第14話「彼女達のお仕事」

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   4

数時間前までは何事も無く、いつもと同じ平和な日常が流れていたメルビル。
しかし、一隻の船がやってきた所から、町の状況は一変しました。
ブッチャー「おめえら!気の済むまで暴れやがれ!!誰を傷つけようが何を盗もうが関係はねえ。
       いいか!徹底的に暴れるんだおめえら!!」
静まり返っていたメルビルは、いまや喧騒に包まれ、
平和だったメルビルは、いまや恐怖で包み込まれています。
大量の海賊が、道行く生徒を襲い、建物に火を放ち、好き勝手に暴れます。
果たしてメルビルはどうなってしまうのか・・・?



フェル「なんという事だ・・・メルビルの寮が・・・!」
宮殿のベランダから、真っ赤に燃え上がる町を見下ろすフェル。
その声は震えていて、ある種の絶望のようなものを感じさせていました。
兵士「陛下!警備隊の数では多勢に無勢です。
   兵の主力はほぼ海賊討伐、ドラゴン狩りに出払っております!」
フェル「では・・・メルビルはこのまま・・・あの海賊達に破壊されてしまうというのか・・・?阻止せねば・・・」
ソフィア「お止めください!!」
剣を取り、ふらふらと部屋を出ようとするフェルを、その側近、ソフィアが押さえつけました。
ソフィア「あなたが戦いに出て、大きな怪我をしてしまわれたらどうするんですか!」
ネビル「そうですよ!では、今すぐコルネリオ達を海賊討伐から帰等させます。
     メルビルは絶対に破壊させません!」
ネビルが部屋の電話機を手に取ろうとした直後に突然、プルルルル、と電話機が鳴り出しました。
ネビル「くそっ・・・誰だこのクソ忙しいときに・・・はい、こちらバファル舎親衛た・・・」
『ネビルさん、大変です大変です!!
神殿、の!神殿から突然黒い影が・・・!黒い影が現れて!!いま宮殿の前に・・・ぐああっ!』
電話の奥から、兵士の悲鳴と何か重いものを叩きつけたような音が・・・!
ネビル「おい、どうした!おい、返事をしろ!!くそっ・・・おい・・・」
『ツー・・・ツー・・・』
ただ事ではない、と判断したネビルは、剣を取りました。
ソフィア「ちょっ、どうしたのネビル君!?」
ソフィアが慌てて言います。
ネビル「海賊とは別の何かが宮殿に向かってきているのです!その何かはたった今、門兵を襲った模様。至急排除せねば!
    ・・・ジャン!ジャンはいないか!・・・あの馬鹿、外出中か。ならば私一人でも!」
ソフィア「ネビル!」
ネビルはソフィアの呼び止めに応じずに、部屋を出て行ってしまいました。

・・・舎長室にはフェルとソフィアだけが取り残されます。
ソフィア「メルビルは・・・どうなってしまうのでしょう・・・?」
内心ネビルの手助けに行きたいのは山々なのですが、フェルをここに一人にしておくわけには行きません。
ソフィアの顔に、みるみる絶望が露わになっていきます。
ソフィア(ネビルの手助けに行くべきか・・・それとも舎長の傍にいるべきか・・・)
ソフィア「しゃちょ・・・ん?」
ソフィアがフェルの方に向き直ると、フェルは窓の外をぼうっと見つめていました。
ソフィア「舎長・・・」
フェル「鳥だ」
ソフィア「へ?」

ソフィア「鳥が・・・やってくる・・・」



「全艦、全砲門用意!!発射!!!」

ズドン!ズドンズドン!!ズドドン!!!

