこれもまた一つの不幸なのかしら。はてさて微妙なところ・・・私にとってはこの上ない不幸だけれども。」
デスちゃん「私にとっても不幸なのかも知れぬ。
       やはりサルーインは今までどおり元気で馬鹿で向こう見ずで浪費癖の強いのがイチバンで・・・
       ともかく、止まれーーーサルーイン!!夜間の外出の際はキッチリ誰と遊ぶのか
       場所はドコなのかいつごろ帰ってくるのかをちゃんと私に伝えてからにしろーー!!」
デスちゃんが、サルーインちゃんの手首をガシッと掴みました。

サルーインちゃん「ハ・ナ・セ」

デスちゃん「えっ?」
瞬間、サルーインちゃんの体から膨大な魔力がドッと噴出しました。
デスちゃん「うわっ!!」
何かに突き飛ばされたように、デスちゃんが勢いよく後方に吹き飛びました。
シェラハちゃん「デ、デス姉さん!?」
デスちゃんに駆け寄るシェラハちゃん。
デスちゃん「サ、サルーイン・・・?」
シェラハちゃん「ね、姉さん、一体何を・・・!・・・・・・!!」
立ちすさぶサルーインちゃんの顔を見て、シェラハちゃんは言葉を失いました。
あんぐりとだらしなく開いた口。生気なく剥かれた白目。
そして微かに赤い光がサルーインちゃんの体を纏っていることに、その時シェラハちゃんは初めて気づきました。

シェラハちゃん「ね、姉さん・・・い、いったいな、なにが・・・」
サルーインちゃん「ワタシハシンデンヘ・・・フタツノツキノシンデンヘ・・・イカネバ・・・ナラ・・・ヌ・・・
          ツキガマジワルソノトキマデニ・・・シンデンヘ・・・ユウゴウ・・・・」
抑揚の無い声で、サルーインちゃんが言います。
デスちゃん「な、なにを言っているんだ、サルーイン・・・!?」
デスちゃんはバッと立ち上がると、再び歩き出そうとするサルーインちゃんの体をガシッと掴みました。
デスちゃん「おい、しっかりしろ!!どうしたんだ!!正気はあるのか!?おい、サルーイン!返事をしろ!!」
サルーインちゃん「ジャマヲ・・・シナイデクレ・・・!」
デスちゃん「サル・・・・・・!!うあ、うわあああああああ!!!!」
サルーインちゃんの周辺に、突如巨大な竜巻が発生しました。
デスちゃんが竜巻に飲まれてゆきます。
シェラハちゃん「デ、デスねえさーーん!!!・・・一体何を、サルーイン姉さん!
           ・・・仕方ない、ここはもう漆黒の帳で・・・!目を覚まして、サルーイン姉さん!」
シェラハちゃんが術の構えをとった瞬間です。
途轍もなく巨大な水の塊が、足元からシェラハちゃんを空高く突き上げました。
シェラハちゃん「ひゃっつ、きゃああああああ!?」
シェラハちゃんとデスちゃん。二人同時に草原の地面にドサリと力なく落下しました。
静寂が空間を包みます。

サルーインちゃん「ハヤク・・・ハヤク・・・」

サルーインちゃんは振り返りもせず、またふらふらとどこかへ歩き始めました。
その虚ろな目は、常に月を見上げているようでした。



水龍くん「器の・・・暴走。」
エリスちゃん「そう。所有者がいないシンボルは、ただ融合という定めだけに取り付かれ行動する。
        そしてそれを邪魔しようとするものには・・・全力で排除をしにかかる。」
水龍くん「なるほどー、つまり、今のシンボルは心無い機械人形と化しているわけだ。」
エリスちゃん「そういうことね。・・・とても厄介だわ。
        アルが敵うかどうか・・・いや、それ以前の問題ね。・・・サルーインを傷つけるわけにはいかないもの。」
チラリと一度脇目でミルザくんを捕らえます。
水龍くん「確かにな。事情が事情とは言えレディーを傷つける行為は第一級の罪!女性の肉体は世の神秘であり
      無条件でこの世の遺産とされるのが当たり前なわけでそしてそれを保護するのが私の役目であって
      要するにエリス!君の肉体は私が末代まで保護してあげるよ!さぁ、私に全てをゆだねて・・・」
エリスちゃん「ああ、もう止めてよそうやって余計な事ばっか言うの!
        ・・・ほんとうに、どうしよう。サルーインを傷つけずなおかつ融合を阻止する方法・・・
        そして、シンボルの融合無しにあの神殿の扉を開く方法・・・
        全て、今まで私が考えた事もなかったことだわ。
        ・・・・・・でも、アムトなら・・・もしかしたら・・・やっぱり、アムトを探すしか・・・」
水龍くん「アムトを探すのかい?・・・一人では大変な作業だろう、私も手伝うとしよう。
      ・・・私と水の精達の協力があれば、女子一人探し出す事なんてたやす・・・
      まぁ、そんな容易い事ではないけれども、難しくは?ない?かもよ?」
エリスちゃん「ありがとう。水龍くんの力があれば百人力よ。
       ・・・じゃあ、私は行くわ。今は一秒の時間も惜しい・・・」
水龍くん「そうだな。私がアムトを見つけたら手近な水の精達に君にすぐ伝えさせる。
      エリス。君がアムトを見つけたようなら、いや、それ以外の事でも何か私に用ができたならば・・・
      そう、これ重要だよ!・・・これで私を呼んでくれ。」
水龍くんは眠っているジャミルくんの腕から『水龍の腕輪』を引っぺがしエリスちゃんに手渡しました。
水龍くん「その腕輪に呼びかけてくれば、私はいつでも君の前に現れるよ。
      あ、そうそう、呼びかけるときはなるべく、というか絶対ありったけの愛を込めt」
エリスちゃん「分かった!じゃあ、私は行くわ水龍くん。・・・敵の奇襲には気をつけて。」
水龍くん「分かった。・・・・・ミルザ達は・・・」
エリスちゃん「神殿が開くまで・・それが無理なら、最低でも次の朝日が昇り平和が戻るときまで・・・あの子達には眠っててもらう。
        もうこれ以上あの子達に迷惑や面倒はかけられないもの・・・」
水龍くん「神殿が開くまで?それはどういうことだ、融合が成功しなければ神殿が開く事はないんだろう?」
エリスちゃん「・・・いえ、もしかしたら・・・あるかもしれないの。融合させずに神殿を開く方法。
        そしてそれは、私とアムトが揃っていれば・・・実行できるような気が・・・」
水龍くん「大丈夫か?エリス。お前の言っている事には不確定要素が多すぎるぞ・・・」
エリスちゃん「ええ。分かっているわ、分かっているけど・・・分からないの。」
水龍くん「どっちだよ!・・・でも、・・・ああ、なんていうかその、エリス、今のきみ、凄くイイ・・・!」
エリスちゃん「じゃあ、水龍くん!アムトを探すわよ。くれぐれも気をつけて。」
水龍くん「よし分かった、エリスも気をつけて!数分で見つけてきてやる!」