何十隻もの軍艦が、一斉に火を噴きました。
霧を砲弾が突き破り、けたたましい音がサンゴ海を包みます。
しかし、ドラゴンには当たらない!幾重もの砲弾はただ空だけを切り裂き、遥か上空で爆発します。
コルネリオ「くそっ、お前らよく狙え!!蚊を打ち落とそうとしてるわけじゃないんだぞ・・・ギャーッ!」
ドラゴンの電撃のブレスが軍艦を襲います。
バファルの栄光を示す帆に火が移り、また一つ軍艦は火に包まれました。
コルネリオ「非難ー!隣の艦に移れ!!」
コルネリオは、冷や汗をだらだら流していました。声もひっくり返っています。
兵士「コ、コルネリオさん!電話です、宮殿から・・・」
兵士の手の中で、コードレス電話がプルルルル、と鳴っています。
コルネリオは「ええい、よこせ!」と、奪い取るように電話を手に取りました。
コルネリオ「コルネリオです!悪いが今大変なんです、電話は控えていただきたい・・・って、」

「メルビルが海賊に襲われて、宮殿も何かに襲われてるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!???????」

兵士達「なんだって!?」

ホーク「なんだと!?」

コルネリオの大声は、レイディラック号にも届いてしまいました。
「やれやれー!」と叫んでいた海賊達の声がやみます。
ゲラ=ハ「キャプテン、もしかして・・・」
ホーク「ああ。ブッチャーの野朗だ!!」
一斉に「なにーーっ!?」と叫ぶ海賊達。
ホーク「ブッチャーの野郎、俺もバファルも利用していやがったのか!・・・大した悪党だぜ!」
ホークは、拳を強く握り締めました。
海賊達も、口々に「ブッチャーの野郎!」とか「ふざけた真似しやがって!」と言っています。
ホークは拳をボキボキと鳴らすと、言いました。
ホーク「おい、おめえら!ここはこのドラゴンにまかせて、メルビルに行くぞ!!」
海賊達「おーーーーーーーーーぅっ!!!!!!」
ホーク「最高速度で行くぜ!!ゲラ=ハ。進路の確保を頼むぜ!」
ゲラ=ハ「はい、キャプテン!」
ドラゴンによって破壊された軍艦の隙間から抜けるレイディラック号。
舵を手にするホーク。全速力で・・・目指すはメルビル!

「逃がすか!!」

ドォン!

バファルの軍艦から放たれた砲弾が、レイディラック号の船体を深く抉りました。
爆発が巻き起こり、船全体にとてつもなくでかい衝撃が走ります。
ホーク「ちぃ!レイディラック号!我慢しろよ・・・もう一踏ん張りだぜ!」
ホークの意思もむなしく、レイディラック号の動きは止まってゆき、徐々に沈んでいきます。
ホーク「レイディ・・・レイディ!!!」

コルネリオ「あの海賊め、ぬけぬけと逃げ出そうとしやがって。だが、船を失えばもう逃げられまい!うわははははは!!」
電話を片手に高笑いするコルネリオを、ドラゴンが強くにらみつけました。
コルネリオ、兵士ともどもの動きがぴたりと止まります。
ドラゴン「アンタ。男の決意を邪魔するんじゃないよ!」
ドラゴンが尻尾を勢いよく振るうと、恐ろしいほどの暴風が船を襲いました。
兵士「ぎゃーっ!嵐だーーーっ!?」
既に5隻も残されていない軍艦に向けて、ドラゴンの口から電撃のブレスが吐き出されました。
紫色の電撃が、軍艦を軒並み巻き込んでゆきます。
兵士達はパニックになっていました。
兵士「どうしますどうしますコルネリオさん!?このまま僕達死んじゃう〜」
コルネリオ「ええい、もうドラゴンは諦める!非難、非難だ!!」
火に包まれたバファルの軍艦から、ボートが次々と海に放り込まれてゆきます。
これは一種の降参宣言でしょう。ドラゴンは身を翻し、本格的に沈もうとしているレイディラック号に近づきました。