二人の姿が闇夜に消えました。



ミニオンズ「ええええええええええええええ!!!!!!?????」
月の下、夜の草原に三人の女子生徒の絶叫が響き渡りました。
ワイルちゃん「そそそ、それは本当なんですか!?サササ、サルーインちゃんがぁ・・・」
スペクター「そそそそ、そんな大変な事が・・・!サルーインが・・・!」
ストライフちゃん「なんでそれを早く言わなかったんだ!!どどど、どうするんだよ!!」
ヘイトちゃん「チィィィィ、てめぇこの猫ォォォォ!◎!!何でそんな大事な事言わなかったんじゃああああああ;;。l:。p」l;。!!!」
アル「あーもー、うるせーな、言ってる暇がなかったんだよ!
   ・・・まぁ、つまりこのまま黙ってたらアンタらのご主人様は二つの月の下恐ろしい怪物に生まれ変わっちまうってことだ。
   それを阻止するためにはとりあえずお前らの主人を見つけないといけねーわけだが・・・」
ワイルちゃん「ままままさかそんな大変な事が起こっていただなんて・・・
         ああ、なぜあの時サルーインちゃんさまが倒れたとき私はここまで想定しなかったのでしょう!!
         私のこの鈍い頭が憎い・・・憎い・・・」
ストライフちゃん「そう自分を責めるな、あれだけでここまで想定しろという方が不可能なハナシだ。」
ヘイトちゃん「キーーーッ!!!ワイル、あんたのせいよぉォォォ!!★純ヨ!!!この鈍感!@!めがね!!わかめがね!!」
ワイルちゃん「ひぃぃぃぃ!!私ったら伝説級のめがね無知無能馬鹿ーーー!!!」
ストライフちゃん「いや、煽るなよヘイト!!」
アル「まったくよー、取り乱しすぎだぜおめーら。」
ストライフちゃん「おい、アル!・・・おまえはなぜここまで状況を・・いや、それはあえて聞くまい、時間の無駄だものな。
           ・・・一つ質問していいか?・・・サルーインちゃんさまは助けられるのか?今は、お前だけが頼りなんだ!」
アルをまっすぐ見つめ、ストライフちゃんが言います。
アル「・・・ああ、まぁな。俺っちに任せときゃー、アレだ、万事大丈夫よ。・・・っつーワケでもねーなー。
   まぁ、でもできるだけ尽くしてやるさ。学園の危機だし・・・それに、お前には毛並を艶やかにしてもらった礼をしないといけないしな。」
ストライフちゃん「!!」
ヘイトちゃん「・・・んーー??」
ヘイトちゃんと目が合います。
ヘイトちゃん「なんだろうねぇ、毛並?艶やか?ストッライフちゃん私達がいない所でその子猫ちゃんと何をしてたのかなぁ??」
その声の調子は、ねちっこさが普段より二割くらい増しているようでした。
ヘイトちゃん「愛玩動物は嫌いとか言ってなかったけぇえ???わーたしのきき〜まちがいかなぁぁ〜〜〜????」
ストライフちゃん「そ、そうだ、私はこんな人に媚び媚びた生物がだいっきらいなのだ
           めっ、か、勝手に出鱈目抜かしおって、このネコめが、くっ、」
ヘイトちゃん「あれれぇ〜〜??なんかストッライフちゃんったら様子がおかしいなぁぁ〜〜〜」
ストライフちゃん「だ、黙れ!!」
アル(・・・なるほど、こういうことねぇ。)
ワイルちゃん「も〜〜っ!!!二人とも、というよりヘイトちゃん、そんな事はどうでもいいでしょ〜〜〜っ!!」

アル「・・・サルーインが向かったのは『二つの月の神殿』だ。
    二つの月が重なるその時、アムトのシンボルとなったサルーインは、いまエリスのシンボルとなっている
    モンスターの群れと融合し、怪物になっちまう。・・・ここまではいいだろ?」
ストライフちゃん「ああ。」
ヘイトちゃん「怪物と融合したサルーインちゃん・・・ちょぉっとだけ見てみたい気もぉぉ・・・★」
スペクターくん「なんか融合しても性格とかは大して変わらなさそうだよねッ♪」
ワイルちゃん「ちょ、なにを縁起の悪い事を言ってるんですか!!」
アル「ここ(リガウ寮の草原)から神殿までは長い長い海を渡る事になるな。
   おろ、シンボルはどうやってワロン島まで行くつもりなんだ?意識のない人形が船を使うとは思えねーな・・・」
ワイルちゃん「ですね。・・・あ、ま、まさか海を泳いで・・・!?それはイカンですよ!!サルーインちゃんさまはカナヅチなんですよ!?」
ストライフちゃん「あっ、そういえば!!いかん、サルーインちゃんさまが溺れ死ぬ!!」
ワイルちゃん「えぇぇぇーーーーーーっ!!??しし、し、し、ししし、死ぬぅぅぅ!!?
         し、死ぬのはダメですって、死ぬのならまだ怪物になった方が・・・」
ヘイトちゃん「それはダメえれしょぉぉ@:!!あのお人が怪物になったら学園の、
        いや世界の、いや宇宙、果ては銀河系の危機よぉぉ!@!f!!」
スペクターくん「ぎ、銀河全体がサルーインの物に・・・!?ひ、ひぃぃぃ!!見えない、見えないよ!!
          不思議だよ・・・いつも手の届く場所にあったのに・・・今日は・・・見当たらないんだよ・・・明日が・・・」
アル「あーーーーーーー、もーーーーーーー、黙れ落ち着けーーーーーー!!!どうしててめーらこうも騒がしいんだ!!!!!
    俺はこうやってる間にもあれこれ考えてんだよ、雑音は思考に支障をきたすんだよ、黙ってろ!!
    せめて静かにしてろバカども!!」
ヘイトちゃん「バカ!?くっ、このデブ猫めっ!!」
アル「・・・ともかく、サルーインは海を渡っていると考えていいだろうな。
   泳いでか・・はたまた歩いてか・・・まぁ、そんな事はどうでもいいんだけれども。
   ・・・いけねーなーぁ、場所が海だとすると手の出しようがねぇ。最悪の場合はワロンのジャングルで・・・
   さすがにそれでは遅すぎるか?いや、どうだろう・・・?あーっ、くそっ!!」
スペクターくん「・・・えーっとさぁ。アル。」
アル「あん?」
ガリガリと頭の裏を掻きはじめるアルに向かって、スペクターくんがたずねます。