海賊「ド、ドラゴンンンン・・・」
ゲラ=ハ「何という威圧感か・・・」
ホーク「・・・!」
気圧されている海賊たちに、ドラゴンは言いました。
ドラゴン「アンタ、メルビルに行きたいんでしょ?連れて行ってあげるよ。背中に乗んな!」
海賊達「!!」
ドラゴンが背中を向けました。
しかし、海賊達は躊躇して乗ろうとしません。
海賊「キャ、キャプテン・・・大丈夫なんですかね?ドラゴンの背中なんかに乗って・・・」
ゲラ=ハ「全ての判断はキャプテンに委ねます。どうしますか?」
ホーク「・・・・・・・・・」
ホークは、顎鬚を引っ張りながら考えました。
沈むレイディラック・・・こうした状況に追い込んだブッチャー・・・
ホークは、決心しました。
ホーク「おーーーし、おめぇら、乗れ!!ブッチャー達に引導を渡してやろうぜ!!」
ホークのその声に、海賊達は待ってました、とばかりにトキの声を上げました!
海賊A「よーし、一番乗りは俺だ!」
海賊B「ドラゴンの背中に乗るなんて初めてだなー」
海賊C「当たり前だろ!」
ドラゴン「ちょっとアンタら・・・あははは・・・・」
ホーク、ゲラ=ハ、海賊達は次々にドラゴンの背中に乗ってゆきます。
全員背中に乗り、ドラゴンは大きく翼をはためかせました!
海賊「う、うおーーっ!?スゲーーー!!」
ドラゴンはどんどん高度をまして行きます。
どんどん遠ざかる海。レイディラック号が沈んで見えなくなってゆきます。

ホーク(・・・今までありがとよ、レイディラック!)

ドラゴンは、しっかりメルビルの方角を確認すると、霧の中を突っ切るようにして進みました。
初の体験に海賊達は大はしゃぎでした。
海賊「俺たちゃ海賊!!俺たちゃ海賊!!」
ホーク「おーい、誰か酒もってねーのか?」
ゲラ=ハ「どうぞ、キャプテン。」
ホーク「お、気が利くじゃねーか!よーし、飲むぜおめーら!」
海賊達「おーーーっ!!」
ゲラ=ハ「・・・・・・こんな不安定なところで飲めるのですか?」

ホーク海賊一行、目指すは・・・ブッチャーの待つメルビル!



ブッチャー「盗め!壊せ!暴れろ!ハッハー、思うがままだぜ!!」

メルビル1階の広場は、まさに地獄でした。家には火が放たれ、非難する生徒には海賊が襲い掛かります。
警備隊も海賊達を倒そうと必死に頑張りますが、多勢に無勢。海賊の圧倒的な数には敵いません。
数少ない警備隊たちも一人、また一人と海賊の餌食になってゆきます。
ブッチャー「はっははははは・・・・・・」
生徒達の誰もがメルビルの終焉を予期していました。
恐怖が、苦しみが、絶望が・・・メルビル寮を支配しています。
生徒も・・・警備隊も・・・誰もが全てを諦めかけていた・・・その時です!!!


「なんだ! このおんがくは!」


メルビル中の人間が口をそろえて言いました。
悲鳴と炎の音を掻き消して、超大音量の音楽が、メルビルを包みました!
まさに燃え上がるような、パンチの効いた曲・・・
みなうろたえている中、どこからか声が聞こえてきました!

『み、皆の衆!!!!私が来たからには、もう安心だ!!!』

拡声器で増幅されたような声がメルビルに響きます。
ブッチャー「な、なんだ!?ど、どこにいやがる!!」
海賊「上だ!!」
生徒達も海賊達も、みな一斉に上を向きました。
メルビル2階への階段の頂上に、
赤いマスク、羽をあしらった耳飾り、蒼のマント、黄金の鎧を身に着けた、一人の人間が立っていました!
ブッチャー「な、なんだアリャあ・・・?」