スペクターくん「まだ分からないことがあるんだよね。融合を阻止するっつーけど、つまり具体的にどうすりゃいいわけ?」
アル「ああ、つまりだなぁ、サルーインを神殿の前でもう片方のシンボル、つまりモンスター達と会わせなきゃいいってハナシだよ。
   月が交わっているその間、俺達はサルーインを保護し、交わりが終わるまでにどこか遠い所にやっときゃいい。
   それだけでいいのさ。」
スペクターくん「ふぅん。・・・一筋縄じゃいきそうにないねぇ。」
アル「ん!なんだ、そうか、お前らオレの力をまだ知らないんだなー?
    オレ様が少しと本気になりゃー、ちょいと魔力が高いだけの女子供の一人くらいちょちょいと・・・」
スペクターくん「あいつを見くびっちゃいけない。”ちょいと”じゃないんだよ、”ちょいと”じゃ。あいつの魔力は・・・
         だいたい近くにいるけど、常に感じるんだよ、彼女の内に秘めた莫大な無尽蔵な魔力・・・。
         あれだけの魔力を潜めているような者は、僕は彼女に会うまではたった一人しか知らなかった。」
アル「・・・たった一人、だって?」
スペクターくん「そう。・・・その男は・・・・・・神にも立ち向かえる力を持っている。」
アル「!」
アルの顔が強張ります。
ストライフちゃん「神、って・・・」
ワイルちゃん「正気ですか、スペクターくん?・・・あなたは一体・・・」
スペクターくん「そう、正気。だからこそ不安が拭えないんだ。・・・潜在能力なんてものは引き出そうとしなければ引き出せないものだ。
         いくらその者が莫大な潜在能力を秘めていようとも、本人がその気にならなければそれは開花されないまま消える。
         その気になっても並大抵の事では開花しない。何をしても開花しないかもしれない。
         ・・・ただね、あるんだよ、憑依されたり乗っ取られたりするとさ。その間潜在能力が目覚めてしまうって事が・・・
         ・・・そして。その能力に肉体がついていけず・・・自滅してしまう、なんてことも・・・あるんだよ。」
アル「・・・!!」
ワイルちゃん「・・・・・・・・そんな・・・」

スペクターくんの無情な宣告が、場に静寂と絶望を呼び込みました。

アル「・・・・・・でも。」
アルが口を開きます。
アル「そりゃあくまで一つの可能性だ。まだサルーインが俺達に危害を加えると決まったわけじゃねぇ。
    そもそも、元々シンボルは無害なもんだ。自滅だとかそんなことねーって、安心しろ!」
ワイルちゃん「・・・で、ですよね!そうですよね!」
ストライフちゃん「そ、そうだ、アルの言う通りじゃないか。
          何もサルーインちゃんさまは邪悪なる者に乗っ取られているわけじゃあないんだしな!」
ヘイトちゃん「そ、そりゃそうよねぇぇ★!!ホラ、みんな何よ一瞬静かになっちゃったりしてさぁ!@!::!!m!
         バッカじゃないの、あははははは:○!#$!! ほら、スペクターあんた謝りなさいよ!★」
スペクターくん「ご、ごめんみんな、不安にさせちゃったりして!僕ったら色々物事には突っ込んで考えちゃうタイプだからさぁ、その・・・」
ワイルちゃん「もう、スペクターくんったら!あはははは・・・あ?」
ふとワイルちゃんの目が、夜の先にあるその二つの影を捕らえました。
ワイルちゃん「デスちゃんさま!!シェラハちゃんさま!!!」

ヘイトちゃん、ストライフちゃん、スペクターくん「!!?」



ワイルちゃんの目線の先には、デスちゃんシェラハちゃんの姿が確かにありました。
夜に黒く染まった草の上に、力なく仰向けに横たわっています。

ワイルちゃん「ど、どうしたんですか!何が!いったい、何が!?」
ストライフちゃん「・・・!!!!!な、なぜ!だ、誰に!?」
ヘイトちゃん「いやあああああああああ!!!!!!!!」
スペクターくん「二人とも!?」
四人が一斉に駆け寄ります。
ストライフちゃん「だ、大丈夫ですか!?返事を・・・返事を!」
スペクターくん「起きて!!何があったんだ!!」
ヘイトちゃん「まさか、死・・・いやああああ!!目を覚まして!!」
ワイルちゃん「デスちゃんさまあああ!!!シェラハちゃんさまあああ!!」
唐突すぎるワケわからない状況に、これまでにないほど混乱し取り乱す四人。
呼びかけても揺さぶっても微動だにしない二人の体と顔。
絶望が募っていきます。
アル「お、おいおい、どうしたってんだ一体!」
ただならぬ四人の取り乱し方に、アルも困惑し始めます。
ストライフちゃん「デスちゃんさまとシェラハちゃんさまだよ、サルーインちゃんさまの姉妹の・・・
          姿を消していたと思ったらこんな所で・・・」
アル「いや、分かるけどもさ、・・・・死んでる、のか?」
ワイルちゃん「死んでいるなんてそんな物騒な事!!
         ・・・いや、でも、返事がないんです、きっと気絶してるだけですけど・・・でも!」
ヘイトちゃん「そうよぉぉぉぉ!!!★ し、死んでるワケないじゃなぁい、
         なんでいきなり死んでなきゃならんないのよおおぉぉう!!!」
スペクターくん「・・・そうだ、生死を確認すればいいんじゃないか。
         みんななんで真っ先に生死を確認しようとしないんだよ。」
スペクターくんがデスちゃんの胸に耳を近づけました。
ミニオンズ「やめろ!!」
スペクターくん「へっ!?」
驚くスペクターくん。
ミニオン三人も驚いたようで一度顔を見合わせました。
スペクターくん「・・・な、なんでだよ。ビックリさせないでよ。」
ヘイトちゃん「・・なんだか、ダメな気がするのよぅ、それ。」
ワイルちゃん「・・・そ、そうそう、二人とも生きているんだから・・・確認なんて、する必要、ありませんよ。」
ストライフちゃん「そういう、ことだ。だから今更そんな・・・確認する必要なんて、どこにも・・・」
三人の声は震えています。
スペクターくんはすぐに三人の心中を理解しました。
スペクターくん「・・・何がどうなろうとこれは避けては通れない道だぞ。そういう気持ちもわかるけども・・・」
ヘイトちゃん「で、でも」
スペクターくん「どちらにせよそれが運命だからさぁ・・・。」
スペクターくんの耳がデスちゃんの胸にあてがわれました。
・・・静寂。
・・・

・・・・静寂。

スペクターくんの口の端が少しつり上がります。

スペクターくん「心臓は・・・動いている。」
スペクターくんが静かに、ゆっくりとそう言いました。
スペクターくん「生きてるよ。デスちゃんは生きてるよみんな!!」
歓声が上がりました。
安堵の歓声、安堵のため息、安堵の絶叫。
三つの安堵が空間を支配します。
しかしそれが収まるのは意外にもすぐの事でした。
スペクターくん「・・・そうだよ、まだシェラハちゃんが・・・」
ミニオンズ「・・・・・・」
スペクターくん「まぁ、でもデスちゃんが無事だったならシェラハちゃんも・・・?」
己の言っている事もよくわからないままに、スペクターくんはひょこひょことシェラハちゃんに近づいていきます。
その場にいる全員が同時に息を呑みます。