生徒「アルカイザーだ!!」
生徒「ヒーロー、アルカイザーだ!!!!サントアリオ星から僕達を助けにやってきたんだ!!」

ブッチャー「あん・・・?」
『アルカイザー』と呼ばれる人間は、再び叫びました。

『そ、そう、だだ、誰が呼んだか、私の名はアルカイザー!!
海賊どもよ!!月に代わってお仕置きだーーー!!!!』

ヒーロー、アルカイザーは海賊達に向かって思い切り指を突き出しました。そう。宣戦布告のポーズです!
生徒達みな期待の目でヒーローを見つめている中、ブッチャーは、ハッ!と笑い飛ばし、言いました。
ブッチャー「けっ、おい、おめえら!!あの変態野郎をやっちまえ!!」
海賊「お、おおーーー!!」
いささかうろたえていた海賊達は、ブッチャーの声で一斉に『アルカイザー』に襲い掛かりました。
アルカイザー『悪人どもよ、ヒーローの力、そして正義の力、とくと思い知れ!!必殺、アル・ブラスター!!』
アルカイザーの体から無数の光点が噴き出し、海賊に襲い掛かりました!
海賊「ぎゃっ、ぎゃーーー!!!」
光の弾丸に打ち抜かれた海賊達が、どんどん階段から転げ落ちていきます。
アルカイザー『おらおらおらー!!カイザーウィング!カイザーウィング!!カイザーウィング!!!』
海賊「ぎゃぎゃーー!!強えーー!!」
アルカイザーの発した風の刃が、襲い来る海賊達を切り裂き、退けさせました。

生徒「いいぞー!アルカイザー!!」
生徒「やれー!!海賊倒せーー!!」

アルカイザーのあまりの強さに生徒達は沸き、ブッチャーは焦りを覚えました。
まさかここまでやるとは思っていなかったからです。
しかし、相手は一人。
ブッチャー「おい、相手は一人なんだ!!一斉にかかれば勝てないわけが・・・」
「ここで助っ人参上よ!!」
ブッチャー「!!??」
またアルカイザー、海賊以外の声が聞こえてきたかと思うと、3人の人間がメルビルの四方からやってきました。
海賊「え、え????」
一斉にアルカイザーの方へと向かおうとしていた海賊達が、うろたえています。
うろたえている隙に・・・
ディアナ「海賊、成敗いたす!!」
タイニイ「さぁ、いくぞ!」
アディリスちゃん「うひゃ〜〜〜っほ〜〜〜ぅ!!!」
海賊「ぎゃーーーーーーーっ!!!!!」
アルカイザーが、ディアナが、タイニイが、アディリスちゃんが、海賊達を圧倒していきます。

タイニイ「おい、火が広がってきてるぞ!どうする!?」
タイニイが海賊を槍の柄でつっつきながら言います。
アディリスちゃん「火かぁ・・・んぢゃま、コレね!!ちゃらららっちゃら〜〜ん」
アディリスちゃんは、杖で海賊達を小突きながら、ポケットから青く光る腕輪を取り出しました。
タイニイ「ちょまっ、それ雨雲の腕輪じゃないか!水竜からパクって来たな!?」
アディリスちゃん「こういう時を想定してたからよ。さ〜て、消すぞー」
タイニイ「・・・・・・」
アディリスちゃん「それっ!!」
海賊「ぎゃーー!」
アディリスちゃんが雨雲の腕輪を一振りしたら、でかい術のクジラが海賊達を巻き込みました。
アディリスちゃん「わ〜〜、すご〜〜い」
タイニイ「え・・・それそうやって使うのか・・・?」
アディリス「それっそれそれっ!!」
燃えている家に向かって雨雲の腕輪をフリフリするアディリスちゃん。
雨雲の腕輪から呼び出された水が、町の炎を瞬く間に消してしまいます。

ブッチャー「・・・・・・な、なんなんだあいつらは・・・!!」
海賊「せっかく燃やしたのに・・・」
海賊達の顔は恐怖に染まり、生徒達の顔は希望に染まってきています。
たった4人の活躍によって、先程と見事に状況は一変していました。
ディアナ「我が力見たかー!我が力見たかー!(ドコン、ドココン、)」
見る見るうちに無事に立っていられる海賊達の姿は減っていきました。
タイニイ「ふう・・・これでもうこの町は大丈夫だな。」
アディリス「そうだね〜・・・それにしてもアルドラちゃん・・・何だかんだ言ってノリノリね・・・」