「姉さん!!」

シェラハちゃんが突然目を覚まし、上体を起こしました。
スペクターくん「え、えっ」
ミニオンズ「シェ、シェラハちゃんさま!!」
再び三人が同時に声を上げました。また一度顔を見合わせます。
ワイルちゃん「よかった、無事だったんですね!」
ヘイトちゃん「大丈夫ですかあああああ!!★pm!!」
シェラハちゃん「あ、あなたたち・・・」
駆け寄る三人に、目を白黒させるシェラハちゃん。
ストライフちゃん「よかった、本当によかった・・・でも、一体何があったんです?なぜこんなところで倒れて・・・」
その言葉に、シェラハちゃんの顔つきがはっと変わります。
シェラハちゃん「そうだ、姉さんは!姉さんは・・・!?」
スペクターくん「デスちゃんなら無事で〜すよ」
シェラハちゃん「そう・・・いや、それよりも姉さん・・・サルーイン姉さんは・・・!サルーイン姉さんはどこへ・・・」
今度はシェラハちゃん以外の四人の顔つきが変わりました。
ワイルちゃん「シェラハちゃんさま、サルーインちゃんさまを探していらしたのですか・・・?」
シェラハちゃん「ええ。あ、いや、正確に言うとそういうわけではなくて・・・ああ、そうよ、とても不幸な事が・・・!
          何がなんだか分からないの。サルーイン姉さんがいきなりしゃべらなくなって・・・外に出て行って・・・」
ピクリと反応するアル。
シェラハちゃん「そうよ、何を言っても聞かないからデス姉さんが手を掴むと・・・サルーイン姉さんがウィンドカッターをデス姉さんに・・・!
         その時のサルーイン姉さんの顔、正気とは思えなかった。そう、何かに乗っとられているみたいで・・・
         そして漆黒の帳を放とうとした私にも・・・サルーイン姉さんは術を・・・ウォーターガンを・・・」
ミニオンズ、スペクターくん、アルにあった一時的なものが瞬時に消えうせ、新たな絶望の灯火だけが点りました。

アル「・・・どうやら、ピッタリ的中しちまったみてーだな。」

シェラハちゃん「くっ・・・」
シェラハちゃんの顔が苦痛に歪められます。
ワイルちゃん「だ、大丈夫ですかシェラハちゃんさま!」
シェラハちゃん「サルーイン姉さんの・・・あんなとてつもない威力のウォーターガンは見たことだって無いわ。
          一回食らっただけなのに・・ああ、体の節々がズキズキ痛む・・・」
スペクターくん「一刻も早くリガウ寮の医務室へ連れて行ったほうがいいね!デスの容態も深刻かもしれない・・・」
ワイルちゃん「では、早く行きましょう!もう時間もあまり無いことですし・・・」
アル「おいおい、大丈夫か?怪我人二人を女三人で運べるのか?」
ストライフちゃん「私は多少力には自信あるのでな、一人くらいなら私一人で・・・」
ストライフちゃんは、倒れているデスちゃんを軽々と抱きかかえました。
ヘイトちゃん「わぁお!!★スットライフちゃんすごぉぉぉい@!□~!!!聞きしに勝る大力持ち☆!!!℃*☆」
         マッスルパーーーゥワーァァ!β!!」
ストライフちゃん「コイツぜってーいつか殺す・・・」