『うりゃーうりゃーー!!一人連携、アルアルアルアルアルアルアルアル・ブラスター!!!!あははははは!!』



それは『アルカイザー』が助けに来たときの1分前のことです。

”ようやくついたぞ、しかし、もう大分やばいな・・・早く助けに行かねば!”
”行こう!ディアナ!アディリス!タイニイさん!!”
”ちょっと待って!それ!”
”ん?またなにか・・・アディリス・・・わっ!”
”うっ・・・アルドラとやらよ、その姿は一体・・・”
”アルドラ、何その悪趣味な・・・”
”正義のヒーローアールカーイザー!!
 テーマ曲だってもうエロちゃんに作ってもらってんのよ!!ほら、スタンバイOK!”
”ちょま、てめー、何をやらせる気・・・”
”海賊に襲われ、希望を失った民!しかしそこにヒーローは大きな希望と共にやってきたのだった!ん〜、いいじゃない。”
”よくなーーーい!!”
”危機感を持ちなさい!”
”だからこそ早くすませなきゃ、いい?
 コズミックタイドを使うときは『アル・ブラスター』って叫ぶのよ。ウィンドカッターを使うときは『カイザーウィング』ね。”
”どういう仕込みだよ!!”
”前口上ですべらないでね。じゃ、『戦え!アルカイザー!』スタート!(カチッ)”
”ぎゃーー!!もう引っ込むに引っ込めねーー!!”
”じゃ、グッドラック。あとで助太刀するからね。ほら、ディアナ、鳥、来なさい。”
”・・・やれやれだ。”
”ちょっ、どこ行くのー!?く、くそー、こうなりゃヤケクソ!”

ってな事があったのでした。



アディリス「さて、もうそろそろフィナーレね!」
海賊の大半は倒れ、既に海賊のボス、ブッチャーとその数人の親衛隊しか残っておりませんでした。
ブッチャーが屈辱にわなわなと震えています。
タイニイ「あとは、お前らだけのようだな・・・海賊のボスよ・・・」
ディアナ「観念しなさい!」
アディリス「あたし達に勝てるかしら〜〜?」
アルカイザー『メルビルを襲い大量の生徒を恐怖と混乱に落としいれたその所業、許すわけにはいかん!覚悟しろ!』
アディリス「・・・じ〜っ、」
アルカイザー『あっ!』
あっという間に海賊達をのした、4人のヒーローに追い詰められ、ブッチャー達はたじろぎます。
親衛隊(ねぇ〜・・・ブッチャー様ぁ・・・とんずらこいちゃいますよぉ・・・)バキッ、「ああう!!」
弱音を吐く親衛隊を、ブッチャーは殴りつけました。
ブッチャー「クソが!こんな奴らにここまでやられてくやしくねぇのか!大体今退いても俺たちゃどこに帰るんだよ・・・  
            おい、変態共、てめえらが覚悟しろ!!」
親衛隊「ブ、ブッチャー様ぁ〜〜」
アディリス「どうにもやる気のようね・・・んぢゃ、ちゃちゃっと始末して・・・」

「ブッチャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

みんな「え???」
それは突然の事でした。
生徒も、海賊も、みな4人のヒーローに目が釘付けで、誰も気がつかないのでした。
何よりも大きい、青空に浮かぶその影、翼、逆光に照らされしその銀鱗。
それはまさしく・・・

みんな「ドラゴン〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!????????」



場面変わってエリザベス宮殿。
城に残っていた10人にも満たないわずかな親衛隊と、ネビルが黒い影と戦っています。

ネビル「大丈夫だ。一体一体は雑魚に等しい・・・何体いるかはわからんが、勝てるぞ!」
ネビルの剣が、黒い影を真っ二つに切り裂きました。
二つに分かれた黒い影は、そのまま何も残さずに消滅しました。
兵士A「どうやらモンスターとかでは無く、何か魔力の集合体のような物のようですね。」
兵士達も、斧で黒い影をざっぱりと切り裂いていきます。
ネビル「とりあえず、何者かの人間の仕業という事だろう。海賊の仕業とは思えないな・・・」
ザクッ、ズバッ、
美しい太刀筋で次々に影を切り裂くその様はまさに芸術のよう・・・
兵士B「大分落ち着いてきましたね。すぐに警備隊の手助けにいけそうです!」
ネビル「そうだな。」
兵士C「ネビルさん、ネビルさーん・・・」
後方から、兵士が一人ネビルの名前を呼びながらやってきました。
ネビル「来たか。どうだ?舎長とソフィア先生は無事か?」
兵士C「はい、ご安心を。・・・あと、海賊の方もご安心を!警備隊から連絡がありました。
     どうやら4人組のヒーローが現れて海賊どもを一網打尽にしているらしいです!」
ネビル「ヒ、ヒーロー?」
ネビルは怪訝な顔をしました。彼の言っている事がよく理解できなかったのです。
兵士C「はい。・・・とにかく、海賊からメルビルは救われます!
    あとはこの変な影だけ。助太刀いたします!」
兵士A「メルビルは救われるのか?やったーー!よーし、死ね、黒い影!」
朗報に、兵士達のモチベーションは更にあがりました。
恐るべき速さで黒い影を切り裂いていきます。
ネビル「これでメルビルは救われるのか。よかった・・・それよりも、コルネリオ様はどうしたんだ!
     帰ってきたら奴は何週間かの謹慎処分にしてもらわんとな・・・」

黒い影の数は著しく減っていきます。
既に黒い影の底はみえてきていました。



マックス「ちぃっ!!」
マックスは苛立ったように魔方陣を何度も踏みつけました。
靴に擦れ、黒いペンキの塗料が剥がれ落ちます。
マックス「やはり俺一人の力ではこの程度の騒ぎしか起こせぬか・・・!
     そもそも一生徒の力で宮殿を破壊するというのは無理もあったか・・・」
魔方陣を踏みつけるのをやめ、マックスはため息をつきました。
テーブルの上の鏡の中で、鷲鼻の男と兵士達が黒い影を切り裂いています。
マックスは黒い魔方陣を再び足で消そうとしました。・・・その時です。

「ゴ、ゴ、ゴブリン、ゴ〜ブレ〜ンジャ〜♪♪」

マックスは入り口の方を見ました。
・・・人間とは思えない、小さくコロコロした生物が四匹、入ってきているのです。
モンスター・・・
ウサギのように長く後ろに垂れた耳、くちばしの様に突き出ている口、無愛想な目つき。・・・ゴブリンだ!
マックス「ど、どっから沸いてきやがったゴブリンめ!」
マックスはゴブリンをにらみつけながら、術の構えを始めました。
それを見たゴブリンの一匹は、恐らくマックスに向かってこう叫びました。

ゴブリン「我々はお前と戦う気はナイ!取引しに来たのダ!」

マックス「!?」
ゴブリンがしゃべった!
マックスは面食らいながらも、素直に術の構えを解き、言いました。
マックス「取引だと?ゴブリンごときが人間相手に何の取引だ!」
ゴブリン達は既にマックスの目の前までに達していました。
あまり背が高いわけでもないマックスの半分にも満たない大きさです。
ゴブリン「まぁ、まずは我々の自己紹介を聞いていいただきタイ。」
半ば片言な感じでゴブリンはそう言うと、四匹共々奇妙なポーズを取りながら、何か言い始めました!

薄緑色のゴブリン「ディガー!!」
深緑色のゴブリン「ソルジャー!!」
黄色のゴブリン「メイジャン!!」
青色のゴブリン「ナイト!!」
「4人合わせて〜・・・」

「ゴブレンジャー!!!!」

・・・・・・・・・・・・

恐らくコレがデパート屋上とかのヒーローショーだったならば、この後割れんばかりの拍手と声援が彼らを包むのだろうな。
だが、残念。俺はお前らに拍手も声援も送る勇気はないよ。

マックスが頭の中で一人そう言っていた所に、黄色のゴブリンがマックスに言いました。
メイジャン「さて、本題に入るカ。まずは我々のリーダーから話を聞いていただきタイ。」
マックス「リーダー?誰が?」
マックスがそう言った直後の事です。

メイジャン「ぅはうっ!!」

突然、まるで電撃が走ったかのようにメイジャンの体が痙攣しだしました!
マックス「え、はっ!?」
びりびりりりと体を反らせ痙攣させるその様は、まさに何かホラー映画のような不気味さをかもし出しています。
数秒後、メイジャンはギョクンと体を起き上がらせました。
その直後、メイジャンの青く光っていた目玉がぐるりと回り、突然緑色に光りだしました!
マックス「?????」
痙攣は止まり、メイジャンは先程は打って変わって流暢に話し出しました。