デスちゃんをストライフちゃんが抱え、シェラハちゃんをワイルちゃんとヘイトちゃんの二人が支え、草原を渡りリガウ寮へと向かいます。
そして五人と二匹は無事リガウ寮の医務室へとたどり着きました。
すぐにシェラハちゃんとデスちゃんは奥の部屋へと運び込まれました。
ワイルちゃん「・・・これからどうするんですか、アル。」
医務室の扉の前をうろうろしながらワイルちゃんがアルに問います。
アル「仮にこのチビが言ってた事を全て真に受けてみるとしたら、やべーな。俺たちの太刀打ちできる相手じゃない。
   ・・・それがなくとも、サルーインの場所が確認できねーし、まぁ、とりあえずはワロン寮のジャングルに行くしかねーな。」
ストライフちゃん「ワロン寮のジャングル?・・・そうか、そこに『神殿』があるってわけだな。」
アル「そゆこと。目的地に先回りってコトさ。・・・先回りっつっても・・・
     こっからメルビル、メルビルからワロン寮、
     ワロン寮からジャングルで大分時間使っちまうから先回りになるかどうかも微妙な線だが・・・」
ワイルちゃん「ざっと一時間はかかりますよ・・・かなりやばいんじゃないですか!?」
アル「やばいな。蝕まであと・・・二時間くらいってとこだ。余裕はもう一切ねーな。」
ヘイトちゃん「二時間・・・誰も何もしなかったら二時間後にはサルーインちゃんさまは・・・ヒィィィィィ!!!!」
ストライフちゃん「二時間・・・百二十分・・・!」
ワイルちゃん「百二十分ってことは・・・えっと・・・えっと・・・7200秒ですね。7200秒?たったの7200秒ぉぉぉぉ!!?」
ヘイトちゃん「ちょっとぉぉ、一秒が7200回繰り返されるのなんてすぐじゃないのよぉゥぉぉ!@■!!」
スペクターくん「ああ、こうしてる内にも一つ二つカウントが減っていって・・・!」
ワイルちゃん「あと7192秒!!」
ヘイトちゃん「あと7191びょおおっぉおぉぉふjどfんdgkfdjさlfsd!!」
アル「一々カウントすなやかましい!!さぁ、今すぐにでも、いや、今すぐ行くぜ!」

ワイルちゃん「・・・あ、で、でもデスちゃんさまとシェラハちゃんさまは・・・」
アル「んなのほっとけ、確か命に別状はないんだったろ?」
ワイルちゃん「で、でも・・・」
アル「じゃあお前だけここに残るか?」
ワイルちゃん「それは・・・」
言葉を詰まらせるワイルちゃん。
見かねたスペクターくんが言いました。
スペクターくん「じゃあさー、僕がここに残るよ。僕一人いたってなんか役に立つことあるかっていうと無いだろうし。」
ワイルちゃん「えっ、ホントですかスペクターくん!」
ヘイトちゃん「アンタ一人で大丈夫なのぉぉ???迷子になったり物乞いになったりしないィィィ????」
スペクターくん「大丈夫!僕は実は世渡り術には自信あるんだ。心配要らないよ!ハハッ!」
ストライフちゃん「いや、そういう問題じゃなくてだな。」
アル「そうそう、・・・大丈夫なの?そのガラで。モンスターと間違われて殺されるなんてことも・・・」
スペクターくん「こ、殺されっ!?・・・・・・・・・だ、大丈夫、大丈夫、なんとかまかるって。」
ワイルちゃん「本当ですかぁ〜?殺されちゃったら私嫌ですよ〜」
ヘイトちゃん「大丈夫大丈夫★ しゃべる猫だって珍しがられないこのご時世この学園、
        こんなの一匹いたって簡単には殺されないわよぉぉ!!中b!a」
ストライフちゃん「だな。」
アル「よし、じゃあ決まりだな!さてこれ以上時間は無駄にできねーぜ、いくぜ、まずはリガウ港だ!」
立ち上がり一度ぐいーっと伸びをした後、ダッと駆け出しました。
ヘイトちゃん「よっしゃあああ、行くわよぉぉう!○l*!!」
ワイルちゃん「スペクターくん、じゃあ行ってきますね!」
スペクターくん「よっしゃー、行ってらっしゃいなみんな!!」
ミニオンズも、アルを追って駆け出しました。
・・・人気の無いリガウ寮の廊下に、スペクターくん一人ポツンと残されます。
スペクターくん「・・・・・・・・・」

”ちょっと見て奥さん、なにあの変な生物!殺しちゃいましょ!!”
”あっ、社長あんなトコに見たこと無い生物がいますよ。いっちょ殺してきていいですか?”
”ほげほげ、おや、見たこと無い生物じゃのう。どれ、殺してみるかのう。”
”あっ!あんな所に変な生き物がいるよ〜!ママ、あれ殺していい〜?”

スペクターくん「・・・・・・不安だ・・・」
スペクターくんは泣きたくなりました。


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