「いや〜、お待たせしちゃいましてゴメンなさいね!ビックリした?ビックリしたでしょアハハハ!!
こんにちは〜、そして初めまして!僕の名前はゴブリンセージで〜〜っす!」

マックスの頭は更に混乱しました。
先程まであんなに片言だったゴブリンが突然こんな・・・
・・・取り付かれたのか?
セージ「いやぁ〜、アレですね。タイミングよすぎですよ!僕も貴方も!
    これも神の思し召しって奴ですかね。うふふ、まぁ、そんな事はどうでもいいんですけどっ!」
マックス「そうだ、全く持ってどうでもいい!・・で、取引きとは?」
セージ「簡単な事ですよ。貴方が今やっていた事を、僕達にまかせて頂きたい!!」

マックス「・・・は?」
セージ「・・・ビジネスライクー!!・・・とか、ギブ&テイクー!!・・・とか言うんですかね?
     とにかく、まぁ、アレですよ。貴方の仕事を僕達が代わりにやってあげる、というのです!」
マックス「・・・なんだと?」
貴方の仕事・・・と言うと宮殿を襲わせて欲しいとでも言っているのだろうか。
マックスは首を傾げました。
マックス「言っている意味が良く理解できないのだが。」
セージ「あーもう・・・まったく、バカですねー」
マックス「なんだと!?」
セージ「どんな理由かは知りませんが、あなたはあの黒い影を呼び出してメルビルを混乱に陥れようとした。
    でも、力不足で今まさに水の泡になろうとしている。
    ・・・この僕が力を貸してあげれば、水の泡にならなくて済むんですよ!
    あなたの計画は成功するんですよ!
    ・・・あなたがバカじゃないのなら、このまま諦めるか僕に任せて計画を成功させるか、
    どちらがよいか分かるはずです!」
マックス「・・・・・・・・・・・・」
マックスの頭の中に、コルネリオが映し出されます。マックスは心の中で呟き始めました。
サルーインちゃんに振られたもの同士、傷を舐めあうようにしてお互いのプライドを支えていた。
同じ苦しみを味わい、お互い支えあってきた・・・無二の親友、コルネリオ。
・・・でも奴は・・・

裏切った!!あいつは俺達よりもサルーインちゃん側に手を貸した!
あの変態め。結局は女か。性欲か。ふざけるな、コルネリオ。
今度はサルーインちゃんでは無く、そのミニオンか。
サルーインちゃんの腰巾着の下僕のミニオンに媚びるというのか。
プライドも糞も無い汚い犬!なにが『バファルは俺のものだ』だ!ふざけるな!

・・・・・・
マックスは心の中でひたすら叫ぶと、ゆっくりと言いました。
マックス「わかった、全てお前に任せるぞ、ゴブリンセージ。」

セージ「さっすが理解が早ぁい!!では、モチロンこちら側が出す条件も飲んでくれますよね?」
マックス「・・・なんだ?言ってみろ。」
セージはマックスの周りをふにふに歩きながら、言いました。
セージ「貴方の計画が上手い具合に成功したのならば、
    今後とも僕達の協力をする、という事を約束してください。
マックス「は?」
セージ「それぐらい当然の事でしょう?まぁ、『成功したら』の話ですけどね。
    もしも『失敗したのなら』僕達に力を貸す必要はまったくありませんよ。」
マックスは怪訝な顔でセージを見つめました。
マックス「・・・つまりお前らの下僕になれというわけか?」
セージ「ん?あっははは!そんな事はありませんよ。僕達はあなたに力を貸してもらうのです。
    ・・・まぁ、モチロン断ってくれてもかまいませんよ?その代わり貴方の計画は水の泡ですがね・・・
    あなたがバカじゃないのなら、分かるはずでしょう?あなたがバカじゃないのなら・・・」
マックス「黙れ!・・・わかった。お前の条件を飲む。だから早くしろ!」
半ば怒り気味にマックスは言いました。
セージは緑色の目を光らせ、にやりと笑った後言いました。
セージ「うふふ、さすがですね、決断がお早い。では、ちゃちゃっとやっちゃいますか!」
セージはどこからか銀色に光る杖を取り出しました。
セージ「実は僕も主君に仕えている身でしてね、これは主君からプレゼントしてもらった杖なんです。」
ペンキが剥がれかけている魔法陣の中心に立つセージ。
セージ「霊木、って知ってます?ず〜っと昔・・・学園を襲った意思のある木です。
     この杖は、その霊木から作られた杖なんですよ。」
セージは霊木の杖をくるくると器用に回すと、魔法陣の中心に杖を突き立てました。
セージ「この杖には、意思をも作ってしまうほどの霊木の魔力が、溢れんばかりに詰まっています。
    ・・・僕自身は大した魔力は持っていませんが・・・これの力なら・・・」
霊木の杖から黒い魔力が広がっていき、セージを包んでいきます。
マックス「すごい・・・」
マックスも自然と冷や汗が出てしまうほどの凄まじい魔力です。
セージは静かに目をつぶりました。

魔方陣が輝いたと同時に天井が歪み、穴が現れます。
それと共に、無数のモンスターが黒い影に乗って天井の穴を抜けてゆきます。
・・・物凄い光景でした。
マックスは既に言葉を失っていました。

セージ「・・・これで、宮殿は大混乱。あんな少数の兵士では到底抑えきれないでしょう。
    これで僕の役目は終わりました。・・・では、もし『成功したのならば』また会いましょう!」
マックス「・・・・・・・・・・・」
役目を終えたセージとゴブレンジャーは、神殿を出て行きました。
神殿の入り口からゴブリン達がみな消えた時・・・マックスは大きく口元をゆがめて笑いました。
マックス(何がなんだか分からぬが、よくやったぞ、あのゴブリン・・・!コルネリオめ、今に見ていろ!!)



セージ「ふぅ〜、疲れた。汗拭けっ!っつってもメイジャンの体だから別にいっか〜」
人気の無い下水道を、4匹のゴブリンが並んで歩いています。
ナイト「セージ、なんでこんな事をさせたんダ?あんな男下僕にした所で役に立つのカ?」
セージ「まぁ、役にたたないだろうね、絶対。」
ナイト「立たないのカヨ!」
セージ「所詮、少し邪術、闇術に心得があるくらいのいたって普通の人間さ。
     まぁ、でも捨て駒という意味ならば役にたってくれない事も無いかもね。
     成功すれば僕に利用され捨てられる。失敗したならバファルの連中に捕まる。
     どっちに転んでもいい未来は無いわけだ・・・実力の無い奴ほど哀れな者はいないね。」
ディガー「リーダー、じゃあ、ほとんど意味の無い事をしたんじゃあ?」
セージ「意味はあるさ。今、外では面白い事が起ってるんだ。
     ヒーロー、アルカイザー・・・4寮長アディリスとタイニイフェザー・・・ドラゴン・・・」
ソルジャー「4寮長?なぜ4寮長ガ?」
セージ「さぁ〜〜ね。単なるヒーロー気取りなんじゃないか〜?」
ディガー「本物のヒーローもいるジャン。」
セージ「本物のヒーローっつっても単なるコスプレだろ。まぁ、実力があることには変わりないんだけど・・・
    まー、とにかくお手並み拝見にはいい機会だ。実力の程がしれればいくらでも手段は練れるからね。
    それに運がよければ風のオパールも手に入っちゃうかもかも?」
ディガー「・・・ところで、セージ、あなたなんでいきなり勝手に動く気になったのサ?」
セージ「ふん。デモコマ様の態度が気に入らなかったのさ。まぁ、当然の事だろうけどサ・・・
     僕は僕なりの手柄を立てて、奴に誰がマスターに一番信頼されてるのか、
     そしてなぜそうなのかを教えてあげなきゃいけないよ。
     ・・・うふふ、水戸黄門って知ってるかい?あんな感じさ。」
ナイト「意味がよく分からないんですケド・・・」
セージ「さて、食事の時間だ。んぢゃま、まったね〜〜、(ブツン!!!)」
目の光が、セージの緑色からメイジャンの青色に戻りました。

・・まだ、メルビルの危機は終わりません。


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